麻苧(あさを)の瀧

 人にはそれぞれの思い出がある。今回は、私にとって思い出深い
場所を探索してみた。瀧を見るという趣向を理由にして。国道十八
号を信州に向かって走る。天気の良い日なら碓氷川に沿って続く山
並みが眼を楽しませてくれるはずだ。西上州の山域で屈指の名岩場
を持つ「裏妙義」の山々である。「丁須の頭」と呼ばれている岩山も
そのひとつなのだが、川の対岸に屹立するその山容にはいつも驚か
されてばかりいる。体力、気力、共に自信のない私にとっては、登
れそうもない山の一つにすぎないのだが、名前もさることながら、
その、姿、形には惹かれるものがあり、「裏妙義」という呼称を聞
く度にいつも「丁須の頭」を思い出す。

 霧積川と碓氷川が合流する辺りの風景が、私には懐かしい。まだ
若かった頃、友人と二人で夜の信越線に乗って霧積川の鉄橋を渡っ
た時のあの夜風と鉄路の響きが思い出されるからだ。今はもうその
響きも無く「横川」の駅の側には「鉄道文化むら」が作られ多くの
観光客で賑わっている。

 「麻苧の瀧」という名瀑が横川にある、と聞いたのはいつ頃の事
だったのだろうか。碓氷川と霧積川が合流する地点より、やや下方
の対岸に「丁須の頭」への登り口がある。「麻苧自然公園」と名
付けられてはいるが、夏季以外の季節は静かなもので子供連れでの
散策にはうってつけの場所だ。夏場には「碓氷梁」で賑わうところ
だから、知っている方も多いと思う。「麻苧の七瀧」と呼ばれ、小
さなものを含めれば七つあるという事なのだが、そこまでは確認し
ていないので、何とも云えないのだが「麻苧の瀧」の前後には小振
りだが幾つかの瀑布が存在する。瀧の源は、丁須の西の中間峰より
発し、碓氷川に至る。高さは四十M余り、断崖から麻の簾を垂らし
たように見えるところからその名がある。古くは、山岳信仰の修験
場として栄え、山中には多くの石仏がある。碓氷川には吊り橋が懸
けられていて、川面の風が心地良い。流れに沿って山道が付けられ
ていて、ゆっくりと登っていける。急峻な場所もなく穏やかである。
ちょっと狭くなった所を抜けると、いきなり眼前に瀧の雄姿が立ち
現れる。思わず「オッー」という声が出る。揺れる釣り橋を渡って
瀧壷の付近まで歩く。途中に横川出身の俳人「清水寥人」の「天眷
の瀧ひっさげて裏妙義」の句碑がある。「麻苧の瀧」を愛し自ら「あ
さを社」をおこし、群馬の俳史に大きな足跡を残した。

 国道十八号を横川へ向い、碓氷バイパスへは入らずに旧道へ、
(左側に入る)。左の旧道へ入ってすぐに道は緩くカーブしながら
下り、大きく右へ登り上げる。そののぼり上がるカーブの頂点に左
へ降りる道がきられている。カーブの頭に、「麻苧の瀧、丁須の頭」
の看板があるが、ゆっくり走らないと見落とす。私も時々通り過ぎ
てから、あわててひっ返す事がある。駐車場は下に降りてから右奥
にある。対岸へは「あさをの吊橋」を渡る。碓氷川へも降りられる
ので厳冬期以外なら結構楽しめる場所である。

また、見に来て下さいね。お待ちしてます。

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