ライフル射撃競技の基本知識      



B ライフル射撃の技術的基礎概念 


射撃の成績を決定する要素については様々な観点から論議されるが、その多くは論点が定まらないもので結論を導くことは困難な素材とも規定される。精神的に優れた強固な意志を持ったものでも銃が止まらなければ100点は困難であるし、銃が動かない技術的上級者においても達成動機がなければ100点はまた困難なものである。

着弾得点がパーフォーマンスの結果とすると、原因はそこに到達する技術の流れの中の多数の過程のなかに特定のものまたは複数のものにあると考えられる。また、我々はその流れの中の個別の要素をトレーニングし、或いはその流れを総合的にトレーニングする場合もある。分習法と全習法の概念、自動化と意識的コントロールの概念もそれらに含まれる技術的要素の理解が乏しければ成立しない。

 本章は競技者の育成の過程で指導者が基本的に理解しておかなければならない射撃の各要素について順次解説するが、あくまでもモデルケースに対しての考察であり、射撃分析の導入であるに過ぎないことを申し添える。


B-1 技術的要素の考察


 一発の射撃行為の流れは、据銃-照準-撃発-フォロースルーで代表されるがそれらの要素が独立して機能することは無い。据銃技術はフォロースルーに至る過程で常時発揮されていなければならないし、撃発と照準は銃が人の手によってコントロールされている限り切り離すことのできない技術要素である。マシンレストに固定してグルーピングを検査する射撃では一連の動作のうち据銃と照準が人の手を離れた状態にあるのであり、したがって10点を獲得するのは容易であるという図式になる。この図式はポジションから射撃をする場合でも同様で、例えば据銃技術の完成度が高ければ高いほど時系列では後半に訪れる照準-撃発フェーズでの技術発揮が容易になるといえる。伏射で銃口の静止に苦労する段階では撃発技術の到達ポテンシャルは低いものであり、競技者のレベルによっては集中的にトレーニングすべき技術要素は当然違った内容になってくる。


 下図(技術要素の時系列での並び)は一連の動作の流れを表しているが、時間経過と共に集中すべき技術要素が追加されるか、または変更される様子が理解できる。据銃から照準-撃発へ集中対象が(A)追加されるべきか、(B)変更されるべきか、という問題は競技者のレベルや姿勢、トレーニングの頻度により考察されなければならないが、少なくとも据銃技術が極度に低い競技者にとって高度な照準技術の発揮(10点内照準)や各技術の自動的な実行を求めることはその目的を明示しトレーニングすることは必要であるが、その結果の判断を得点のみを基準にして行うことの危険性は容易に想定できるものである。指導者は少なくとも各要素に対する個別の理解やそれらの連携に対する理念は持ち合わせている必要がある。


     技術要素の時系列での並び



 視点を変えてれそれぞれの技術要素を総合的に発揮したものが得点(結果)であるとすると、各技術要素はお互いに影響を与えながら結果を創生するとも言える。据銃がよければ中心照準はより容易になり、スムーズな撃発が期待できる。また撃発のエラーは照準や据銃の成功を台無しにしてしまう、といった様々な相関がそこには含まれる。





 トレーニング計画の立案についてはそれぞれの要素のうち、フォロースルーが行為の結果として当然含まれることとすると、据銃-照準-撃発のどの要素に集中的に努力するかを決定することから開始される。またフォロースルーのみに集中することは競技者にとって事前に展開された技術に対する判断能力の醸成には寄与するが、それらの技術の向上に対する効果はそれほど大きくはない。

 トレーニングの指示を言語的に例えれば、

 :銃が止まらなければ何回でも構えなおす

 :真ん中で撃発することに集中する

 :照準を少々犠牲にしてでもスムーズなリリースを実現する


など違った表現があるが、それぞれに集中的にトレーニングされる要素の違いは明確であり、1日の最初のトレーニング集中課題の決定にはその使い分けは重要なものとなる。


 射撃技術の概念を整理すると、一般に各要素のうちもっとも結果を左右するのは据銃である。上級者になればなるほどその結果をもたらす原因になりうる%は低下するが、低下するとはいえ得点を決定する技術要素の第一に挙げられるのは初心者と同様である。


 最高結果が109.0とすると競技者の据銃エラー(据銃能力)の度合いにより据銃結果が決定される。銃の動きが小さい競技者の場合は106点であろうし、初心者の場合は70点であるかもしれない。据銃状態の良否は入門から上級者あたりまでは正比例的に実際の得点と一致するが、一流のレベルでは必ずしもその二つの結果の相関は強くない。据銃結果については初心者にあっては実際の結果がそれを上回ることもあり得るがそれはトリガーコントロールがプラスに大きく作用した場合であって、射撃技術論では評価できることではない。


 照準結果は照準エラーの影響を受けた後の据銃結果の値であり、可能とされる得点は通常据銃結果より低いものである。据銃結果のよいものほど照準エラーの量は小さく、据銃状態の悪いものほどそのエラーは大きい傾向がある。据銃の状態に対して照準結果の低下が著しい競技者には意志力や集中力のトレーニングの必要性が推察される。視力1.0のものは1分の角度を認識できる(0.5は2分、2.0は0.5分)とされるがピープとリングサイトの適正な使用によりおおむね1/3分の誤差は一般的に識別可能とされる。50m標的上での1/3分は約5mm(ファイナル得点で0.6点)に相当するが、実際の上級者の射撃ではこれ以上の識別力を明らかに発揮しているので訓練により精度の向上が実現するものと想像できる。競技銃サイトを使用しての照準監査ではおおむね5mm誤差が良好と判断できるのでそれらの値は符合する。


 照準結果を受けて撃発により実際の得点の実現になるが、トリガーコントロールの状態により実際の得点は変化する。据銃結果が高くスムーズな発射ができれば理論値は実際の得点は照準結果に一致するが、実際はプラス・マイナスがある。プラスになったとしてもその場合撃発技術のエラーが生じて照準点より中心よりに着弾したことであると評価すべきである。


B-2 据銃


 本章は射撃の技術に対する概念の整理であるので、ここで述べられる据銃とはポジションの形状にかかわらない銃の動きそのもののことである。


 銃の動きの大小は射撃の結果を左右する第一義的要因であることは疑いようもない。射撃に不慣れなものがビームライフルを撃つ場合、ルールのない得点争いであれば銃を立って構えるようなことはせず、全員銃を台に乗せて射撃するであろうし、そうすることによって中心はより捕らえやすく、引き金もよりスムーズなリリースができるようになる。当然のことながらそれらの人が立って撃たないのは銃が止まった方が当たることを瞬時に判断しての行為であり、射撃の導入を受けた人々も『もっと銃が止まれば当たるのに』と感じながら射撃をしているはずである。


 多くの競技者は中級者レベルになると初心に感じたことに目をつぶり、照準-撃発の成功に過度に期待し練習の内容が照準ベースのものに変化する。競技者個体の運動能力によりその状態はエア・ライフルで90点であったり95点であったり様々であるが、据銃能力(静止技術)の伸展がない限り通常その上のレベルに達することはない。経験では97点を超える平均まではその結果は据銃能力の良否に著しく相関している。


 ノプテルを使用すると据銃の状態が数値化できるのでそのデータを基に解説を続けるが、その数値は1/33秒間に標的上の銃口指向位置が動く距離の平均を計算したもので、その表示は種目の標的の1点圏の幅を1.0として計算されたものである。数値の詳説は避けるが数値が小さい方が銃口の動きが小さいということである。概念を整理するために実際の得点とおおまかな数値尺度を表すと以下のとおりである。(撃発直前1秒間の統計値)

種目

中級者

上級者

ナショナルチーム・クラス

AR

0.4

0.35

男子0.3、女子0.25以下

50mP

0.3

0.25

0.25以下

 

動きの数値と実際の結果との相関は強い

動きの数値と実際の結果の相関は弱くなる(一競技者内での相関は強い)

     ナショナルチームクラスのARの据銃レベルを見る(WMV)
(赤外線射撃分析装置を装着して実射したファイルで発射後1秒間の銃の動きが記録されています)標的上でおおむね弾丸1個分の反動が生じています。

 

 次図は日本人競技者のエア・ライフルの実際のデータから作成した撃発前3秒間の動きの大きさ(速度)と撃発前1秒間の動きをグラフ化したものである。撃発前1秒間は最終静止状態であるので、徐々に銃口を静止させて撃発にいたる立射ではグラフは右肩下がりになる。グラフの傾斜は撃発に向けて急激に銃を止めるもの、換言すれば撃発タイミングの早いものほど急な角度となる。傾斜の極端な例は撃発タイミングに大きく技術依存するもので、グラフの内の下の方のライン群は銃が良く止まる競技者のものである。凡例には各人の平均点を40発換算で表示した。





 データからは成績のよい射撃ほど撃発直前に静止させるためのグラフ傾斜が緩く、据銃に関してはホールダー(銃の静止に頼る射撃)の傾向が顕著に現れている。射場での毎日のパーフォーマンス時においてはともかく、長期的な育成強化に関しての技術的目標が“撃発タイミングの向上”に比べ“銃口の静止”により効果を期待すべきことを実証したものである。尚、グラフの中で上級のものにあっては銃口の動きの数値が0.25(グラフ内点線で表示)を切っているが、エア・ライフルの伏射で0.25を切ってくるとおおむね安定的に100点が結果として現れてきているので、安定に対する信頼度は低いが結果論としての上級者の撃発直前の銃口の動きは伏射のそれと同様と考えてよい。


 過去の技術論では集中やプロセス技術の向上により10点で撃発する方法を模索したが、現在ではそれは上級者に至る過程のなかでの技術論になり、上級のレベルの直前からは銃口の標的中央での静止を求めるトレーニングがより重要になったといえる。


 銃の動きを周波数帯に分けて構成要素をグラフ化すると左図のようになる。3HZ以下の低周波の動きは外から見えるような動きで、いわゆる銃口の10点-9点の動きが1秒間に1-2回の往復を繰り返すのが通常である。6HZを中心とする高周波の動きは競技者が感じるガタつきの動きで、多くはボーンサポートの不良やリラクセーションの不足から来る内的なものである。初心者にあってはすべての周波数帯の動きが大きいので区分できないが、中級者以上は銃口の動きの質によりトレーニング内容が異なる場合があるので観察が必要である。



上と同一の競技者(男性)の動きを上級者(590-595、34名)の平均グラフと比較したのが次のグラフである。銃の静止を表す低周波の動きの差が顕著であると共に、リラックス技術を象徴する高周波帯の動きについては上級者においては大きな山はできていない。








 左図は2名の競技者の動きの比較であるが、赤いラインは360台、紺のラインは390台の競技者である。赤いラインの競技者は据銃能力全般では優れてはいないがリラクセーション表示帯域では特に動きの大きな周波数帯はない。どちらも女性であくまでも一般論であるが据銃に対する能力は特に同一競技レベルのエア・ライフルにおいて女性が男性を凌駕するし、その差は有意なものである。

初心者にとってはこれらの2種類に分別される銃口の動きも完全に合成されて区別できない場合が多い。そのレベルにおいては姿勢そのものに大きな問題点を抱えるものが多々見られる。動きの特性が分類され始めるのはエア・ライフルでは540点台以上のレベルであり、それ以上のレベルにある競技者は自分の銃口の動きを観察してトレーニングすべき事柄を特定してみるのもトレーニングを有効に実施する条件になるであろう。


 銃の動きには様々な要因が介在するが、技量の良否を超えてそれらを大別すると、サポート不良の動きとバランス不良の動きに分けられる。もちろんほとんどの場合混合要因で銃口が動くので、原因をひとつに特定することは時として不健全な場合も多い。

 ポジションが不良の動きの場合、それは骨格サポートの未達成や骨格筋の未発達によるポジションの全体構造の変形などが代表要因として考えられる。図の銃口の動き(50mS)は右が骨格サポートの正しくないもの、左が骨格サポートの正しいもの、を象徴的に表したものであるが、一般に骨格やスリングの使用に成功した据銃では、最終照準段階での銃口の挙動は左右方向に限定されてくる。この例示では、右は6時方向から銃口を移動させて静止に至っているが左は上下方向の誤差がほぼ10点の幅に収まっている。



 バランス不良に起因する動きについては中心から同一方向に銃口が逃げる挙動をすることに代表される。照準の最終段階の動きでその中心がセンターで落ち着かず、一定方向で銃口がずれやすいことに代表される動きである。指導者から見て照準点は目視することができないので競技者との会話の中でその現象の確認や原因の推定を行う必要がある。また競技者の多くは一定の現象が現れないレベルにあるので、エラーの発見に気をとられるのが育成上好ましくない場合も多々考えられることにも留意したい。



 銃の動きの原因を特定し修正するには、その動きの主導的なものを明確にすることから始めるのがよい。

  A:縦の動き、または狙点誤差

  B:横の動き、または狙点誤差

  C:心拍によるパルス動

  D:筋から来る微細動

 これらの動きの種類はそれぞれルーツを異にするものであるが、すべてが混在する中級者以下では総合的に対処するか、個々に解決策を探るか方針を決めることからはじめる必要がある。例えば伏射でパルス動のみ存在する場合、1分間の据銃を実施しても照準点の帰着点が変化することはない。その場合はパルス動のみを考えればよいが、仮に時間の経過と共に照準点が移動してくるような場合はパルスの存在と姿勢の不良が同時に現象化しているのであって、常識的には姿勢の改善に優先課題があると考える、というような方針である。


B-3 呼吸調整



射撃の際の呼吸のコントロールは後天的学習により潜在的技術として身につく技術である。呼吸には周期がありその休息期に撃発が来る。呼吸のコントロールは撃発タイミングと連携しており、通常据銃動作完了後数回の呼吸動作を経て呼吸停止から撃発に至るが、据銃終了と同時に呼吸を停止するものもいる。撃発段階直前のごく浅い呼吸は肺の中の空気が入れ替わるほどの量の出入りが無く(死腔の容量以下の呼吸)、リラックスのためのメンタル的な技術として利用されると解釈すべきである。よって伏射などで5回も6回も最終的な浅い呼吸を繰り返すことは生理的には問題である。できれば1-2回でリラックスするリズムを作りたい。据銃の完成に至る呼吸では腹式呼吸が推奨される。肺の換気に有効なばかりではなく、メンタル的にもテンションの低下に有益である。腹式呼吸、丹田呼吸法とメンタルな問題は専門の書籍が多々あるのでそちらを参照願いたい。最低限鼻から吸って口から出す癖を確認してもらいたい。据銃中は多くの場合口が開くので、口で吸って口で吐いてしまう場合も考えられる。この方法はガス交換に関して不利である。


呼吸のコントロールでは銃の上下方向の調整が可能であるが、据銃時間が長くなりがちであり初心者は姿勢の再点検により銃を方向付けることを優先したほうが良い。呼吸の停止は全種目を通じて吐きながら停止に至ることを勧める。吐きながら停止したほうがほとんどの競技者にとってリラックスしやすい。


撃発時期は呼吸停止後3-8秒程度の間であるが、一般に急がずしかもなるべく早いほど良いといっても過言でない。長く照準を続けると銃口の動きによる黒点の残像現象でクリアな映像が失われ、しかも最も重要な集中下での判断能力が低下してしまう。初心者が第一に訓練すべきことは呼吸のパターンを確立し、呼吸停止後撃発にいたる時間の制限を設けることである。勿論これは感覚的なことを表現しているのであるが、長い据銃を防ぐには呼吸調整に始まる集中のリズムを確立することにあるからである。


多くのものにとって呼吸の停止は最終集中(精密照準)の開始の合図となるが、射撃テンポの速い競技者の中には呼吸停止後に照準を開始する場合もある。この場合でも呼吸停止から発射までの時間は照準精度の確保が確実な時間内にすべきである。



B-4 照準


 照準技術はそれ単独で考えた場合は特に困難な技術ではない。据銃の技術範疇にあるポジションとチークピースの調整が適正であれば、ピープ-フロントリングのアライメントは相当の精度で一定性が期待できる。競技者の中でアライメントに関する不満のあるものの原因の多くは、ポジションそのもの、一定性の欠如、チークピース調整の不良、過度な頭部の前傾・側傾にある。


 サイトアライメントとは眼とピープとフロントリングの正しい配列(同心円)のことである。どの姿勢でも頬付けの過程でこのサイトアライメントを確認するわけであり、アライメントの精度はチークピースのセッティングに左右される。また上級者ではアライメントの出方により姿勢の良否の確認も行える。追加すれば、構えながら頬付けする方法は銃を水平に落ち着かせる段階で筋肉による頭部または眼球の位置の調整を実施してしまい推奨されない。立射などで銃がまだ上方を向いている間に頬つけする競技者もいるが一般的には推奨できない。頬付けは据銃の最終段階(銃がほぼ水平状態にある)で実施することも正確な姿勢を再現するための重要な事項である。


ピープの中心を通過する光線の映像を網膜に得ることは回折光線による不安定な映像の除去するためにも重要なことである。すなわちピープサイトの中心を覗くことは、照準とサイト調整の根幹をなす。ピープの1クリック移動量は0.04mm(標準の10クリックマイクロサイト)であるので眼球の位置はかなりシビアな精度が要求される。幸いにも人体は自動的に眼球を動かしてくれるので結構な照準精度が出る。しかし頭部の傾きが大きく変化すると、たとえ瞳孔とサイトラインのアライメントが達成されたとしても網膜上の映像を映す部位が変化するので、個人差はあるものの着弾は変化してしまう。(通常と異なる視細胞で映像を結ぶ)




 オープンサイト射撃(エアーピストルなど)の際は、マイクロサイトを使用する場合に比べはるかにサイトアライメントが弾着位置を左右してしまう。据銃行為の基本的ノルマもサイトアライメントの保持が第一優先課題となり、ピストルのグリップつくりの基本となる。正しいアライメントの下で外してしまった場合、弾丸は10点への飛行軌道に対し平行にずれて飛行する。一方アライメントが正しくない状態でフロントサイトを10点に合わせて撃発した場合はどうであろうか。フロントサイトが10点に照準したにもかかわらず、すでにそのとき銃口は10点に対する飛行線にたいして角度を持って方向付けられており、予想もしない大失点に終わってしまう。


ライフルのマイクロサイトはこれほど極端な失点には至らないが、サイトアライメントが崩れること自体、その姿勢に何らかの問題点を含んでいると解釈したい。サイトアライメントは上達すれば意識することなく、潜在意識のアクションとしてのエラーの検出技術として実行できる事柄であり、そのためには初心者のうちから正しく自動化できるように注意する事が必要である。


フロントリングの選択にあっては中心を捉えたときに競技者の指がスムーズに動くサイズが適正で、そのサイズが黒点の大きさに近いほど銃口の静止が要求される。このことは姿勢によってリングのサイズを変えることが自然であることも示唆する。立射の最終照準段階では黒点がリングにタッチしないサイズを選択することが推奨されるが、中級者以下にとっては銃の静止が不足しているので”大き目のサイズのリング“というのが適正な表現であろう。動いている銃のタイミングが取りやすいように小さめのリングを使用することは技術獲得の観点からは推奨されない。図はすべて12:00方向10点タッチの映像であるが左からリングの内径が黒点の2倍、1.5倍、1.25倍の順で並んでいる。サイズの絶対値については黒点の見え方(サイズ)に個人差があるので経験的標準値を表にすることにとどめる。(延長チューブなし、この範囲外でもまったくかまわない)

10mエア・ライフル

3.6-4.4

50m伏射

3.0-3.6

50m立射

3.2-3.8

50m膝射

3.0-3.8



眼とピープの距離(アイリリーフ)が小さいと見かけ上のピープの径が大きくなり、同心円の形成が困難になると同時に絞りの働きによる被写界深度が浅くなり標的が薄く、ボケやすくなる。またアイリリーフが大きいとピープまでの空間の真横からの光線が照準の妨げとなりやすいのでサイドの遮眼が必要になるであろう。アイリリーフは照準映像の品質にも影響するので明暗、被写界深度の調整のためにはアジャスタブルピープディスクの使用は大いに推奨される。一般にアイリリーフの大きさは5cm前後であろう。サイトに目をつけるような照準は(アイリリーフ2cm以下)論理的ではない。


左図はピープ(マイクロサイトの穴)の大きさと照準映像の関係を通過する光の絶対量と、ピープ径の大小による被写界深度に注目して模式化したものである。(画像をクリックするとリアル画像が表示される)ピープを小さくすると、全体映像は暗くなるが被写界深度が深くなりリングや標的がはっきり見える。ピープを大きくすると被写界深度が浅くなりリングや標的がボケやすいが全体映像は明るくなる。
各人の目の特性とアイリリーフの距離によりどのサイズが大きくてどのサイズが小さいと定義することはできない。ある競技者は通常ピープの大きさは0.9mm、雨が降って暗くなると1.6程度まで開き、標的に直射日光が照射するような日はピープ径をそのままにして偏光フィルターを使用している。


















撃発エラーによる照準点と着弾点の差異=ノプテル+実射結果(WMV動画)
(据銃結果199、実際の得点191。動画内RTVの値が大きいほど良くない)







B-5 撃発-トリガーコントロール


現在の射撃理論、とりわけ導入時に採用される考え方でのトリガーコントロールは2段引きのトリガーを使用することが前提となっている。張力は70-100g程度が主流であり、現在市販されている競技用ライフルの引き金機構では150g以上の設定には不向きである。それ以上重くしたい場合はテンションスプリングの交換などの問題も浮上するし、それほど重くする必要もない。かつてエア・ライフルでスプリング式が主流だった時代では(1980年以前)、トリガーのシアに強大な圧力がかかる構造になっていたので、その抵抗力としてのトリガーの重さが150g以上と決められていた時代もあった。


現在のトリガーでも最終的に絞り込んだ時点でのシア接点にかかる圧力は1平方センチメートルあたり3トンを越える。(調整により数100%の開きがある)あまりドライに過ぎる調整は不安定を引き起こすのは明白である。ファインベルクバウ603以降(写真左)で硬度の低いシアパーツセットではキャッチリンクが長くパーツそのものの曲がりや”がた”で撃発時の“落ち”の感覚が不安定なものも存在する。そのような場合はややウェット目の調整もやむを得ないし、極端は例外として、適正範囲の中でのドライ・ウェットの差は技術的には容易に克服できる。




1段目の重さは撃発の準備と安全のためのものであり、2段目との張力の比率は概ね1:1であろう。1段目の比率が高すぎるとトリガー張力のコントラストがはっきりしないし低すぎると2段目の張力を重く感じる。遊び(1段目のトリガーシューの移動距離)の大きさの調整は多分に好みに左右されるが、大きすぎると人差し指の動きが大きくなりすぎて不注意発射の原因となり、小さすぎても同様の結果となる。一般にはその大きさは3〜6mm程度でよいであろう。


トリガースラック(引き味=2段目の位置から撃発に至るまでのトリガーシューの移動量=シアの最後のかかりの量)は一般的には小さいほうが良い。感覚的にはドライな(切れの良い)引き味になるが、スラックを小さくしすぎるとボルトを下げただけで発射してしまったり、トリガーシューを軽く横方向に押しただけで発射したりして危険である。なるべくドライにしかもその状態でボルトを叩き落しても発射には至らない調整を標準としたい。


撃発ではトリガーを斜めに引いてもそれだけが原因で銃口が横揺れするようなことはないが、常に真後ろに引いたほうが安定した撃発が期待できるので自分のグリップ、指の長さを考慮してトリガーシューの取り付け位置を決定する。トリガーは人差し指の第1節、第1関節または指先で銃腔軸線に沿って真後ろに引く。


『暗夜に霜が落つるごとく』引くトリガーコントロールは伏射の場合を除き現在の競技用ライフルのトリガーコントロールとしては誤解を生じる表現である。この引き方では自分の揺れの範囲内のどこかにしか着弾を期待できず、絶対的な据銃能力を得なければ10点は続かない。トリガーは10点を続けるためには“引く”のであり、潜在意識が自動化した技術として照準行為そのものが命令して引くのである。換言すればトリガーは『絞りきる』のではなく、『なるべく絞っておいて10点で引く』のである。据銃能力の高い競技者であれば、第1段(遊び)を引いておき、照準が良くなりそうなときに一気に引いても差し支えない。(300mスタンダードライフルは除く)勿論撃発にいたる最後に引き金に加圧される力は最小限のものであることは当然である。また、据銃能力の高い競技者の中には自動化された技術ではなく、意識的アクションとして撃発をとらえ成功している例もある。

トリガーグラフ

(上記グラフの1と2・3の中に引き金を引く動画のリンクがあります。あくまでも外見のイメージです)


図1は遊びを引いた後徐々に絞っていくコントロールである。伏射では採用できるが立射、膝射では競技用ライフル銃を使用する限り最終的なものとしては推奨できない。300mスタンダードライフルでは採用の可能性が残るがどんな一流競技者も現在ではこのコントロールは採用していない。30年以上前の射撃理論で主流を占めた方法であるが、現在では競技者の据銃能力の飛躍的な向上と、射撃コートの性能向上により技術としては採用される理由が乏しくなった。


図2は第1段を引いた後ある程度絞っておき、良い照準が得られれば引くと言う方法で3姿勢のどの種目でも採用すべきコントロールである。中級者以下の立射では10点に銃口が入ってきそうなときに積極的に最後の加圧を行う。


図3は第1段を引いた後一気に引き落とす方法で比較的軽いトリガー(70g以下)を使用する。導入期ではまずこの方法をマスターした上で図2の技術に進化させるが一般的である。筋肉コントロールの優れた競技者であれば600点までこの方法が考えられるが内的姿勢に対する技術的要求は高いものがある。この方法は過去には多くのチャンピオンたちによって採用された。


図4はプレッシャーリリース法と呼ばれるもので、照準がよくなると絞っていき、照準が悪くなると絞りを中止し、最終的には10点で撃発するというコントロールである。銃口の動きがコントロールされた競技者のみが採用できる方法であるが、一般的には据銃が長くなりがちでしかもファーストチャンスを逃してしまう場合も多いので万人には勧められない。集中エラーが生じて得てして図5のような結果になりがちである。


 撃発の技術は、ある意味ではライフル射撃の多くの技術要素の中でももっとも単体でトレーニングすることに疑問を生じる要素であるかもしれない。銃が動いている状態で発射をコントロールするのか、銃の静止を求めて静止の瞬間に発射するのか、静止の継続中に発射するのか、それらの理念にはそれぞれに正当性がある。またどのようなリリースを求めるにせよトレーニングのなかではっきりしたイメージを作り上げることが求められる。


B-6 技術の蓄積と結果の決定要素


生まれて初めて射撃をしたときのことを省みると、人は少なくとも次のことを学習する。

@       銃の操作方法
A       呼吸の停止法
B       照準方法

彼はどれひとつ完全にはできないであろうが、これらの各段階での努力、集中は相当なものである。一生懸命にリングを黒点に合わせようと努力し、まん中に黒点が来るや大あわてで引き金を引く。仮に10点を捉えれば大喜びをするといった次第であろう。彼は銃に弾を入れ、呼吸を止めて、照準し、引き金を引くといったプロセスを全て頭のなかで考えながら行っているのであり、複雑な行為の組み合わせの結果得られた10点は非常に貴重なものである。


何年かトレーニングを重ね、中級者程度の技術を身に付けた場合はどうであろうか。果たして彼は、“どうやって弾を込めるか”を毎回考えるであろうか。呼吸の停止についてそのタイミングに注意を払うであろうか。おそらく照準については最大限の注意を払うであろうが、その集中は照準映像の評価ではなく、撃発にいたるスイッチとしての効果を望んでの集中であろう。その時点の彼は、何年かのトレーニングによって銃の操作や呼吸のコントロールは体で覚えてしまった段階にある。


体で覚えた技術とはどういうことを意味するのであろうか。射撃以外の例を見てみると、人間の歩行行為、水泳、ピアノを弾くこと、タイプを打つこと、これらは全て後天的に学習された行為であり、全て学習を通じて体が覚えてしまった技術であるといえる。どれをとってみても初心者の段階では頭であれこれ指示をして体を動かしていた行為であるといえる。


どのような行為であれ、初心者は意識的に行動・動作をコントロールしようとする。キーボードでAを打つ場合、目でAのキーを捜し、指で隣のキーに触れないように恐る恐るキーを叩く。キーを捜す行為とキーを打つ行為は連携しているが同時性はない。しかしキーを捜す行為、キーを打つ行為をそれぞれ個別に考えた場合、それらはかなりの練度を持って実施されている。文字Aと文字Bの相違は頭で考えることはなく自動的に判別している。彼はABCについては自動的に判別できるが、キーボードのキーを自動的に識別することはできない人であるといえる。


彼を競技者に例えると、銃は難なく操作できるが据銃する際に手の位置、足の位置、肩づけの様子をチェックしながら射撃する人といえるであろう。速く正確にキーを打てるようになるには、適正な指使いを体得することが重要であるように、射撃では合理的な据銃姿勢や、集中方法がこの指使いに相当する。


簡単すぎるのは承知の上だが、射撃行為の学習を図式化すると次のようになる。





良い射撃では意識の命令により潜在意識(大脳皮質)に蓄えられた射撃技術が自動的に弾を撃つ。初心者は潜在意識に技術の蓄えが無く、全ての動作が直接意識の命令の下で実施され、行動もぎこちなく得点も低い。この簡単な図式は練習の注意点や技術の学習方法に様々な示唆を与えるので各パートの仕事と特徴について理解を深めたい。


T 意識


心の領域では意識は“頭で考えること”を受け持つ分野であるといえる。一般的には意識は4つの働きを瞬時に行う。第一は五感で情報を感知すること、第二はその情報を過去の経験に照会すること、第三は情報と経験を比較・評価すること、そしてその評価に基づいて対処を決定することである。


例えば9点を撃ってしまったときに、競技者はまずその事実をスコープで知り、次に自分は10点で撃発したはずなのにおかしいと感じ、風の変化に気付く。そして風の強さを評価しそれに応じてクリックを回す決定をするといったことであり、これらの作業はほとんど瞬時に行われる。風を評価するのに時間がかかる場合、風に対応する部分の技術が低いといえる。


諸説あるが、意識は普通1分間に数千個以上の異なった単語を非常に速いスピードで判断することができる。しかし一つ一つの集中をスピーディーに切り替え流れを作ることには長けているが、同時に二つ以上のことに集中したり考えたりすることはできないという特徴をもつ。例えば頭の中で赤い車と白い車を交互に考えることはできるが、同時に集中することはできないといったことである。


射撃では体の全ての機能を同時にコントロールしなければならないので、マルチタスク機能に乏しい意識でのアクションではその能力に限界がある。初心者は全ての体のコントロールを意識で支配しているか、全くコントロールできていない状態であり、上級者はほとんどの部分を体が覚えた自動化された“技術”がコントロールする。どのくらい自動化できているかどうかが初心者と初級者・中級者の違いであろう。


U 潜在意識


潜在意識という単語にはたくさんの意味が含まれるが,ここでは記憶や体で覚えた技術を蓄えておくデータバンクということで理解してもらいたい。


潜在意識は大別して二つの機能を司る。ひとつは人間が生まれながらもっている本能的能力であり、心臓の動き、呼吸作用などの自律神経系の働きをコントロールすることである。いまひとつは後天的に学習したことを自動化する機能である。そのなかには記憶のファイル、技術的なデータバンクといった機能も含まれる。(これらはそれぞれ生理学的には全く異なった器官が関与するがここでは概念的説明として理解されたい)


運動技術論では潜在意識には情報の正誤を判断する能力はない。したがってどのような情報、或いは誤った技術も全て等しくファイルに収めてしまう。情報は意識から送られてくるもので情報の選択は意識によって行われる。


意識と潜在意識の関係はプログラマーとコンピューターの関係に似ている。プログラマーが誤った数式を潜在意識に記憶させると潜在意識はその正誤に関係なく数式にしたがって演算を実施する。5x5=10をプログラミングするとその誤りを訂正するまで5x5=10と潜在意識は答えてしまう。射撃のトレーニングがコントロールされなければならない理由はここにある。演算は実施するがその方法が誤っていれば正解が出ないし、射撃技術の場合あちこちに誤った演算方法が増殖してしまうからである。何年もかけて射撃技術のあちこちに散らばってしまった数式を訂正することは実は新たに数式を打ち込むことよりはるかに困難である。


潜在意識はインプットされた情報を全てファイルしてゆくが、それらの情報を引き出す回線はすべてあるわけではなく、引き出す努力をした回線のみ生き残って残りは断線するか、容量が極端に低下する。時々何かの拍子に回線が繋がって突然忘れていたことを思い出すことがあるが、思い出す努力をしないとその回線は再び切れてしまう。その回線を保持するためには反復して記憶を引き出す努力をしなければならない。情報のファイルも始めは少ない情報量であったものが、何度も繰り返すうちに多くの情報量を持つようになり、意識から照会があったときに多くの情報を回答として引き出すことができるようになる。


潜在意識は同時に無限に近い数の行動をコントロールすることができる。例えば正しい据銃をしながら呼吸調整を行うことも可能になる。後天的に学習しそれを自動化する過程がトレーニングであり、初めて行う行動は潜在意識にデータが入っていないため各段階で意識の直接命令が下される。その命令が潜在意識に情報としてインプットされ、長いトレーニングを経て情報量が増加し、以後意識が“思った”だけで潜在意識が体を自動的にコントロールする技術が身につくのである。また潜在意識は意識が思っている方向で行動を起すという特性も持っている。即ち潜在意識にプラス・マイナス両方の技術が存在する場合、意識が連想する方向での技術が発揮されやすいという傾向がある。


ピアニストがピアノを習った過程において、初めに意識が動作をコントロールしていた時は、意識には一度にひとつのことしか集中できないという規制があり、いかに集中をすばやく切り替えたとしてもその処理能力は潜在意識に比べて大きく劣り、動作はぎこちないものであったはずである。しかしそれを反復練習してゆくうちに潜在意識に蓄えられる情報量が増大し、音符を見ただけで潜在意識より必要な全ての情報をとりだし、しかも潜在意識による技術的な行動、すなわち同時に体の全ての部位をコントロールする高度な技術行使であるため、スムーズで完全な動作として表れてくるのである。


このように技術が蓄積されるパターンを再検討していくと、トレーニングがどのようにコントロールされるべきか明らかである。パソコンのキーを2本指でたたいても(実際にこの原稿はそのようにたたかれている)、実用上文章は作成できるが、その正確性やスピードは正しい指使いをするものに比較して比較にならないくらい劣ってしまう。2本指ではブラインドで文章は打てない。射撃では初心者のうちの自己流がこれにあたり、そのまま90点で停滞期を迎えたものにとって初めから指使いを習い直すのは大きな決意が必要である。導入時に学習すれば楽であることは自明の理である。ブラインドでキーがたたけなければ競技にならない。すなわち最も基本的なボーンサポートやバランスの要件が満たされていないと、進歩する第一要件が欠落しているということである。またどのようなパーフォーマンスも潜在意識に蓄えられるとすると、弾数だけに頼ったトレーニングの有効性は大いに疑われる。何年か停滞しているものにとっては、仮に思い当たれば2本指から10本指への転換は必須事項であり、一定期間の初心者メニューの確実な実施は結局上級者への道であるといえる。



V 自己評価(セルフイメージ)


何年かのトレーニングを経て技術的に10点を得る能力が備わった競技者にとって、室内の射撃のように外的条件が一定の場合、良い集中ができれば10点が撃てるはずである。潜在意識の能力としては実際に10点を撃つのであるから、10点を撃つための能力はもっている。しかしその能力を60発なり120発の競技の発射弾数全てに100%発揮した人は極めて少ない。一流のレベルにおいても60発の何割かはその得点結果に関係なく潜在意識の能力を発揮できずに終わっている。この能力を何%発揮するかを司るのが自己評価である。


自己評価は自分の能力を絞るバルブの働きをする。このバルブの開閉は自分自身に対する本心の評価、すなわちセルフイメージによりコントロールされる。


例えば自分は全日本選手権で8位以内には入れるかもしれないが、優勝は無理だという自己評価を持っていたとすると、仮に効果的なトレーニングにより潜在意識が優勝に必要な技術的能力を身に付けたとしても、セルフイメージが小さいために能力バルブが充分あかず結局入賞程度に終わってしまう場合が多い。勿論この場合も自分の評価どおりの結果を得ているわけだから本人は満足感を得る。


国際規模の大会を見ても、年代順にチャンピオンになった人を見てゆくと、特定の人がかわるがわるチャンピオンになり、1度チャンピオンになった人が再びチャンピオンになることが非常に多いことに気付く。チャンピオンになれそうな人は大勢いるが、チャンピオンになった人は僅かである。チャンピオンになった人の大半は、自分がチャンピオンになれると思い努力した人たちである。トレーニングを通じて自分はチャンピオンになれるというセルフイメージが形成され、必要にして十分なトレーニングを積んだときに、持てる能力を大きく発揮できるような穴を自己評価のバルブが開けてくれたのである。そしてそのような人々は、1度チャンピオンになると、チャンピオンであるという確固たるセルフイメージが更に形成され、次の試合でもバルブが開き、再びチャンピオンになる確率が高くなる。


このように自分自身のイメージをより高く持つことが、勝つためあるいは自分の設定したゴールに到達するためには必要不可欠である。もちろん中には偶然チャンピオンになった人もいるが、そういう人は何年かすると上位にも顔を出さないし射撃を止めてしまう人が多い。


セルフイメージは換言すれば“本心”であう。セルフイメージはそれぞれの行動または成績の基準であるともいえる。その基準は“本心”に従って自分らしい自分を結果的に表現しようとし、コンフォートゾーンを形成する。コンフォートゾーンは各個人にとってあらゆる分野での“居心地の良い範囲”であり、ファッション、社会生活、スポーツ等にみな全員持ち合わせている。例えば老人が赤いスポーツカーを運転している姿を見て、ある人は不愉快の念を持ち、ある人は羨望の気持ちになり、またある人は影響を受けるであろう。これらの反応も全て各個人のコンフォートゾーンに左右される。


コンフォートゾーンは自分の環境、すなわち育ち方、友人やマスコミの意見、自分の実績により形成される。射撃においては、何点以上撃てれば嬉しいという得点と、これ以下なら腹立たしいという得点の範囲がその競技者のコンフォートゾーンであるといえる。例えば立射で90点平均の競技者のコンフォートゾーンは、おそらく88点から92点くらいの範囲であろう。この競技者の射撃の内訳は概ね次の3つのパターンに当てはまる。


A

9

9

8

10

10

8

8

9

10

9

 

90

B

9

6

9

7

10

10

10

10

9

10

 

90

C

10

10

10

10

9

9

10

8

7

7

 

90



Aのような点数配分で射撃が流れている間は自分自身安定感がある。ところがBのように9・6・9・7といった得点でスタートすると、セルフイメージがそれを許容せず後半は必死に盛り返し、自分のコンフォートゾーン内の成績まで引き上げる。逆にCのように10・10・10・10といつもよりハイアベレージで射撃が始まった場合、得てして後半崩れ平均的な合計で終わりがちである。よく試合の流れを省みて、“前半は良かったが…”とか“最後に崩れて…”といったことをよく耳にするが、その現象のなかにはこのコンフォートゾーンにセルフイメージが行動をあてはめようと働いた場合が多い。


射撃競技におけるコンフォートゾーンはそのほとんどがトレーニング時の点数により形成される。すなわち採点射撃はセルフイメージにコンフォートゾーンを創造する資料を与えることであり、その積み重ねによりバルブの開閉量が決まる。トレーニングでは採点射撃の状況を冷静に把握しセルフイメージが高まる形態での採点射撃の実施等に注意を向けなければならない。


B-7 メンタルリハーサル


今やあらゆる競技においてメンタルリハーサルはトレーニングや競技会での一般的なツールとなっているので、リハーサルは心のトレーニング方法ではなく技術的なトレーニング方法あるいは競技技術の一種と考えられる。


多くの競技者が射撃場で弾を出すことだけで技術トレーニングを構成しているが、確かに実射はマイナス要素も含めトレーニング効果が最も高く、また楽しいものである。しかしトレーニングとは、特にアマチュアの競技者にとっては実射練習だけではなく、自宅での据銃・空撃ち練習も有効でしかも重要である。自宅での空撃ちは実射の要素のうち大きなパートを占める“反動”がないので効果が低いと思っている競技者や指導者がいるとするならば、それはあまりにも愚かである。もし効果が無いとすると、方法を間違えているか、やる気が無いのに義務感でやっている場合である。


射場をはなれたトレーニングのうち、もうひとつ何時でも何処でも、銃を使わず、意思力があれば空いた時間に練習できるのがメンタルリハーサル(以後リハーサル)である。


リハーサルは考えていることの主題や頭で映像化されたことが潜在意識に伝わりファイルされることを利用して、頭の中で自分が射撃しているところを鮮明に描き、正しい動作を頭の中で実行し、それを潜在意識に記憶させることである。実際には射撃を行っていないにもかかわらず実射に近い効果を、或いは実射の補助トレーニングとしての効果を得る方法である。射撃に限らず、陸上、水泳、体操、ゴルフ等でもリハーサルは一流選手にとって常識的な手段である。


射撃における一般向けの具体例としては以下のようなものであろう。


@ 自分が非常に良い射撃を行っているところを想像する

A 良い射撃を行っている“自分”をより鮮明に映像化し、その“自分”にゆっくり近づいてゆく

B “自分”の良い技術をより良く観察できるように“自分”のすぐそばで据銃・照準・撃発・フォロースルーを確認する

C  理想的な射撃を行っている“自分”の体の中に入りこんでいる感覚を得、想像ではなく実際に10点を撃ち続けているフィーリングを得る


@からCまでのステップを行うためには初心者には技術的裏付けに乏しいかもしれないが、リハーサル自体が集中へのトレーニングでもあるので最後まで持続させる努力が必要である。上級者にあっても@からCに到達するのに5〜10分程度必要であろう。


リハーサルを行うには場所を選ばない。通勤・通学の電車の中でも或いは就寝前のベッドの中でも行える。自分自身で頭の中に射撃場をつくり、そこで頭の中の映像を射撃で満たすことができれば周囲のことは気にならなくなるし、そういう状態を作ることが目的のひとつでもある。換言すればいわゆる集中力のトレーニングになる。映画を見たり小説を読んだりする際、面白い場面や悲しい場面でストーリーに完全に引き込まれ、あたかも自分がその場面にいるかのような錯覚に陥ってしまう場合があるが、リハーサルの訓練は自分を意図的にそういう状態にする訓練でもある。頭の中の情景に集中できれば実際に射場に行かなくても射撃場にいるような感覚になれる。そして最も求めていることだが、ひとつひとつの動作をできるだけ鮮明に映像化することによって、大量の好ましいデータを潜在意識に送ることができる。リハーサルは一般に言われるメンタルトレーニングではなく、むしろ技術系のトレーニングの一種であると表現して過言ではない。


このリハーサルを行うことによって、実際には射場に行ってトレーニングする時間が週に5時間しかなくとも、空いている時間を利用して週あたりの練習効果率を何倍にも上げることが可能である。勿論実射に近いトレーニング効果を持ったリハーサルを行うには、リハーサル自体のトレーニング期間を経た上で、頭に描く映像を完全に射撃のことだけにできる集中力を得る努力をすることなしには不可能である。それは一流になるための代価であるかもしれない。


 リハーサルは実射練習の補助トレーニングと位置付けられるが、他にも重要な役割がある。それは試合直前に質の高いリハーサルを行うことによって自分の興奮レベルを最適化してゆくことである。試合でプレッシャーを感じたとき、ほとんどのケースで成績は練習時より低い。プレッシャーは感じることはできても、プレッシャーが標的までの距離を50mから60mにするわけでもない。また試合のときだけ自分の技術が低下するわけでもない。プレッシャーには実体が無く、競技者の頭の中で創造されたものである。多くの競技者はプレッシャーのマイナス要因に頭を悩ませているが、プレッシャーを感じたときにはいくつかの射撃にとってプラスになる状況も同時に作り出されている。人が興奮すると、反射が速くなり、視力も向上する。本来射撃競技の成績に関しては、練習中の得点はその競技者の最高能力よりは低い。なぜなら練習中のリラックスした状態では最高の実行を行うには通常興奮度が不足しているからである。


試合でプレッシャーを感じていることを自覚したとき、それは最高のパーフォーマンスを引き出すには興奮度が高すぎることを意味する。そのような際にはリハーサルを行い自分の興奮度を射撃にとって最良のレベルに低下させることができる。なぜならリハーサルでは自分の技術を最良の状態で繰り返す“自分”に集中できるからである。さらに意識は一度にひとつのことしか集中できないのでプレッシャーを感じさせる何かの映像は頭の中で徐々にそのコントラストを下げてくる。そのためには各自が実験を通じてリハーサルの利用を研究する必要があるが、プレッシャーに慣れるまで何年も試合を無駄にすることはない。経験を積むことによりプレッシャーに慣れる方法はあまりにも成功率が低く、結局は淘汰に任せる方法で多くの場合何年経っても問題は解決しない。


リハーサルはセルフイメージをトレーニングする手段のひとつとして利用することができる。セルフイメージはコンフォートゾーンを形成するが、100点を撃ったことのない競技者にとって100点をコンフォートゾーンに入れることは困難である。人によってリハーサルは自分をだます非常に効果的な方法で、しかもそのだまし方を自らコントロールできる点に注目する必要がある。ある意味では宗教は歴史が作り上げた大量の人間の心を一つにする高度なリハーサルを応用した人間の行動規範であるかもしれない。子供の頃から何万回とうそを聞かされると、そのうそはその人にとって真理となる。しかしそのうそを一度も聞くことなく成人した異教徒には、うそは真理とはなり得ず争いを避けるためにお互いに認め合う行動をとる。競技を行うものにとって自分を自分のコントロールの下でだませるものは一流の素質を持っていると思われる。


リハーサルを実施することで100点は1日何回でも記録できる。100点をコンフォートゾーンに入れることは100点を撃つための出発点であり、10発目の10点は1日何発でもリハーサルできることに注目しなければならない。自分をだます能力に欠けるものは、実際に100点を撃つ技術に集中するしか方法はないが、これも正しい方法のひとつであろう。


B-8 メンタルプログラム


射撃中に集中する技術的方法としてメンタルプログラムを一例としてあげておく。結果として競技者の持てる能力の多くを出せれば競技は成功であるが、多くの才能に恵まれない競技者の集中方法として参考にされたい。


メンタルプログラムは同じ動作の正確な繰り返しを目的とする射撃をより正確に実行するため、1発の動作の流れと、それに伴う意識のなかでの思考の流れを一致させることである。射撃動作の一つ一つの段階と頭の中で考える事柄を一致させ、より正確な実行とプレッシャー対処を目的とする技術である。


基本的に実射の際、意識が考えている事柄が変化すると潜在意識が引き出してくるデータが変化するので、同じ結果を高確率で実現するにはいつも同じことを考えて射撃を行うのが得策である。そしてそれは10点を得る技術のことでなければならないが、ただ“10点を撃つ”と思うだけでは効果は少ない。しかしそれでも毎回様々なことを考えるよりも安定したパーフォーマンスを引き出せるであろう。より効果的な集中を求めるにはメンタルプログラム(以下プログラム)を組む。これは撃つ直前に10点を撃つリハーサルを行い、かつそのリハーサルに合わせて射撃の各動作を流してゆくことである。このリハーサルは射場外で実施するメンタルリハーサルに比べより技術的なものが対象となる。銃を構えながら10点を撃つ感覚を得、更に気持ちを攻撃性に富んだものに高揚させて、『絶対に10点を撃つ』という強い意志で射撃を行うように、しかも毎回同じように考えられるようにする。


10点のことを考えて撃つということは、10点の技術を追求した射撃を行うことであり、“9点以内で引く”とか“飛ばさないようにしよう”といった考え(競技レベルによりあながち間違いとはいえないが)で撃ったのでは10点を追求することにはならない。初心者に対しては若干の言葉の修正は必要であるが、10点は積極的に取りに行かなければ向こうからは来てくれない。従ってどのようなレベルでのハイパーフォーマンスの実現にも10点を撃つ闘志は必要である。


ここではプログラムの一例をあげるが、その実施には自分でのアレンジが必要である。その際基本的に踏まえることは10点を取るという積極性と、それにもと基づく10点を取るための技術の諸段階に対する集中である。


@       スターティングポイント

プログラム(集中作業)をどの時点から開始するかを決定しなければならない。この開始以降、頭の中の映像(集中対象)は一方通行で流れてゆく。射撃競技中、全般を通じて常時集中することは不可能であり、仮に可能であるとしても不必要で、エネルギーの損失も大きいので良くない。競技者は撃発のたびに集中のレベルを若干下げ、再び高めるリズムを覚えなければならないが、そのリズムの開始点がスターティングポイントである。通常ボルトを締めたときにプログラムをスタートさせる。

A       フィーリングを得る

この前10点を撃ったときのフィーリングを思い起こし、思考の流れの方向付けを行う。頭の中に完璧な撃発ができた直後の満足感を思い起こし、これから撃つ10点を感じるのである。10点を撃ち終わった直後の自分の姿や、センターに穴のあいた標的を映像化しても良い。

B       10点を撃つ技術のリハーサル

ここでは頭の中で完璧な技術をアクションの順を追って思い起こすとともに、同時にそのフィーリングを持ったまま据銃を行っていく。チェックは上級者では各段階それぞれ1回で必要かつ充分で、2度も3度も気になるときはプログラムの打ち切り、即ち据銃動作のやり直しを意味する。例えば左腕のリラックスを頭の中でリハーサルしながら実際にその技術を実現しようとするもので、トレーニング中から訓練しなければマスターできない。マスターしてしまった後は映像的にリハーサルが流れてゆくのでその実行にはほんの数秒しか時間を要しない。

C       10点を撃つ決意

気持ちを高揚させて絶対に10点を得るという態度を得る。気持ちを高ぶらせるのではなく1回目の10点の映像で撃発ができるように攻撃的になることが目的である。サイトのアライメントを確認する段階でこのイメージを持つ。

D       撃発にいたるイメージ

この段階は集中の最終段階で、自分の理想とする10点照準のイメージをそれにいたる過程も含めて考え続ける。実際に照準行為を実施しながら行っているので、そのイメージが得られたときには弾丸は自然に発射されており、そのイメージが自分の据銃の許容時間内に得ることができなかったかあるいは照準以外のことがイメージに進入し始めたときは銃を下ろしてプログラムを最初からやり直す。例えば最終イメージが照準を対象とされている場合に、引き金に関する注意がイメージに進入してきた場合等は即座に射撃を中止するべきである。


@〜Dまでのメンタルプログラムの一例を紹介したが、プログラムはいつも同じ考えで射撃を行うための道具であり、プログラムをトレーニングなしで行おうとしても困難であろう。プログラムが完全に実行できる競技者は、プレッシャーや前の発射の得点が次の撃発に影響することは一般の場合と比較して非常に少ない。プログラムを技術として定着させるには射場でのトレーニング時は勿論、自宅での空撃ち練習でもトレーニングしなければならないであろう。勿論トレーニングの初期や姿勢の改良後はこんな余裕は無いかもしれないので、試合期でのトレーニング課題となるであろう。


多くの競技者はプログラムの組み方は知っているが、完全に実行している競技者は非常に少ない。なぜならそれは面倒なことであるからである。また逆に10点が続いているようなときは第一段階からプログラムを実行する必要もない。そのような時はテンポ良くその波の中で10点を得るべき時期で、プログラムのC〜Dだけで充分であろう。特におかしい場合Bの段階から繰り返せば良い。3姿勢の場合プログラムは当然違った形になる。


プログラムの効果は大きな試合になればなるほど表れるものであり、向上を目指すものはほんの少しの努力が必要であることは覚悟すべきであろう。



B-9 技術トレーニング概論


現在の日本のレベルが暫く変わらないとすると、弾と銃を購入し週に3日間の実射トレーニングを4年間行えば、10人に1人は一流と呼ばれる域に達するであろう。実際現在活躍している競技者の多くはこうした努力を積み重ねてきた人々である。残りの9人の人々は努力が報いられることなく終わってしまうか、途中であきらめてしまった人々である。このことは何十年も繰り返されてきた事実である。


楽しみで射撃を行う一般競技者の間でも、同じトレーニング量をこなしてある競技者は90点を撃ち、ある競技者は80点しか撃てないという現実もある。


多数派である一般的競技者のほとんどは上達しない理由として、素質の無さとか自分が射撃には不向きであるといった事柄を挙げる。しかし逆に、一流競技者の中に自分に素質があると思っている人は意外と少ない。多くの上級競技者は自らを省みて、人よりは多くの練習を積み、人よりは計画的にトレーニングを積んだことを自覚している。


スポーツのトレーニングは目標と計画、そして計画の実行がなければトレーニングとはいえない。射撃場に行き弾を込め10点を狙って引き金を引くだけでは、それは毎回その日の調子を見ているだけであり、運がよければ上達するし(A)、運が悪ければ上達曲線のプラトー期が早期に表れ(B)、いわゆる一般的な競技者のまま何年もその状態が続き、ついには射撃場にも姿を見せなくなってしまう。上達の過程でプラトー期はだれしも経験することであるが、少なくとも計画的に目標を持ってトレーニングを行ったものは、ただ実射を繰り返して上達してきたものに比べプラトー期も短く、しかも最終的な到達点が高いこと(C)は経験的に誰もが納得するものである。


ここではトレーニング計画を立案する上での基礎事項として、トレーニングの種類とそれぞれの目標とすべき技術的な注意事項に触れておく。


@       据銃トレーニング  

 

据銃練習は射撃の基本である。質の高い射撃を行うにはまず堅固な姿勢と安定した銃のコントロールを学習しなければならない。生まれて初めて伏射姿勢をとり、いきなり薬室に弾を込める等は愚の骨頂であり百害あって一利ない。多くの一般的競技者はこのようにして射撃を始めるが、これでは自衛隊の陸士教育のほうが全く合理的である。


どの種目でもその人のレベルにおいて自らコントロールできる狙点の範囲を得ることが第一である。その狙点の範囲内でその上に技術を積み上げていくのであるから、スポーツ射撃を行う人と、上達を願うサンデーシューターにとって姿勢を作り上げる作業をスキップしていては射撃の上達は望めない。またトレーニングのクールの初期では銃のコントロール範囲の向上という目標がクリアできなければ、同じことを毎クール繰り返すことになる。


初心者にとって射撃姿勢は生まれて初めて経験する特異な姿勢である。競技者はまずその特異な姿勢に慣れ、毎回同じ姿勢が取れるようにトレーニングしなければならない。この時期は外から見た目に見える外的姿勢を物理的観点から完成させるべく努力するのである。元来外的姿勢の形状は射撃技術を構成する技術要素の流れ中では最も重要な範疇には属さないが、毎回違った構えをするようでは当然のことながら、最も重要な筋肉の緊張、バランス感覚、内的姿勢の一定化を学習することが困難であるので充分な時間と注意を持って姿勢を研究する。先ず理解すべきことは、自分の姿勢のチェックポイントは内的姿勢にあるが、内的姿勢は外的な形状に基づいているという事実である。その基づくものが変化するようでは綱渡りのロープの上を歩くようなもので、できる人はいるが多くの人には困難が待ち構えていることは疑い様がない。


上級者が実際射撃を行う際に自分の姿勢をチェックするチェックポイントは自分自身の内的感覚である。姿勢変更直後や初心者のうちは、例えば立射の両足の開きをミリメートル単位で計りながらチェックすることも推奨されるが、ある程度トレーニングを行った後は、外から見える格好よりも自分自身の感覚が姿勢の良否を決定するスケールであることを理解して欲しい。そしてその内的感覚の等しい姿勢=内的姿勢を完成させるための道具がノートとペンであることは言うまでもない。当たった時の標的は後日何も教えてくれないが、当たったときの内的姿勢に関する記述は後日競技者の助けになる。


シーズンオフの設定などで長期間トレーニングを休んだ場合なども、初期トレーニングとして据銃練習を行う。銃やコートを変更した場合も同様である。チャンピオンを目指す人たちにはシーズンオフとは試合のない時期をさすが、その時期は道具を改良したり、姿勢に工夫を加えたり時期であり据銃練習が中心となる期間であるといえる。


据銃練習とは具体的にフォームをとり、そのフォームにたいする内的感覚を潜在意識に覚えさせることであるが、一度銃を構えてその状態を維持するのは1分以下である。全くの初心者の場合、体を射撃に慣れさせる目的もあるので長時間据銃の実施も理論的根拠があるが、筋肉感覚のマイナスの学習も考慮すると、その時間は3-5分以下であろう。内的感覚にその焦点が移った後では、筋肉バランスを感知しようとする新鮮な感覚を長く持続させることは生理的に不可能であり、ましては1分を越える長時間据銃で標的を狙い、しかも最後に引き金を引くのは悪いバランスで無理やり銃をコントロールしようとすることであり、誤ったトレーニング方法である。エアーピストルで1発ごとにグリップを握りなおすことは、この点では1シリーズ銃を握りっぱなしで射撃するより正確性に優れている。多くの競技者はこの点大いに誤解しており、例えば590点にも達していない競技者が伏射で肩づけを外さないで装填して、照準、撃発を繰り返している。据銃プロセスの学習チャンスを放棄したトレーニングで、これでは何時までたっても580点である。このような技術は60回同じことが繰り返せる技術が付いたときに初めて有効性が出てくるプロ用の技術である。


据銃が確実に毎回同じ感覚でできるようになるには数年かかるかもしれないが、現実的には何年も据銃だけを行うわけにも行かない。妥協して次の段階へ進んでいくわけだが、その妥協点は、自分の据銃姿勢と銃が自然に向く範囲、即ち自然狙点が形成(向上)されたときと理解したい。


次の段階では据銃を決められた方向、即ち標的に合わせていくことである。このことは据銃能力を正しく標的上に表現する能力であるといえる。初期段階では標的そのものよりも広い範囲での方向付けを行い。順を追って黒点に合わせるようにする。目を閉じて自分のバランスで銃が落ち着いたと思われたとき目を開けてみる。立射では的枠の中央付近に、伏射と膝射では標的紙のなかに銃が向くことを目標にしたいが、その事だけでパーフォーマンスが決定されるわけではないので、努力目標と捉えて欲しい。


据銃にあたっては、まず自分の良い姿勢を充分時間をかけて探す。このとき標的に合わせようとするのではなく、自分の内的感覚に集中しなければならない。自然狙点が得られたら次にそれを標的にむけて上下左右に分けて一度ずつしかも少しずつ修正してゆく。姿勢を修正した結果良いフィーリングが失われてしまったら、もう一度初めから自然狙点を求めていく。このトレーニングは次の空撃ちトレーニングの前提となるもので繰り返し練習を重ねたい。



@                        空撃ちトレーニング

弾を入れずに引き金を引く空撃ち練習は競技として射撃を行うものにとって、とりわけ週に1-2度しか実射のチャンスのない社会人にとって最も重要なトレーニング手段である。まず空撃ちトレーニングによりトレーニングの総量を増やすことができる。更には反動のない空撃ちトレーニングでは自分の射撃についてサイトを通して観察することが容易であり、特に実射と空撃ちを交互に実施すると効果が高い。射撃では不随意な動き、とりわけ撃発直前の筋バランスの崩れや撃発動作中の銃の振りを排除したいのであるが、空撃ち練習がこれらの目標に最も合致したトレーニングである。


空撃ちトレーニングの欠点は、実射に比べ10点を撃ったときのイメージを潜在意識に送りにくい点である。そして長所は9点や8点の失敗もそれほど強くインプットされない点である。良い撃発ができたときは必ずそれを復習し、失敗したときはそれを無視するという態度を身に付けることで空撃ちトレーニングは密度の高いものになる。


空撃ちトレーニングの技術的目標の第一に挙げられるのは、撃発動作の自動化である。全くの初心者の場合、初期のトレーニングでは標的は不要である。方眼紙や白紙を利用して自分の据銃の最も安定したときに勝手に引き金が落ちるように技術を自動化させる。引き金を引く行為そのものは非常にやさしい。多くの競技者が犯している過ちは(特定の上級者は除く;ダイレクトトリガーは多分に意識的アクションである)、立射や膝射のトリガーコントロールを意識で行うことであり、10点を見つけてから引き金に注意が移行している。これでは遅すぎる。10点の映像は引き金を引くスイッチのような働きをしなければならず、換言すれば、とりわけ中級競技者以下にあっては、10点の上をコントロールされた銃口が移動してゆく直前に発射が完了されなければならないのである。(据銃能力によってそのタイミングは若干異なったものになるが)言葉にすれば非常に高度な技術のように思えるが実際にトレーニングを積むと、それはフィードバックを通して自動的に身についてくる技術であり、その技術を発揮させるのがメンタル技術である。空撃ちは上級者になればメンタルプログラムなどの意識内での技術と組み合わせて行うべきであり、実際に射場に実射している状況をリハーサルで頭の中に構築できれば更に質の高いトレーニングへと進化するであろう。スキャットやノプテルが使用できれば興味深いトレーニングが実施できるし、ノプテルでは撃発から表示までのタイムラグを設定できるので使いこなせれば有効なツールとなる。



B       実射トレーニング


どのような方向につけ射撃技術の進歩や停滞に最も大きな効果を与えるのが実射である。競技を理解していない人々にとって射撃のトレーニングとはこの実射を意味する。実射トレーニングはもっとも重要であるが、実射だけで一流になるには良い指導者と運が必要である。


初心者の間は撃てば撃つほど得点は上昇するが、早かれ遅かれその上昇は止まってしまうか一転下降に向う。明確にしておかなければならないのは、実射にはトレーニングとして大きなプラスの要素と大きなマイナスの要素があるということである。点数の伸びが止まったときは、概念的にはプラスとマイナスが均衡を得たときである。この時期には実射の数を減らすか中止し、空撃ちトレーニングで自分の欠点を改善していかなければならない。停滞期に数多くの弾を消費するのは経済的に無駄であるばかりではなく、マイナスの技術をいたずらに強化してしまう場合が多い。ほとんどのまじめな競技者はこの状態のときに多数の実射を実施し停滞スパイラルに陥ってしまう。練習を一定期間休んだ直後や、雪国で雪がとけて初めての実射のときに高得点が出る場合がある。これは一般的な現象(レミネッセンス)で非常にだまされやすい。得点が高いため“その気になって”以後やたらと実射に明け暮れてしまう。レミネッセンスはベテランには良く起こるが、練習を休んだためプラス、マイナス両面の技術が忘れ去られ、比率としては一時的にプラスの要素が高まっているため生じると理解されている。躍進のチャンスであるが、技術的にコントロールされなければ再び技術のバランスが元に戻り、前年と同じ状態になる。競技者が不調になると意図的に練習を中止し、レミネッセンスの発生を期待する場合もある。その状態にしてから、プラスの要因を増やして技術バランスを改良しようとするトレーニング戦略である。


実射トレーニングの大原則は『当たるときには数多く、当たらないときには数少なく』であり、『当たるときはそのまま続け、当たらないときは姿勢を変える』ことである。勿論1発や2発の失敗ですぐに中止することはないが、30発撃っても自分の平均点が出ない場合などは何か工夫が必要である。


例を挙げると、立射で90点くらい撃てる競技者が、88/84と撃ったとする。この競技者は20発後に休憩を入れ再び実射に入ったが3シリーズ目も88点だった。彼はさっさと立射を中止し、膝射に移った。一般的に言って彼の判断は正しいであろう。彼は元来90点の力があるのでそのまま撃ち続けるとそのうち93や94のシリーズが出てくるであろうが、全体としてはマイナスのトレーニングの要素が多くなってしまうであろう。このような日は姿勢を一度変えてその後再び立射に戻るか、別の姿勢で成績がよければその姿勢を続けるほうが合理的である。当たらないからといって頭に血が上り、当たらないまま80発も100発も当たるまで撃つといったことはトレーニングとしては最悪である。


仮に88/84/88/92/85/92/89/88/93/94/と推移し最後のシリーズの出だしで8/8/9/7と撃ってやめる…誰にでも経験があろうがトレーニングとして得られるものは93/94の可能性を確認するだけで、技術的には確実にマイナスである。計画を中止したり変更したりすることも実射トレーニングの中では必要なことである。(基本的には採点射撃は試合だけでも良い)


初心者やシーズン初めの実射トレーニングは通常白紙標的から入る。標的を裏返しての実射であるが、目的は銃のコントロールが最も良い時期に弾が出るようなトリガーコントロールの学習・確認と、フォロースルーの強化である。この時期の白紙上でのグルーピングの評価は大きな意味を持たない。実射行為の中で照準による破壊要素を取り除いての練習であるので、白紙は銃口の安全方向の目安と反動確認のための台紙であると割り切ったほうが良い。白紙でもフロントサイトと標的のエッジを確認すれば良いグループは作れるし、本当にそれで集弾するなら黒点を出しても黒点を照準せず標的のエッジを照準対象にすべきであろう。実際に初心者では標的のエッジ照準のほうが高得点である場合も多い。(一例をあげているだけでこんな照準は練習しなくて良い、念のため)また立射ではフロントリングを外したほうが良いグループを示す初心者も多い。グルーピングがどうしても気になる場合は白紙標的も使用せずにバックストップに向って射撃する。


実射トレーニングの次の段階は、グルーピングである。グルーピングは黒点に向けて撃発する実射であるが、得点の良否にとらわれること無くできるだけ技術そのものに集中できるようにサイトを標的の白い部分に合わせて射撃をしたり、スコープを見ないで10-20発単位で標的に撃ち込んだりする撃ちこみ練習である。グルーピング練習の際は、自分の集弾を調べることだけではなく、集弾面積を小さくすることを目標としても良い。テンプレート定規の円などを利用してサイズを計測する方法もある。目標としては例えば立射で7点の円内(50mでは7.7〜10.9の弾痕に相当する)集弾する6発のグループを7枚作るといったものになるであろう。


実射トレーニングの最終段階は、サイトをゼロイングしスコープで弾着を確認しながら射撃を行う採点射である。勿論採点射という名称であるが技術目標によっては得点が評価の対象にはならない場合もある。ともかく試合での射撃と同じ形態で実射を行うトレーニングであるので、最もトレーニング効果の高い練習方法である。


採点射の技術的目標は10点を得る(よい撃発を完遂する)ことである。採点射で技術的にプラスになることは10点を撃つことであると理解してもらいたい。初心者では10点はおろか8点でさえもまぐれでしか入らないという人もいるだろう。そのような技術レベルでは10点を大きくする。初心者の50mでの立射などでは7点圏あたりまで黒マジックなどで塗りつぶしてしまい6点圏まで10点圏にしてしまう。仮にこの競技者をレベル6と呼ぶ。とにかくこの競技者はレベル6で100点(10発全弾6点圏に入る)を目標とする。その次にレベル7で100点を、そしてレベル8へと進んでゆく。100点で無くとも90%の10点命中率でも良い。このときに“レベル6では100点だけど実は80点だ”などと評価しないことである。この練習の目的は自分のコントロールの下で技術を発揮することにあり、それが可能であれば練習により銃の静止が向上すればそれに比例して得点が向上するという技術的予測にも基づく練習方法であるからである。この練習では本当の得点に対する好奇心との戦いも必要であるかもしれない。時々立射で60点台を連発する初心者もいるが、このような人ほど中心を捉えることだけに集中し、何時までたっても80点も撃てない。このレベルでは油断すると銃口が黒点を離れるレベルであり、オリジナルの10点はおろか9点を狙えるレベルでもない。落ち着いて射撃方法を考えるべきである。


レベル射撃は伏射や膝射でも使用できる。初心者では伏射はレベル8から膝射はレベル7あたりから出発すれば良いとおもわれる。上級者のエア・ライフルの伏射などは9点のラインを内側から切れば9点とし(これは非常に難しい)その仮想10点率でトレーニングする方法もある。


実射トレーニングの中には試合参加も含まれる。自分の目標としている試合ではなく、それ以前に開かれる比較的小さな試合を意味する。そのような試合では、自分のメンタル的なテクニックの練磨や技術の公的評価を得ることを目的とする。またそのような試合を通じて得点や順位ではなく、競技中のパーフォーマンスを冷静に評価し対処する能力を養成する。



B-10 成績(記録)の評価 


成績(得点)を記録しておくことは技術解析には決定的な意味を持つわけではないが、多くの競技者は数字に技術の評価を頼っていることも明らかな事実である。まぐれ当たりでも1度国体で上位に入ればそのレッテルが暫くは付いて回るし、自分もその気になる。これは良いことであるが、仮に技術の進歩の進捗状態を数字に頼るならばより正確な指数を用いたい。


自己新記録は重要な目標であり、自己の動機づけには大いに使用すべきであるが、実は自己記録は技術を評価する指数としては役に立たない。競技者の成績を評価する際、平均点をそのよりどころとし、シーズンを通しての評価は全試合中それまでの平均点を何回上回ったかを基準とすることには自己新記録を評価対象とする場合に比べより合理的である。統計学的にはよりどころがないが、統計学が成立するほど多くの競技会に出場できるはずもなく、結構正確にシーズンの評価が可能になってくる。3姿勢の場合各姿勢の得点の標準偏差の大小でその安定性がはっきりうかがえるし、次シーズンの重点強化対象の決定には大きな資料となる。過去と違い現在では機械が勝手に計算してくれ、グラフまで作成してくれる。特に射撃部員の記録評価には適していると思われる。


例として、得点の生グラフと平均点グラフ、各試合の平均点からの上下棒グラフを掲載するので参考にしてもらいたい。記録グラフ

A選手の去年の成績

 

記録

平均点

平均点との差

1

539

539.0

0.00

2

545

542.0

3.00

3

544

542.7

1.33

4

544

543.0

1.00

5

552

544.8

7.20

6

556

546.7

9.33

7

551

547.3

3.71

8

558

548.6

9.38

9

539

547.6

-8.56

10

549

547.7

1.30

11

550

547.9

2.09

12

549

548.0

1.00

13

561

549.0

12.00

14

555

549.4

5.57

15

554

549.7

4.27

16

553

549.9

3.06

 

記録グラフでは毎回の良し悪しは明瞭である。この例では年に2回ピークが来たことがうかがえる。数年間のグラフが同様であれば上級レベルに達した時の年間計画にその傾向を加味したものを加えることができる。


一方同じ成績変化で下の平均点の変化グラフではほぼ常時右肩上がりである。このシーズンが技術的には大成功であったと評価してよい。この例では542-3のレベルから550のレベルに向上したことが明らかである。シーズン最後の成績は561-555-554-553と一見低下傾向を示していると見られるが、実はこの成績で平均点が徐々に上がっている。理性的な技術的判断では合格点を出しても良い。多くの競技者はこの絶対得点の低下の現象にうろたえ、射撃に変化を加えることによりせっかく定着傾向にある以前より好ましい技術を崩してしまう。変化を加えるべきかどうかは平均点の推移で判断するほうが安全である。





 各試合の記録とそれまでの平均点の差を表示したものが下図である。毎回の得点の上下(良かった悪かったの印象)に反して、初回を除く15試合のうち、14試合でシーズンのその時点での平均を上回っている。このことは非常に肯定的に捉えるべきであり、次のシーズンも同様のトレーニングを繰り返すべきことを示唆している。経験では成功シーズンの競技会での得点が平均を上回る率はトップレベルでおおむね70%以上である。






B-11 体力トレーニング ガイドライン


 

射撃競技において体力の優劣が表立ってパーフォーマンスを決定するようなことは少ない。技術的には筋力を極力使用しない体の姿勢を追及するわけであるから、体力で技術を補うことはほとんどできないともいえる。しかし、体力は確かに射撃競技において次の2点を決定付ける要因として考えられる。

1 関節に対するストレスによる故障の発生率

2 競技を通じた集中力の維持能力


B-11A 筋力トレーニング

1に関しては関節系の故障、とりわけ腰痛障害の発生率に筋力が大きな影響力をもつことを意味する。立射で数多く発生する腰痛の防止としては、腹筋・背筋の強化、ハムストリング(ふとももの裏側の筋肉)の柔軟性の向上が上げられる。勿論最も大きな要因は、競技者が合理的な姿勢をとっているかどうかという点を忘れてはならない。合理的な姿勢は関節に対するストレスを分散させ、ひとつの関節に対する負荷を軽減する。不合理な姿勢を筋力で補うという考えは成立しない。

脊椎では上下方向の安全な範囲のストレスの他にずれを起させる力が加わるが、この力を受け止めるのが筋肉であるといえる。この点では筋力は大きいほど安全であるということが言える。専門的に競技に取り組む意思のあるものは脊椎を保護する腹筋、背筋は強靭でなければならない。脊椎周囲の筋力が充分でないと志半ばで障害に悩む可能性が非常に高い。男女別には男性のほうが腰痛は早期に発現する傾向が強く、導入時期から定期的な筋力トレーニングの実行は推奨される。一般的に理解しやすい数字として、腹筋、背筋運動の繰り返し回数は最低限200回としたい。サンデーシューターの場合も筋肉強化以前に筋肉細胞に働くことを覚えさせるため、例えば入浴前に2-30回のゆっくりとした腹筋、背筋運動の実施を推奨する。(この程度の回数ではダイエット効果はないのでちょっとした健康法程度に考えるほうが健全である)

 筋肉は筋繊維の束からなり、筋繊維は筋細胞のつながりである。筋細胞の特性としては大雑把に分類して、速筋繊維(FT繊維=主に細胞内の炭水化物を直接燃料とし、収縮スピードは速いが疲労しやすい特質をもつ)と遅筋繊維(ST繊維=酸素を媒体としたエネルギー代謝が得意で収縮スピードは遅いが疲労しにくい特質をもつ)の2種類がある。射撃のように強度の低い運動では(据銃時の消費カロリーは基礎代謝に加え1.6-1.9kcal/分=軽いジョッギング程度)FT繊維がまず運動に参加し、FT繊維が疲労してしまうとST繊維が運動に参加する。筋力トレーニングでは強度の低い運動の繰り返しによりST繊維の活性化が第一目標となる。この目的のトレーニングでは筋繊維の増加や最大筋力の増加はほとんど起こらないが、筋繊維の酸素活性がたかまり有酸素能力の向上が期待できる。

筋力トレーニングの詳細は専門家に任せるとして、ここでは自分でトレーニングを考える場合の原則を確認しておく。

筋肉を鍛えるには日常使っている範囲を越えた負荷を筋肉に与える必要がある。すなわちトレーニングとして捉えた場合、腹筋運動が100回できるものにとって10回の腹筋運動ではトレーニング効果が無いということである。また100kg持ち上げられるものにとって20kgのウェイトでは筋力アップは期待できない。最大繰り返し数(RM=repetition maximum)であれ、最大筋力であれトレーニング効果のできる数値はそれらの60%以上(諸説ある)の負荷がかかったときと理解されたい。例えば腹筋運動が100回できるものにとってその人のRMは100になる、60%は60回であるのでこの人は60回以上腹筋運動を実施しないと筋力強化には繋がらない。仮に毎日80回やったとすると、おそらく数週間でその人のRMは150に達するであろう。その時点では既にトレーニング効果はほぼ無くなってきたといえる。この場合は回数を増やさなくてはならない。

 

筋力が強化されてくるとこのやり方では時間がかかってしょうがない。その場合はウェイトを持つ。頭の後ろにウェイトを持つと、おそらくそのウェイトでのRMは激減する。10kgも持つと当初のRMは10回程度であろう。それがトレーニングを重ねるにつれ、10,20と漸増する。RMが30になった時点でウェイトを15kgにするとRMは激減する。この方法で腹筋と背筋をトレーニングする場合、所要時間は10分程度ですむ。即ちお風呂前のトレーニングが成立する。筋力がつけば(筋肉が動くことに慣れれば)トレーニング負荷は増やされなければならない。

増強された筋力は3ヶ月のトレーニングの継続で体に定着するといわれている。個人的経験では腹筋のRMを50から300に上げるのに3ヶ月を要した。4ヶ月でトレーニングは終了したがそれから15年経過した現在でもRMは100を越えている。徐々に筋力は低下するがその年月を勘案すると非常に長持ちする。

さらに注意点としては、筋肉は関節を挟んで常に2グループ一対で仕事をする。腕を例にすると、腕を曲げる際は上腕二頭筋(力こぶ)が収縮し、腕の裏の上腕三頭筋が伸展する。上腕二頭筋が縮みすぎると関節が外れるので腕が曲がりきる直前に裏側の三頭筋がブレーキをかけて関節を保護する。逆の場合も関節を保護するために二頭筋が働く。野球の投手は技術としてこの筋肉の働きがぎりぎりのところで投球している。このことは筋力トレーニングでは必ず表裏一対でトレーニングする必要性を示している。腰痛防止のため腹筋運動だけを行うのは片手落ちで、必ず裏に相当する背筋のトレーニングを同時に行いたい。また全ての関節角度での筋力を得るため運動はなるべく遅いスピードで実施することも重要である。反動をつけた腹筋運動は効果半減である。


 

B-11B 持久力トレーニング

詳細はエアロビクス関係の文献を読んでもらいたい。

射撃では一般体力=全身的な健康は集中力の持続性に影響するといわれている。その点では同感である。しかし、ペンシルバニア大学の研究では一般体力のバロメーターであるエアロビクス能力(Vo2max)の優劣と射撃のパーフォーマンスに有意な関連性は見つからなかったという報告もあるし、経験的にはそのとおりであると思う。MTUの研究でも体力向上のうち筋力面での向上は据銃能力に僅かな改善を示すが、心肺機能の向上と据銃能力には因果関係がないと報告されている。

しかしながら心肺機能の向上が一般防衛体力の向上に寄与することは全く疑いないので、この視点では強化してもらいたい。しかし生活時間のスケジュールとして、射撃のために毎日1時間ジョッギングするならその時間は技術訓練に当てたほうが有効であると思われる。

平均以下の持久力のものは少なくとも平均並には強化することを進める。例えば10km連続して歩く気がしない人や10km歩くと凄く疲労すると感じている人である。そういった人は射撃には向かない。その程度が苦になる人は一般生活での体力に不足しているわけであるから、射撃の遂行にもその持続性が疑われる。特にあらたまってトレーニングしなくても通勤の1駅分を歩くとか、2km以内は車に乗らないとかいったことでも良いと思われる。

持久力のトレーニングは次のような効果をもたらす。

@       体(細胞)の有酸素能力を高めスタミナがつく
A       必要なときに急速な空気(O2)を肺に取り入れる能力がつく
B       大量の血液を体に循環させる能力がつく
C       抹消血管が活性し、体全体に酸素を送り込む能力がつく

これらは全て射撃には有効であり、一般生活上も向上させたい能力である。チームを運営する場合、練習の最後には2km程度の速度の遅いランニング、または10-15分間走を実施するのが良い。その主な目的は、血流の増加により疲労物質の代謝を促進すること一対の筋群を動かすことによる体のバランスの維持にある。純粋にエアロビクス能力を高めるには1kmのランニングは一般には時間が短すぎて不足である。また激しいが心拍数がすぐに下がってしまう補助スポーツ(テニスや50mで終わってしまう水泳)も効果が低い。もしトレーニングするなら強度は低くてよいが10-20分心拍数の上がった状態が持続する運動を取り入れたい。


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