宮前利保子詩集
   カタクリの花の咲くころ

         河書房   頒価2000円

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ひたすら待つ


車は水上インターから 関越自動車道へすべり込む
霧が雲のように流れ一日の疲れは解き放たれて

カーブに差しかかると にわかに霧が湧き 立ちはだかり
数珠つなぎの車を呑み込んでいく

引き返すべきか いや引き返すことはできない

閉ざされた視界 音のない密室
高まる苛立ち 逃れることはできない
ただ一人 ハンドルを握って

前方を走るほのかな明かりに 車両間隔は保たれ
センターに立つ反射板は
わずかな光でわたしの肩のあたりを 掠めて過ぎる

はりつめた神経は わずかな情報を捉え霧の中をいく
叫びたくなる孤立感 耐えねばならない
街の一室で ひとり死んだ義弟Mの顔があらわれ
耐えてきた 寂寥なくらしが見えてくる

ブレーキを踏みたい心を押しとどめ
立ちはだかる濃霧から
抜け出せる時を ひたすら待つ


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