このように技術が蓄積されるパターンを再検討していくと、トレーニングがどのようにコントロールされるべきかは明らかである。パソコンのキーを2本指でたたいても(実際にこの原稿はそのようにたたかれている)、実用上文章は作成できるが、その正確性やスピードは正しい指使いをするものに比較して比較にならないくらい劣ってしまう。2本指ではブラインドで文章は打てない。射撃では初心者のうちの自己流がこれにあたり、そのまま90点で停滞期を迎えたものにとって初めから指使いを習い直すのは大きな決意が必要である。導入時に学習すれば楽であることは自明の理である。ブラインドでキーがたたけなければ競技にならない。すなわち最も基本的なボーンサポートやバランスの要件が満たされていないと、進歩する第一要件が欠落しているということである。またどのようなパーフォーマンスも潜在意識に蓄えられるとすると、弾数だけに頼ったトレーニングの有効性は大いに疑われる。何年か停滞しているものにとっては、仮に思い当たれば2本指から10本指への転換は必須事項であり、何ヶ月は初心者メニューの確実な実施は結局上級者への道であるといえる。
C 自己評価(セルフイメージ)
何年かのトレーニングを経て技術的に10点を得る能力が備わった射手にとって、室内の射撃のように外的条件が一定の場合、良い集中ができれば10点が撃てるはずである。潜在意識の能力としては実際に10点を撃つのであるから、10点を撃つための能力はもっている。しかしその能力を60発なり120発の競技の発射弾数全てに100%発揮した人は極めて少ない。一流のレベルにおいても60発の何割かはその得点結果に関係なく潜在意識の能力を発揮できずに終わっている。この能力を何%発揮するかを司るのが自己評価である。
自己評価は自分の能力を絞るバルブの働きをする。このバルブの開閉は自分自身に対する本心の評価、すなわちセルフイメージによりコントロールされる。
例えば自分は全日本選手権で8位以内には入れるかもしれないが、優勝は無理だという自己評価を持っていたとすると、仮に効果的なトレーニングにより潜在意識が優勝に必要な技術的能力を身に付けたとしても、セルフイメージが小さいために能力バルブが充分あかず結局入賞程度に終わってしまう場合が多い。勿論この場合も自分の評価どおりの結果を得ているわけだから本人は満足感を得る。
国際規模の大会を見ても、年代順にチャンピオンになった人を見てゆくと、特定の人がかわるがわるチャンピオンになり、1度チャンピオンになった人が再びチャンピオンになることが非常に多いことに気付く。チャンピオンになれそうな人は大勢いるが、チャンピオンになった人は僅かである。チャンピオンになった人の大半は、自分がチャンピオンになれると思い努力した人たちである。トレーニングを通じて自分はチャンピオンになれるというセルフイメージが形成され、必要にして十分なトレーニングを積んだときに、持てる能力を大きく発揮できるような穴を自己評価のバルブが開けてくれたのである。そしてそのような人々は、1度チャンピオンになると、チャンピオンであるという確固たるセルフイメージが更に形成され、次の試合でもバルブが開き、再びチャンピオンになる確率が高くなる。
このように自分自身のイメージをより高く持つことが、勝つためあるいは自分の設定したゴールに到達するためには必要不可欠である。もちろん中には偶然チャンピオンになった人もいるが、そういう人は何年かすると上位にも顔を出さないし射撃を止めてしまう人が多い。(これは非難されるべきことではないが…)
セルフイメージは換言すれば“本心”であう。セルフイメージはそれぞれの行動または成績の基準であるともいえる。その基準は“本心”に従って自分らしい自分を結果的に表現しようとし、コンフォートゾーンを形成する。コンフォートゾーンは各個人にとってあらゆる分野での“居心地の良い範囲”であり、ファッション、社会生活、スポーツ等にみな全員持ち合わせている。例えば老人が赤いスポーツカーを運転している姿を見て、ある人は不愉快の念を持ち、ある人は羨望の気持ちになり、またある人は影響を受けるであろう。これらの反応も全て各個人のコンフォートゾーンに左右される。
コンフォートゾーンは自分の環境、すなわち育ち方、友人やマスコミの意見、自分の実績により形成される。射撃においては、何点以上撃てれば嬉しいという得点と、これ以下なら腹立たしいという得点の範囲がその射手のコンフォートゾーンであるといえる。例えば立射で90点平均の射手のコンフォートゾーンは、おそらく88点から92点くらいの範囲であろう。この射手の射撃の内訳は概ね次の3つのパターンに当てはまる。
A
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9
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9
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8
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10
|
10
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8
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8
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9
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10
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9
|
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90
|
B
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9
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6
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9
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7
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10
|
10
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10
|
10
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9
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10
|
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90
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C
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10
|
10
|
10
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10
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9
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9
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10
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8
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7
|
7
|
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90
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Aのような点数配分で射撃が流れている間は自分自身安定感がある。ところがBのように9・6・9・7といった得点でスタートすると、セルフイメージがそれを許容せず後半は必死に盛り返し、自分のコンフォートゾーン内の成績まで引き上げる。逆にCのように10・10・10・10といつもよりハイアベレージで射撃が始まった場合、得てして後半崩れ平均的な合計で終わりがちである。よく試合の流れを省みて、“前半は良かったが…”とか“最後に崩れて…”といったことをよく耳にするが、その現象のなかにはこのコンフォートゾーンにセルフイメージが行動をあてはめようと働いた場合が多い。
射撃競技におけるコンフォートゾーンはそのほとんどがトレーニング時の点数により形成される。すなわち採点射撃はセルフイメージにコンフォートゾーンを創造する資料を与えることであり、その積み重ねによりバルブの開閉量が決まる。トレーニングでは採点射撃の状況を冷静に把握しセルフイメージが高まる形態での採点射撃の実施等に注意を向けなければならない。
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