「退屈しないひと」     野口武久詩集

        思潮社    頒布価格2200円


 「行く日」

天井から吊された

あじさいのひとにぎり

あのうすむらさきを閉じ込めたまま

はるかに超えた

秋の終りが過ぎる

ふれれば

骨のように鳴る

砂よりもかるく

骨よりもしなやかなもの


まだどこかに生が隠されているらしい

さらされ うらがえされ

めくれあがった形象の距離に

風は盗人のように吹きぬける

ひからびた川に

すべての時は流れ

もはやこれ以上変りようのないものが

吊されている

つかもうとしてついにつかみきれなかった

幻影の花びらがゆれている

たどりつこうとしてたどりつけなかった

色の深さがゆれている

はてしない闇の向う

天の広野にゆれている



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