メンタルプログラム 射撃中に集中する技術的方法としてメンタルプログラムを一例としてあげておく。結果として射手の持てる能力の多くを出せれば競技は成功であるが、多くの才能に恵まれない射手の集中方法として参考にされたい。 メンタルプログラムは同じ動作の正確な繰り返しを目的とする射撃をより正確に実行するため、1発の動作の流れと、それに伴う意識のなかでの思考の流れを一致させることである。射撃動作の一つ一つの段階と頭の中で考える事柄を一致させ、より正確な実行とプレッシャー対処を目的とする技術である。 基本的に実射の際、意識が考えている事柄が変化すると潜在意識が引き出してくるデータが変化するので、同じ結果を高確率で実現するにはいつも同じことを考えて射撃を行うのが得策である。そしてそれは10点を得る技術のことでなければならないが、ただ“10点を撃つ”と思うだけでは効果は少ない。しかしそれでも毎回様々なことを考えるよりも安定したパーフォーマンスを引き出せるであろう。より効果的な集中を求めるにはメンタルプログラム(以下プログラム)を組む。これは撃つ直前に10点を撃つリハーサルを行い、かつそのリハーサルに合わせて射撃の各動作を流してゆくことである。このリハーサルは射場外で実施するメンタルリハーサルに比べより技術的なものが対象となる。銃を構えながら10点を撃つ感覚を得、更に気持ちを攻撃性に富んだものに高揚させて、『絶対に10点を撃つ』という強い意志で射撃を行うように、しかも毎回同じように考えられるようにする。 10点のことを考えて撃つということは、10点の技術を追求した射撃を行うことであり、“9点以内で引く”とか“飛ばさないようにしよう”といった考え(あながち間違いとはいえないが)で撃ったのでは10点を追求することにはならない。初心者に対しては若干の言葉の修正は必要であるが、10点は積極的に取りに行かなければ向こうからは来てくれない。従ってどのようなレベルでのハイパーフォーマンスの実現にも10点を撃つ闘志は必要である。 ここではプログラムの一例をあげるが、その実施には自分でのアレンジが必要である。その際基本的に踏まえることは10点を取るという積極性と、それにもと基づく10点を取るための技術の諸段階に対する集中である。 @ スターティングポイント プログラム(集中作業)をどの時点から開始するかを決定しなければならない。この開始以降、頭の中の映像(集中対象)は一方通行で流れてゆく。射撃競技中、全般を通じて常時集中することは不可能であり、仮に可能であるとしても不必要で、エネルギーの損失も大きいので良くない。射手は撃発のたびに集中のレベルを若干下げ、再び高めるリズムを覚えなければならないが、そのリズムの開始点がスターティングポイントである。通常ボルトを締めたときにプログラムをスタートさせる。 A フィーリングを得る この前10点を撃ったときのフィーリングを思い起こし、思考の流れの方向付けを行う。頭の中に完璧な撃発ができた直後の満足感を思い起こし、これから撃つ10点を感じるのである。10点を撃ち終わった直後の自分の姿や、センターに穴のあいた標的を映像化しても良い。 B 10点を撃つ技術のリハーサル ここでは頭の中で完璧な技術をアクションの順を追って思い起こすとともに、同時にそのフィーリングを持ったまま据銃を行っていく。チェックは上級者では各段階それぞれ1回で必要かつ充分で、2度も3度も気になるときはプログラムの打ち切り、即ち据銃動作のやり直しを意味する。例えば左腕のリラックスを頭の中でリハーサルしながら実際にその技術を実現しようとするもので、トレーニング中から訓練しなければマスターできない。マスターしてしまった後は映像的にリハーサルが流れてゆくのでその実行にはほんの数秒しか時間を要しない。 C 10点を撃つ決意 気持ちを高揚させて絶対に10点を得るという態度を得る。気持ちを高ぶらせるのではなく1回目の10点の映像で撃発ができるように攻撃的になることが目的である。サイトのアライメントを確認する段階でこのイメージを持つ。 D 撃発にいたるイメージ この段階は集中の最終段階で、自分の理想とする10点照準のイメージをそれにいたる過程も含めて考え続ける。実際に照準行為を実施しながら行っているので、そのイメージが得られたときには弾丸は自然に発射されており、そのイメージが自分の据銃の許容時間内に得ることができなかったり、照準以外のことがイメージに進入し始めたときは銃を下ろしてプログラムを最初からやり直す。例えば最終イメージが照準を対象とされている場合に、引き金に関する注意がイメージに進入してきた場合等は即座に射撃を中止するべきである。 @〜Dまでのメンタルプログラムの一例を紹介したが、プログラムはいつも同じ考えで射撃を行うための道具であり、プログラムをトレーニングなしで行おうとしても困難であろう。プログラムが完全に実行できる射手は、プレッシャーや前の発射の得点が次の撃発に影響することは一般の場合と比較して非常に少ない。プログラムを技術として定着させるには射場でのトレーニング時は勿論、自宅での空撃ち練習でもトレーニングしなければならないであろう。勿論トレーニングの初期や姿勢の改良後はこんな余裕は無いかもしれないので、試合期でのトレーニング課題となるであろう。 多くの射手はプログラムの組み方は知っているが、完全に実行している射手は非常に少ない。なぜならそれは面倒なことであるからである。また逆に10点が続いているようなときは第一段階からプログラムを実行する必要もない。そのような時はテンポ良くその波の中で10点を得るべき時期で、プログラムのC〜Dだけで充分であろう。特におかしい場合Bの段階から繰り返せば良い。3姿勢の場合プログラムは当然違った形になる。 プログラムの効果は大きな試合になればなるほど表れるものであり、向上を目指すものはほんの少しの努力が必要であることは覚悟すべきであろう。 ホームルームへ戻る |