詩集・人差指    平方秀夫

                日本未来派叢書 頒価1700円

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    夜と森

この森は旧陸軍の
岩鼻火薬製造所の跡地だったが
欅 樫 松 樅 の大樹が
あの時のまま突っ立っていた

少年の頃
ドドン ドーン 地響き
家を飛び出してみると
岩鼻火薬製造所に火の手があがった

晩秋の午後
跡地に建った美術館で
フランス象徴派展をみた
ルノワールの裸婦の前で
私は釘付けになった
妖艶な裸婦への思いではなく
ルノワールが語りかけるのだ

夜になると
森は死者の影を引きずって
美術館の階段を這いあがってくる

そう言えば
何十年もの間には
数え切れない程爆発したが
死んだ人の数は秘密だった

閉館時刻
美術館を出ると
強い風になっていて
あり続ける森の樹々をきしませていた

激しく迫るきしみは
焚殺された死者たちのうめきだ



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