陽炎とその実態
 
射手にとって陽炎はしばしば“標的が見づらい日”として視認できる。肉眼で気が付かなくてもスコープで標的を見た際気づく場合もある。300mではとりわけ晴天時で陽炎のない日はめずらしいといえる。陽炎は空気の密度の差や空気中の水分による光の屈折率の相違によって起こる現象であるが、雨の後など地表が湿っていて気温がぐんぐん上昇するような日に頻繁に観察される。春、夏は朝と昼の気温の差が大きいので季節的に陽炎が起こりやすい時期であるといえる。冬季は日本では空気が乾燥しており陽炎の発生は少ない。
陽炎を観察するには50mの場合スコープの焦点を標的手前約10mのところに合わせる。そうすれば陽炎の流れと標的面の弾着が同時に観測できる。ただし過剰に倍率の大きいスコープの場合は視野が狭くてそれは困難である。スモールボア・ライフルの場合スコープの倍率は25-40倍程度が標準である。
風の無いときは陽炎は真上に向って流れる。(ボイリング)また陽炎の流れ方によって風の強さも推し量ることができる。とりわけ300m射撃では風旗の間隔は100mおきであるので陽炎による風の観測が重要なテクニックのひとつになってくる。換言すれば陽炎は目に見える風であると言える。しかし陽炎のみからでは風の吹く方向を読み取ることはきわめて困難であるので風旗の状態も同時に観察する必要がある。また陽炎は風速約5m/sを越す風の場合我々の目には見えなくなってしまうし、日本の射場の条件では3m/sで消える場合が多い。(こんな日は風がやや強く吹くほうが易しいとも言える、ゼロイングするコンディションの選択は重要である)
風が常時吹いているような日に陽炎が真上に流れたときは注意が必要である。多くの場合それは風向きが大きく変化する前兆であり、照準中に条件が変化してしまう可能性が高い。
陽炎現象について射手がよく理解しておかなければならないことは、陽炎自体がサイトを変えてしまうことである。陽炎は光の屈折現象であり、標的は陽炎の流れる方向にずれて見えるからである。陽炎の出る日では我々は標的の虚像に向って照準していると言っても過言ではない。
陽炎が真上に立ち昇る日は(時は)多くの射手はマイクロサイトを1-2クリック下げる必要があるだろう。また陽炎が横に流れるときは、弾着修正は風による変移に陽炎による光学的変移の量を加える必要がある。最も厄介なのは風速1m/s程度の微風時であり、風だけでは弾着は目に見えるほど変化するはずはないのであるが、陽炎の効果で9点を撃ってしまうことがある。微風時では風のエネルギーよりも標的映像の光学的移動量のほうが大きい場合も多い。風が吹きしかも陽炎が流れる日に急に太陽が雲に隠れたとする、太陽が隠れたため陽炎の流れは止まってしまう。この場合弾着はどうなるであろうか。そのままでは陽炎による虚像を狙ってゼロイングしてあるサイトで、陽炎が消えたあとの実像を照準することになる。すなわちマイクロサイトを1-2クリック風の吹いてくる方向へ戻す必要が生じるのである。
陽炎の立つ日は即ち晴天である。陽炎の立つ日には偏光フィルターが有効であると言われているが、乱反射している光線を整流するためには論理的である。同じ減光フィルターを使用するなら偏光ガラスが良い。
陽炎の立つ日に射撃をする場合、陽炎を完全に読み取ろうとする試みは不可能に挑戦しているようなものである。陽炎はそれ自体がゆらゆらと定まらないものであるので、サイトを覗いたときの照準映像を解析しようとする試みは、その試み自体非論理的である。風を読む有力な要素として肯定的に捉えたほうが好結果を期待できるであろう。
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