赤外線射撃訓練装置を使用したライフル射撃のトレーニング     

1 射撃姿勢の安定性

射撃姿勢の安定性を評価するもっとも大きな基準は射手の照準映像の動きの様子ですが、従来その評価は内的感覚の安定性統合されて「止まりが良い」といった表現で表されてきました。レザーシューティングアナライザーが使用されるようになって以後その様子はコーチにも観察できるようになり、据銃の範囲が物理的に標的上のどのあたりを移動しているかはおおむね掌握できるようになりました。

ノプテルやスキャットでは銃口の指向点がPCのモニターの標的の上にラインとして表示され、撃発点を弾痕として表すことにより据銃、照準、撃発を観察しています。(図1:スキャットより)赤外線装置ではこの弾痕の表示画面は実際のトレーニング中最もよく利用される設定ですが、銃口の指向方向の座標と、単位時間の間の移動量を計測することによりそれらがさらにさまざまな形で表示できるようになっています。

また銃口指向点の動きを標的センターを基準にして、横方向、縦方向のセンターからの距離を時間軸に沿ってグラフで表示します。デフォルト状態でノプテルでは撃発前4秒間、スキャットでは1秒間、カートでは5秒間の銃口のセンターからのずれを表示してくれます。(図2:ノプテルより、右写真はノプテルの銃身装着ユニット)

    

X-Yグラフは射手の姿勢を評価するにあたり、相当の情報をコーチに与えてくれます。その最も基本的なものは、それはライフル射撃の姿勢の構築の基本に関するものですが、Y軸(縦)方向の銃口の移動の軌跡です。どの姿勢でも骨格による銃のサポートが完成されていると射撃の照準段階ではY軸方向の動きはその方向性(銃口指向点の高さ)では10点の位置に留まることは必須事項といえるでしょう。そのために射手はリラックスを追求し、さらに良いフォームやセッティングを研究しています。たとえば図2のグラフはエアー・ライフルの上級者一例ですが、Y軸方向の撃発前4秒間の動きは完璧にセンター圏で推移しています。(水色がY軸線です)射撃の方法により必ずしもその時間にこだわる必要はないでしょうが、少なくとも上下の照準誤差を筋の仕事としてコントロールしている射撃は、それぞれのレベルで姿勢の安定性の追及という目標からはかけ離れた作業です。X-YグラフのY軸方向の近似曲線の評価は姿勢の骨格サポートへのバロメーターとも言えるでしょう。

図3-Aは50m立射の実例ですが、Y軸グラフ(太線)が上下に大きく動揺しながら撃発点に至っています。図の下方の白いマーカーの間1こまが1秒間ですから10点の高さにわずか0.5秒間しか銃口が向いていません。

       

この例の実際の銃口指向点の軌跡と撃発は図3-Bのように表示されますが、この射手の場合銃の上下方向のコントロールを背筋に頼っており、左ひじの腰への乗せ方とパームレストの上下方向の調整で平均点が83点から88点台(スモールボア・ライフル)に向上しました。

X-Y軸グラフがコーチに与えるもうひとつの基本情報として、その姿勢のリラックス度があげられます。とりわけ立射におけるY軸方向のグラフ線の平滑性は姿勢のリラックスの完成度にほぼ比例していると言えるでしょう。実はスキャットやカートではグラフに表示される単位時間あたりのサンプル数が少なくて(かなり荒い射撃でもスムーズな線で表示される)この点の観察は事実上不可能ですが、ノプテルではリラックスの度合いがかなり顕著に観察できます。さらに撃発前8秒のそれぞれの1秒区切りの時間内での動きの大きさの平均も表示されます。

動きのスピードの収束状況はカートやスキャットでもスピードグラフとして表示されます。これらの情報は1回の撃発についてそれが姿勢の安定状態のなかでの(銃が止まりつつある間)の撃発であるかどうかを表示します。ノプテルではシリーズの平均値も表示できます。またデータ数値をエクセルに出力して据銃能力に関する技術的変化を時系列で観察したり、データベース化することも可能です。

 実際の訓練では射手は撃発リプレー表示モードを中心に装置を使用するわけですが、それだけでは射場へ行ってただ弾を出していることと大差ありません。若干の経験は必要ですが、パーフォーマンスの中身を観察して課題や目標を見つけることに費やされる努力や時間は1日のトレーニングかそれ以上に相当することは容易に想像できます。

射撃姿勢の安定性に関して赤外線射撃訓練装置では、装置そのものは単なる測定器でしかありませんが定量的に姿勢の持つ安定度を観察するには非常に適した機材であるといえるでしょう。空撃ち訓練の場合は撃発した座標を表示するので実際の弾痕とは位置が異なります。フォロースルーが完璧であるほどこの位置は近づいていく点も頭に置いてください。

多くに人は機材の使用で訓練が成立するものと誤解をしている感がぬぐえませんが、実はトレーニングは人が人に対して行う行為であり、たとえば技術的な目標が無ければ、今持っている技術をいかに発揮するかの調整訓練を毎回実施しているにすぎないことを今一度考えていただきたいと思います。その技術的目標はリプレー画面のなかに存在するか、そのなかに隠れていることは確かであるのですから。


2 据銃状態の観察

 赤外線射撃訓練装置の訓練では指導者が射手の据銃状態を理解し、その定量的評価や進歩の記録が可能になります。(一部の機種ではこの機能は装備されていません)また銃口の指向点の移動スピードも数値やグラフで表示されます。

 据銃状態そのものについての観察の基本は撃発直前の数秒間における銃口の指向点の移動量と移動方向でなされますが、その評価にあたっては射手がどのような射撃を目標としているか明確であること、或いは射撃の技術的要素についてやや深い知識があること、が必要になってきます。赤外線射撃訓練装置が射撃のシミュレーターの域を出るかどうかは使用者の射撃の理解度によって左右されると言っても過言ではありません。

たとえば姿勢の基本であるボーンサポートが完成されていると、リラックス状態ではどの姿勢においても銃口指向点の上下移動は各技術レベルにおいてそれほど大きいものではないはずです。ボーンサポートに成功している状態で撃発直前の銃口指向点の上下移動が大きい場合、それは姿勢の重心点の移動や内的姿勢のリラックス度の不足が想像されたりします。伏射ではセンターを狙った状態で銃を静止させるので撃発前数秒間の銃口指向点の重心(COG)の平均位置は中心に近い位置にあるはずで、特に意図した照準形態を採用する一部の上級者をのぞき、COGの値はその姿勢の持つ照準精度を示唆します。

 今回はノプテルでのリプレー画面を例に据銃状態を観察してみます。(実際はカラー=総天然色です)

図1は50mの立射の例ですが、軌跡は撃発前4秒間を表示しています。撃発直前の1秒間は白い線で表示されます。(以下同様)銃口指向点を観察すると10点を中心にぐるぐる回転しているのが見て取れます。このことは銃の重量の腰への懸かりが不充分で据銃そのものに改善点があることを示唆しています。このような据銃状態ではさらにトレーニングが進み銃の安定が向上したとしても撃発には過大な集中力が要求され、プレッシャー下での撃発は困難を極めることが想像されます。

            

図2はボーンサポートに成功している据銃例ですが、一目瞭然のように撃発前4秒間の銃口の指向方向の上下移動がほとんどありません。特に撃発直前の1秒間の上下方向の移動範囲はセンター圏より小さくなっています。左右の動きの範囲は図1の例とほぼ同じなのですが(ノプテルの解析数値では単位時間あたりのX方向の移動量はまったく同じであった)図1に比べて図2の据銃のほうが射撃がより易しくなる事は否定のしようがないでしょう。リラックスや撃発など、射撃技術のさまざまな指導内容はほとんど全てボーンサポートの達成が前提として語られていることを考えると、各レベルでの据銃の観察・評価・改善は赤外線射撃訓練装置の最も得意とする分野だと言えるでしょう。

     

上グラフは撃発前4秒間の銃口指向位置の推移を表示していますが、Y軸方向では4秒間の間常に10点圏内の高さを保っていることが理解できます。骨格によるサポートが不充分だと困難な作業でしょう。

 図3は初心者の伏射の例ですが、上下調整の段階が最終照準段階と一致し、中心でリラックスする据銃の最終段階が極端に短い様子が伺えます。エアー・ライフルの立射から50mの伏射に転向した直後の射手によく見られますが、センターを照準しながらリラックスすることにより銃を静止させる標準的な伏射技術とはかけ離れたことを実行しています。標準=正しい、ということは必ずしも真理ではありませんが、このレベルの射手としては伏射の概念が理解できていないと評価して良いかも知れません。

   

図4も同じく初心者の伏射ですが、この射手のばあい標的の中心を照準して撃発チャンスを得ていることは明らかです。銃口指向ラインは4秒間の表示ですから4秒間は10点のチャンスが続いていることが観察できます。実は据銃の数値は最後の1秒間に関しては図3の射手のほうが優れているのですが、このままトレーニングを続け据銃能力が向上した場合にどちらの射手が高得点に到達するかは明らかです。図5は上級者のノプテルのリプレー画面の例ですが、図4の射手は図5の射手に比べて技術的に劣っているものの、その射撃の基本は共通するものであることが理解できます。

      


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