「新隠居論」     大橋政人

            詩学社  頒価2500円


 「死ぬときに」

人は

死ぬときに

風景を

一人分の厚さだけ

ひっぺがえして持っていく


何人も何人も

人は死んだが

一人ひとりが

遠慮がちに

少しだけ風景をひっぺがえして持っていった


その奥に

何か確かな

芯のようなものがあるような気がする

という弱さのせいもあるし

みんなが生きている

という社会への気兼ねもあるのだろう


死ぬときに

そっくり

風景を持っていってしまった人は

めったにいない



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