このメモは2004年アテネオリンピックに向けてのナショナルコーチであった,ラズロー・スーチャック氏の千葉県ライフル射撃協会での講習会の質疑応答を記録したものです。(提供:千葉県ライフル射撃協会Tさん)

質疑応答

 2004.6.6

回答者 ラズロ・スーチャック コーチ

 

1 射撃ズボンの使用は禁止されますか?

アテネのプレオリンピックの際の最新の情報では、射撃用具のルールは北京オリンピックまで変更されないというものです。ルールの実施については、例えば硬さのテストはもっと厳しくなるでしょうし、もっと適切な運用が望まれます。

 

 フロントリングは小さい方が良いのか、多きい方が良いのか?

古いソビエトの本などでは、小さいほうが良いと書かれているが、フロントリングの大きさは、自分にあった自分に適した心地よく見える大きさが良い。

一般的に69cm銃身では3.2ミリが標準と言えます。重要なのは、リングの大きさではなく照準精度の問題です。10.5の照準ができても、実際の得点はそれより低くなる。

(柳田選手は銃身長99cmで4.5ミリを使用している)

世界選手権レベルであっても、69cmの銃身に2.5mmを付ける選手も、4.0mmを付ける選手のどちらも居ます。もちろんその大きさは、射場の状況や明るさ、銃身長によって決まります。延長チューブを付ける場合は、延長した長さに比例して大きくします。

リングと標的を同時にはっきり見ることはできない。リングをはっきり見るよりも、リングと標的の間に焦点を合わせることが必要です。

 

3 標的への明るさが変化するとき、フロントリングとリアアイリスをどのように調節したらよいか?

標準的な明るさを基準にして説明します。

フロントリングの標準的な大きさは3.2ミリ(銃身長69cm)くらいでしょう。このときのリアアイリスは1.0から1.1手度が良いでしょう。1.0以下では照度が不足し、錯覚を招きやすくなります。1.2以上ではピントが合いにくくなります。

暗くなったときは、フロントを3.5くらい、リアを1.2-1.3程度にします。

明るくなったときは、フロントを3.2、リアを0.9-1.0程度にします。しかし、それ以下にはしません。まぶしさを抑えるには、カラーフィルターか偏光フィルターを用います。偏光フィルターは、陽炎にも有効ですから、標的がまぶしいときに常に使用することを薦めます。

 

照準する目としない目へ入る光を抑えすぎると、瞳孔が開きすぎる結果となります。特にしない目へのブラインダーは、明るく小さいものにしてください。風旗も見えます。

 

4 延長チューブの有利と不利はありますか?

有利性

1.     延長チューブは光学的な状況を良くして照準の精度を上げます。フロントサイトが通常の距離より前に行くので、フロントサイトのシャープさが良くなります。射手にとって、照準の確信度が簡単に上がります。

2.     銃身が前重になるため反動が小さくなります。

3.     反動がやわらかく音が低くなるため、丁寧なトリガリングを可能にさせます。

 

不利

1.     重量増加により疲れを早く招きます。

2.     たいていの場合、銃身との適合性が難しく、さらにもっと難しいのは弾丸の選択です。

3.     正しく装着しないと、試射を不正確にする。

4.     さらに硬く確実な装着を必要とする。

5.     狭い射撃場では、延長チューブをぶつけて問題がおこる。

 

5 練習では良い点数を出せるのだが、試合になると点数が落ちます。どうしたらよいでしょうか?

あなたは練習中に、本当に上手く撃っていますか?時々1シリーズの良い得点が出るでしょうし、練習の平均得点が同じだけかもしれませんが、その良かった一つを覚えているだけではないでしょうか?そのイメージは現実的でしょうか?

あなたは、試合や大会を目標とした練習をしていますか?はっきりした目標を持ってください。ただ、弾丸を発射するだけの練習を継続していると、試合で当てようとして練習と異なる方法をとってしまいます。それは、緊張ではなく、10点への欲がそうさせるのです。練習の目標を持ってください。

 

6 練習の最も重要なまたは効果的な方法は?

常に、自分の練習目標・目的を知ることです。だんだんと上手くなろうとするために実弾をたくさん撃つだけでは不十分です。大会で目指すことを目標にして練習すべきです。

良い姿勢作りとは、最小の筋肉緊張で作られます。リラックスを誤解しないで欲しいことは、筋肉の使用をゼロにすることではありません。プロンでは、固い姿勢をつくり維持する最小の筋力が必要です。立射・膝射も、ほぼ同様です。

 

精確な発射をするために求められることは:

1. 長く安定した据銃

1.1 姿勢。身体のイメージ

1.2 筋肉緊張、一定性

1.3 据銃の持続性

2. 良い方向

 2.1 照準精度

 2.2 姿勢の方向(自然祖点)

3. 動きのない撃発(銃口を動かさない)

 3.1 撃発の流れを明確にイメージする

3.2 撃発した瞬間にリラックスしてしまう、あるいは人差し指以外の体の部分が動く無駄な動きに気づく。プロンで右肩が動く。

 3.3 撃発段階の据銃の普遍性

4. フォロースルー(最低でも0.2秒)

 4.1 トリガーリリースによって心理的および身体的反射をしない

 4.2 反動によって心理的および身体的反射をしない

 4.3 音によって心理的および身体的反射をしない

4.4 発射時の銃口の動きから情報を得る

実行内容のフィードバック。発射時の照準映像、銃口の動きの方向、強さ、復旧位置などから着弾位置を予告する。予告と実際の着弾位置の違いを分析。

反動と音によって余計な動きに気づかないならば、空撃ちを。空撃ちは、練習目的すべてを完全に行う必要がある。

練習中の目標とそこまでの手順を完全にこなして次へ進む。

 


射撃間の使い方(流れ)

発射後

@ フォロースルー 前記4

A 前の発射の分析・評価

B 次の発射への切り替えと休憩

C 自分の準備(体と精神面) 頭の中でチェックリスト参照(身体各部の位置、筋肉緊張、脈拍等。そして精神的準備)

D 良いイメージ造り。良いやり方をイメージする。

E 前記1から3。銃を止め照準・撃発。トリガリング、フォロースルーへと。

 

重点目標例:セルフプレパレーション、トリガリング、フォロースルー、反動への対応。

射撃の流れを同じリズム、同じ時間で実行する。各分析項目がうまく行ったかを書いてみる。

 

 

7 メンタルトレーニングとは何ですか?

メンタルトレーニング、それだけでは何の意味もありません。

射撃の基本(据銃、姿勢、照準、トリガリング、フォロースルー)ができていて、試合ではいつもと同じことができない人に有効かもしれない。上がった、緊張したときに深呼吸して落ち着き、リストを1からやり直せばよいのです。

※ 自分自身の内なる状態に気づく

  緊張を止める・・・・落ち着く

  対処できる

  ミスをする前に気づく

これらが重要です。私はこれ以外に特別なトレーニングは教えていません。

 

メンタルトレーニングにはさまざまなレベルがあります。もし、緊張したときに数回の深呼吸をすることによって緊張を止められるのであれば、すでに普通の精神的技能を持っています。

少し上のレベルの射手は、血圧と呼吸回数を精確に読み取りそれを静めることができ、最適な集中のためにそれらを制御します。もうちょっとレベルが上の選手は、心の中から余計な事柄をなくし、するべきことのみに集中を維持できます。それによって彼らは、良い照準映像とトリガリングになることをしっています。

単純な出来事に何ができるか?何をしたいか?良いやり方をイメージしてください。自分の望む良いトリガリングは何か?良いフォロースルーはどんな感じがするか?

そこで、1つ:良いやり方の精確なイメージを持ってください。

 

@ AUTOFEN Training

心拍数を下げる。余計な考えを抑える。数週間から数ヶ月の訓練が必要。今ではあまり使われていない。

A MENTAL Training

  大会での場面を想定し、どう対処するかを訓練する。

  次のような試合の流れの練習を。

・ 大会形式の訓練(厳しい自己管理の中で採点射撃)

・ 数人の競技

・ クラブ(協会)内の大会 (国体予選)

・ シーズン中の目標とする重要な大会

これらは上から順を追って体験し習熟する必要がある。省略してはいけない。

 

8 射撃中に集中すべきことは何か?

射撃の流れの中であなたがすべきことすべてをスムーズにかみ合わせることです。その他にはありません。熟練した方法でやってください。

不要で混乱を招く事柄を考えないでください。試合のプレッシャーは自然なものですが、その結果は悪いだけではありません。

7で述べた試合の流れの練習をしてください。それによってやり方を学べます。

 

ジュニアや初心者にとって、早期に学んだほうが良いことは何ですか?

@ 良い姿勢

A 姿勢と据銃

B 満足できる照準映像(完璧な照準映像ではなく8点でよい)

C 撃発の良いイメージ

D やる気、動機付け。選手を勇気づけて!

E 多くの試合へ出場

初心者は、良い姿勢と良い撃発テクニックを身につけるべきです。訓練の規律と運動選手としての生活も学ぶ必要があります。

 

10 射撃には、身体的なトレーニングが必要ですか?それはどのような種類で程度は?

身体的な健康、体調を良くして維持するために必要です。またスタミナをつけることも必要です。エアロビック、ジョギング、水泳などが良いでしょう。

体を一方に曲げたままにする立射では、特に背骨への負担を軽減し、傷害を防ぐために腹筋と背筋のトレーニングが必要です。

ボディビルディングやウェイトリフティングなどの筋肉強化は薦めません。それは、筋肉を硬くして感覚の繊細さをなくし、筋肉が覚えた強さや位置を忘れさせてしまいます。

 

11 試合中に上がってしまったときは?

次の撃ち方を練習してください。

       半自動的な流れの中での撃発

       大事な場面での撃ち方

さあ、上手く撃たなきゃ、と思ったとき、頭の中が真っ白になる。

そんなときは、もう一度、すべての流れを確認しながら、やり直す。

その緊張は、ずっと続くわけではない。アドレナリンは一定量しか放出されない。やがてなくなる。

深呼吸⇒ 頭がはっきりしてきた⇒ 良いイメージ造り⇒ 不安が再燃⇒ 待つ⇒良いイメージ造り⇒ 流れを確認しながら、進む。

 

実際の試合で練習するしかない。

 

12 中学生から射撃を普及させたいが、何が必要か?

(この部分は、メモを取っていないため記憶に頼るのみ)

私は、日本の射撃界では、ジュニアの育成から大学へ進める道筋ができていることは良いと思っています。しかしながら、大学における射撃指導がまったく行われていないあるいは非常に貧弱だといえます。各大学とも小さな試合に勝つことだけを目標にしています。そのため、大学を卒業したら射撃に興味を失って、みな銃を売ってしまいます。国際的な選手をつぶしています。たくさんの選手たちが、国際大会へ出る素質を持っているのに。

これはひとつの方法論ですが、もし可能であれば、何年間か限定でも良いのですが、JOCのお金でコーチを雇い、大学で射撃指導ができたらそれらの問題がなくなると思います。また、指導を受けた選手が次はコーチになろうとするでしょう。大学を卒業した後の就職もほとんど考慮されていませんが、こうしたコーチを大学が雇えるようになれば、選手の強化にも就職にも役立つでしょう。

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