技術トレーニング概論
 
現在の日本のレベルが暫く変わらないとすると(2001年現在1990年と比較するとエアー・ライフルでは向上、スモールボア・ライフルではレベルが低下している)、弾と銃を購入し週に3日間の実射トレーニングを4年間行えば、10人に1人は一流と呼ばれる域に達するであろう。実際現在活躍している選手の多くはこうした努力を積み重ねてきた人々である。残りの9人の人々は努力が報いられることなく終わってしまうか、途中であきらめてしまった人々である。このことは何十年も繰り返されてきた事実である。
楽しみで射撃を行う一般射手の間でも、同じトレーニング量をこなしてある射手は90点を撃ち、ある射手は80点しか撃てないという現実もある。
多数派である一般射手のほとんどは上達しない理由として、素質の無さとか自分が射撃には不向きであるといった事柄を挙げる。しかし逆に、一流射手の中に自分に素質があると思っている人は意外と少ない。多くの上級射手は自らを省みて、人よりは多くの練習を積み、人よりは計画的にトレーニングを積んだことを自覚している。
トレーニングは目標と計画、そして計画の実行がなければトレーニングとはいえない。射撃場に行き弾を込め10点を狙って引き金を引くだけでは、それは毎回その日の調子を見ているだけであり、運がよければ上達するし(A)、運が悪ければ上達曲線のプラトー期が早期に表れ(B)、いわゆる一般的な射手のまま何年もその状態が続き、ついには射撃場にも姿を見せなくなってしまう。上達の過程でプラトー期はだれしも経験することであるが、少なくとも計画的に目標を持ってトレーニングを行ったものは、ただ実射を繰り返して上達してきたものに比べプラトー期も短く、しかも最終的な到達点が高いこと(C)は経験的に誰もが納得するものである。


ここではトレーニング計画を立案する上での基礎事項として、トレーニングの種類とそれぞれの目標とすべき技術的な注意事項に触れておく。
 
@       据銃トレーニング   (具体的には各姿勢のお教室で勉強してね)
据銃練習は射撃の基本である。質の高い射撃を行うにはまず堅固な姿勢と安定した銃のコントロールを学習しなければならない。生まれて初めて伏射姿勢をとり、いきなり薬室に弾を込める等は愚の骨頂であり百害あって一利ない。多くの一般的射手はこのようにして射撃を始めるが、これでは自衛隊の陸士教育のほうが全く合理的である。どの種目でもその人のレベルにおいて自らコントロールできる狙点の範囲を得ることが第一である。その狙点の範囲内でその上に技術を積み上げていくのであるから、スポーツ射撃を行う人と、上達を願うサンデーシューターにとって姿勢を作り上げる作業をスキップしていては射撃の上達は望めない。またトレーニングのクールの初期では銃のコントロール範囲の向上という目標がクリアできなければ、同じことを毎クール繰り返すことになる。
初心者にとって射撃姿勢は生まれて初めて経験する特異な姿勢である。射手はまずその特異な姿勢に慣れ、毎回同じ姿勢が取れるようにトレーニングしなければならない。この時期は外から見た目に見える外的姿勢を物理的観点から完成させるべく努力するのである。元来外的姿勢は射撃技術を構成する技術要素の中では最も重要な範疇には属さないが、毎回違った構えをするようでは当然のことながら、最も重要な筋肉の緊張、バランス感覚、内的姿勢の一定化を学習することが困難であるので充分な時間と注意を持って姿勢を研究する。先ず理解すべきことは、自分の姿勢のチェックポイントは内的姿勢にあるが、内的姿勢は外的な形状に基づいているという事実である。その基づくものが変化するようでは綱渡りのロープの上を歩くようなもので、できる人はいるが多くの人には困難が待ち構えていることは疑い様がない。
上級者が実際射撃を行う際に自分の姿勢をチェックするチェックポイントは自分自身の内的感覚である。姿勢変更直後や初心者のうちは、例えば立射の両足の開きをミリメートル単位で計りながらチェックすることも推奨されるが、ある程度トレーニングを行った後は、外から見える格好よりも自分自身の感覚が姿勢の良否を決定するスケールであることを理解して欲しい。そしてその内的感覚の等しい姿勢=内的姿勢を完成させるための道具がノートとペンであることは言うまでもない。当たった時の標的は後日何も教えてくれないが、当たったときの内的姿勢に関する記述は後日射手の助けになる。
シーズンオフの設定などで長期間トレーニングを休んだ場合なども、初期トレーニングとして据銃練習を行う。銃やコートを変更した場合も同様である。チャンピオンを目指す人たちにはシーズンオフとは試合のない時期をさすが、その時期は道具を改良したり、姿勢に工夫を加える時期であり据銃練習が中心となる期間であるといえる。
据銃練習とは具体的にフォームをとり、そのフォームにたいする内的感覚を潜在意識に覚えさせることであるが、一度銃を構えてその状態を維持するのは1分以下である。全くの初心者の場合、体を射撃に慣れさせる目的もあるので長時間据銃の実施も理論的根拠があるが、筋肉感覚のマイナスの学習も考慮すると、その時間は3-5分以下であろう。内的感覚にその焦点が移った後では、筋肉バランスを感知しようとする新鮮な感覚を長く持続させることは生理的に不可能であり、ましては1分を越える長時間据銃で標的を狙ったり、最後に引き金を引くのは悪いバランスで無理やり銃をコントロールしようとすることであり、誤ったトレーニング方法である。エアーピストルで1発ごとにグリップを握りなおすことは、この点では1シリーズ銃を握りっぱなしで射撃するより正確性に優れている。多くの射手はこの点大いに誤解しており、例えば590点にも達していない射手が伏射で肩づけを外さないで装填して、照準、撃発を繰り返している。これでは何時までたっても580点である。このような技術は60回同じことが繰り返せる技術が付いたときに初めて有効性が出てくるプロ用の技術である。
据銃が確実に毎回同じ感覚でできるようになるには数年かかるかもしれないが、現実的には何年も据銃だけを行うわけにも行かない。妥協して次の段階へ進んでいくわけだが、その妥協点は、自分の据銃姿勢と銃が自然に向く範囲、即ち自然狙点が形成(向上)されたときと理解したい。
次の段階では据銃を決められた方向、即ち標的に合わせていくことである。このことは据銃能力を正しく標的上に表現する能力であるといえる。初期段階では標的そのものよりも広い範囲での方向付けを行い。順を追って黒点に合わせるようにする。目を閉じて自分のバランスで銃が落ち着いたと思われたとき目を開けてみる。立射では的枠の中央付近に、伏射と膝射では標的紙のなかに銃が向くことを目標にしたいが、その事だけでパーフォーマンスが決定されるわけではないので、努力目標と捉えて欲しい。
据銃にあたっては、まず自分の良い姿勢を充分時間をかけて探す。このとき標的に合わせようとするのではなく、自分の内的感覚に集中しなければならない。自然狙点が得られたら次にそれを標的にむけて上下左右に分けて一度ずつしかも少しずつ修正してゆく。姿勢を修正した結果良いフィーリングが失われてしまったら、もう一度初めから自然狙点を求めていく。このトレーニングは次の空撃ちトレーニングの前提となるもので繰り返し練習を重ねたい。
 
A       空撃ちトレーニング
弾を入れずに引き金を引く空撃ち練習は競技として射撃を行うものにとって、とりわけ週に1-2度しか実射のチャンスのない社会人にとって最も重要なトレーニング手段である。まず空撃ちトレーニングによりトレーニングの総量を増やすことができる。更には反動のない空撃ちトレーニングでは自分の射撃をサイトを通して観察することが容易であり、特に実射と空撃ちを交互に実施すると効果が高い。射撃では不随意な動き、とりわけ撃発直前の筋バランスの崩れや撃発動作中の銃の振りを排除したいのであるが、空撃ち練習がこれらの目標に最も合致したトレーニングである。
空撃ちトレーニングの欠点は、実射に比べ10点を撃ったときのイメージを潜在意識に送りにくい点である。そして長所は9点や8点の失敗もそれほど強くインプットされない点である。良い撃発ができたときは必ずそれを復習し、失敗したときはそれを無視するという態度を身に付けることで空撃ちトレーニングは密度の高いものになる。
空撃ちトレーニングの技術的目標の第一に挙げられるのは、撃発動作の自動化である。全くの初心者の場合、初期のトレーニングでは標的は不要である。方眼紙や白紙を利用して自分の据銃の最も安定したときに勝手に引き金が落ちるように技術を自動化させる。引き金を引く行為そのものは非常にやさしい。多くの射手が犯している過ちは(特定の上級者は除く;ダイレクトトリガーは多分に意識的アクションである)、立射や膝射のトリガーコントロールを意識で行うことであり、10点を見つけてから引き金に注意が移行している。これでは遅すぎる。10点の映像は引き金を引くスイッチのような働きをしなければならず、換言すれば10点の上を銃口が移動してゆく直前に発射が完了されなければならないのである。(据銃能力によってそのタイミングは若干異なったものになるが)言葉にすれば非常に高度な技術のように思えるが実際にトレーニングを積むと、それはフィードバックを通して自動的に身についてくる技術であり、その技術を発揮させるのがメンタル技術である。空撃ちは上級者になればメンタルプログラムなどの意識内での技術と組み合わせて行うべきであり、実際に射場に実射している状況をリハーサルで頭の中に構築できれば更に質の高いトレーニングへと進化するであろう。スキャットやノプテルが使用できれば興味深いトレーニングが実施できるし、ノプテルでは撃発から表示までのタイムラグを設定できるので使いこなせれば有効なツールとなる。
 
B       実射トレーニング
どのような方向につけ射撃技術の進歩や停滞に最も大きな効果を与えるのが実射である。競技を理解していない人々にとって射撃のトレーニングとはこの実射を意味する。実射トレーニングはもっとも重要であるが、実射だけで一流になるには良い指導者と運が必要である。
初心者の間は撃てば撃つほど得点は上昇するが、早かれ遅かれその上昇は止まってしまうか一転下降に向う。明確にしておかなければならないのは、実射にはトレーニングとしてプラスの要素とマイナスの要素があるということである。点数の伸びが止まったときは、概念的にはプラスとマイナスが均衡を得たときである。この時期には実射の数を減らすか中止し、空撃ちトレーニングで自分の欠点を改善していかなければならない。停滞期に数多くの弾を消費するのは経済的に無駄であるばかりではなく、マイナスの技術をいたずらに強化してしまう場合が多い。ほとんどのまじめな射手はこの状態のときに多数の実射を実施し停滞スパイラルに陥ってしまう。練習を一定期間休んだ直後や、雪国で雪がとけて初めての実射のときに高得点が出る場合がある。これは一般的な現象(レミネッセンス)で非常にだまされやすい。得点が高いため“その気になって”以後やたらと実射に明け暮れてしまう。レミネッセンスはベテランには良く起こるが、練習を休んだためプラス、マイナス両面の技術が忘れ去られ、比率としては一時的にプラスの要素が高まっているため生じると理解されている。躍進のチャンスであるが、技術的にコントロールされなければ再び技術のバランスが元に戻り、前年と同じ状態になる。選手が不調になると意図的に練習を中止し、レミネッセンスの発生を期待する場合もある。その状態にしてから、プラスの要因を増やして技術バランスを改良しようとする作戦である。
実射トレーニングの大原則は『当たるときには数多く、当たらないときには数少なく』であり、『当たるときはそのまま続け、当たらないときは姿勢を変える』ことである。勿論1発や2発の失敗ですぐに中止することはないが、30発撃っても自分の平均点が出ない場合などは何か工夫が必要である。
例を挙げると、立射で90点くらい撃てる射手が、88/84と撃ったとする。この射手は20発後に休憩を入れ再び実射に入ったが3シリーズ目も88点だった。彼はさっさと立射を中止し、膝射に移った。一般的に言って彼の判断は正しいであろう。彼は元来90点の力があるのでそのまま撃ち続けるとそのうち93や94のシリーズが出てくるであろうが、全体としてはマイナスのトレーニングの要素が多くなってしまうであろう。このような日は姿勢を一度変えてその後再び立射に戻るか、別の姿勢で成績がよければその姿勢を続けるほうが論理的である。当たらないからといって頭に血が上り、当たらないまま80発も100発も当たるまで撃つといったことはトレーニングとしては最悪である。仮に88/84/88/92/85/92/89/88/93/94/と推移し最後のシリーズの出だしで8/8/9/7と撃ってやめる…誰にでも経験があろうがトレーニングとして得られるものは93/94の可能性を確認するだけで、技術的には確実にマイナスである。計画を中止したり変更することも実射トレーニングの中では必要なことである。(基本的には採点射撃は試合だけでも良い)
初心者やシーズン初めの実射トレーニングは通常白紙標的から入る。標的を裏返しての実射であるが、目的は銃のコントロールが最も良い時期に弾が出るようなトリガーコントロールの学習・確認と、フォロースルーの強化である。この時期の白紙上でのグルーピングの評価はナンセンスである。実射行為の中で照準による破壊要素を取り除いての練習であるので、白紙は銃口の安全方向の目安と反動確認のための台紙であると割り切ったほうが良い。白紙でもフロントサイトと標的のエッジを確認すれば良いグループは作れるし、本当にそれで集弾するなら黒点を出しても黒点を照準せず標的のエッジで撃発すべきであろう。実際に初心者では標的のエッジ照準のほうが高得点である場合も多い。(一例をあげているだけでこんな照準は練習しなくて良い、念のため)また立射ではフロントリングを外したほうが良いグループを示す初心者も多い。グルーピングがどうしても気になる場合は白紙標的も使用せずにバックストップに向って射撃する。
実射トレーニングの次の段階は、グルーピングである。グルーピングは黒点に向けて撃発する実射であるが、得点の良否にとらわれること無くできるだけ技術そのものに集中できるようにサイトを標的の白い部分に合わせたり、スコープを見ないで10-20発単位で行う撃ちこみ練習である。グルーピング練習の際は、自分の集弾を調べることだけではなく、集弾面積を小さくすることを目標としても良い。テンプレート定規の円などを利用してサイズを計測する方法もある。目標としては例えば立射で7点の円内(50mでは7.7〜10.9の弾痕に相当する)集弾する6発のグループを7枚作るといったものになるであろう。
実射トレーニングの最終段階は、サイトをゼロイングしスコープで弾着を確認しながら射撃を行う採点射である。勿論採点射という名称であるが技術目標によっては得点が評価の対象にはならない場合もある。ともかく試合での射撃と同じ形態で実射を行うトレーニングであるので、最もトレーニング効果の高い練習方法である。
採点射の技術的目標は10点を得ることである。採点射で技術的にプラスになることは10点を撃つことであると理解してもらいたい。初心者では10点はおろか8点でもまぐれでしか入らないという人もいるだろう。そのような技術レベルでは10点を大きくする。初心者の50mでの立射などでは7点圏あたりまで黒マジックなどで塗りつぶしてしまい6点圏まで10点圏にしてしまう。仮にこの射手をレベル6と呼ぶ。とにかくこの射手はレベル6で100点(10発全弾6点圏に入る)を目標とする。その次にレベル7で100点を、そしてレベル8へと進んでゆく。100点で無くとも90%の10点命中率でも良い。このときに“レベル6では100点だけど実は80点だ”などと評価しないことである。この練習の目的は自分のコントロールの下で技術を発揮することにあり、それが可能であれば練習により銃の静止が向上すればそれに比例して得点が向上するという技術的予測にも基づく練習方法であるからである。この練習では本当の得点に対する好奇心との戦いも必要であるかもしれない。時々立射で60点台を連発する初心者もいるが、このような人ほど中心を捉えることだけに集中し、何時までたっても80点も撃てない。このレベルでは油断すると銃口が黒点を離れるレベルであり、オリジナルの10点はおろか9点を狙えるレベルでもない。落ち着いて射撃方法を考えるべきである。
レベル射撃は伏射や膝射でも使用できる。初心者では伏射はレベル8から膝射はレベル7あたりから出発すれば良いとおもわれる。上級者のエアー・ライフルの伏射などは9点のラインを内側から切れば9点とし(これは非常に難しい)その仮想10点率でトレーニングする方法もある。
実射トレーニングの中には試合参加も含まれる。自分の目標としている試合ではなく、それ以前に開かれる比較的小さな試合を意味する。そのような試合では、自分のメンタル的なテクニックの練磨や技術の公的評価を得ることを目的とする。またそのような試合を通じて得点や順位ではなく、競技中のパーフォーマンスを冷静に評価し対処する能力を養成する。
ホームルームへ戻る