トリガーコントロール              

       

現在の射撃理論、とりわけ導入時に採用される考え方でのトリガーコントロールは2段引きのトリガーを使用することが前提となっている。張力は70-100g程度が主流であり、現在市販されている競技用ライフルの引き金機構では150g以上の設定には不向きである。それ以上重くしたい場合はテンションスプリングの交換などの問題も浮上するし、それほど重くする必要もない。かつてスプリング式が主流だった時代では(1980年以前)、トリガーのシアに強大な圧力がかかる構造になっていたので、その抵抗力としてのトリガーの重さが150g以上と決められていた時代もあった。現在のトリガーでも最終的に絞り込んだ時点でのシア接点にかかる圧力は1平方センチメートルあたり3トンを越える。(調整により数100%の開きがある)あまりドライに過ぎる調整は不安定を引き起こすのは明白である。ファインベルクバウ603以降(写真右)で硬度の低いシアパーツセットではキャッチリンクが長くパーツそのものの曲がりや”がた”で撃発時の“落ち”の感覚が不安定なものも存在する。そのような場合はややウェット目の調整もやむを得ないし、極端は例外として、ドライ・ウェットの差は技術的には容易に克服できる。
1段目の重さは撃発の準備と安全のためのものであり、2段目との張力の比率は概ね1:3〜1:2であろう。1段目の比率が高すぎるとトリガー張力のコントラストがはっきりしないし低すぎると2段目の張力を重く感じる。
遊び(1段目のトリガーシューの移動距離)の大きさの調整は多分に好みに左右されるが、大きすぎると人差し指の動きが大きくなりすぎて不注意発射の原因となり、小さすぎても同様の結果となる。一般にはその大きさは3〜6mm程度でよいであろう。
トリガースラック(引き味=2段目の位置から撃発に至るまでのトリガーシューの移動量=シアの最後のかかりの量)は一般的には小さいほうが良い。感覚的にはドライな(切れの良い)引き味になるが、スラックを小さくしすぎるとボルトを下げただけで発射してしまったり、トリガーシューを軽く横方向に押しただけで発射したりして危険である。なるべくドライにしかもその状態でボルトを叩き落しても発射には至らない調整を標準としたい。
撃発ではトリガーを斜めに引いてもそれだけが原因で銃口が横揺れするようなことはないが、常に真後ろに引いたほうが安定した撃発が期待できるので自分のグリップ、指の長さを考慮してトリガーシューの取り付け位置を決定する。トリガーは人差し指の第1節、第1関節または指先で真後ろに引く。
『暗夜に霜が落つるごとく』引くトリガーコントロールは伏射の場合を除き現在の競技用ライフルのトリガーコントロールとしては誤りである。この引き方では自分の揺れの範囲内のどこかにしか着弾を期待できず、絶対的な据銃能力を得なければ10点は続かない。トリガーは10点を続けるためには“引く”のであり、潜在意識が自動化した技術として照準行為そのものが命令して引くのである。換言すればトリガーは『絞りきる』のではなく、『なるべく絞っておいて10点で引く』のである。据銃能力の高い射手であれば、第1段(遊び)を引いておき、照準が良くなりそうなときに一気に引いても差し支えない。勿論撃発にいたる指先の力は最小限のものであることは当然である。さらに上級射手の立射の場合は遊びのないダイレクトトリガーで積極的にセンターを狙いに言っても良い。
トリガーグラフ
図1は遊びを引いた後徐々に絞っていくコントロールである。伏射では採用できるが立射、膝射では競技用ライフル銃を使用する限り誤りである。300mスタンダードライフルでは採用の可能性が残るがどんな一流射手も現在ではこのコントロールは採用していない。20年以上前の射撃理論で主流を占めた方法であるが、現在では射手の据銃能力の飛躍的な向上と、射撃コートの性能向上により技術としては採用される理由がなくなった。
図2は第1段を引いた後ある程度絞っておき、良い照準が得られれば引くと言う方法で3姿勢のどの種目でも採用すべきコントロールである。10点に銃口が入ってきそうなときに積極的に最後の加圧を行う。
図3は第1段を引いた後一気に引き落とす方法で比較的軽いトリガー(70g以下)を使用する。初心者はまずこの方法をマスターした上で図2の技術に進化させてもらいたい。筋肉コントロールの優れた射手であれば600点までこの方法でよい。この方法は多くのチャンピオンたちによって採用されている。
図4はプレッシャーリリース法と呼ばれるもので、照準がよくなると絞っていき、照準が悪くなると絞りを中止し、最終的には10点で激発するというコントロールである。銃口の動きがコントロールされた射手のみが採用できる方法であるが、一般的には据銃が長くなりがちでしかもファーストチャンスを逃してしまう場合も多いので勧められない。得てして図5のような結果になりがちである。
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