鯛の目 鯛のひれ     黒河節子詩集

        思潮社    頒布価格2200円

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 宵櫻

やがて暮れる川岸に
櫻は三分の花を開いて
人を迎え 人を送る

人目をさけて
手折った一枝は
病床の母の許に届けられた
枕辺を飾ったいっときが
母の最期の櫻となった


雨上がりの川面を覆って
流れてゆく花びら
風が肩をたゝき
花を染める月の光


五十年という時の流れを
人は半世紀と区切って
走馬燈を廻す
城址に遊ぶ童らの手に
善の毬 悪の毬


送り送られる土堤の人波を
一方通行にさばく
宵櫻の精を見た日
人はしばしの宴に酔うがいい
毬を投げあって遊ぶがいい



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