詩集「大人の日」    富沢 智

                榛名まほろば/定価1500円

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「天女の羽衣」

それは春の嵐が
杉花粉をもうもうと吹き上げて
北開東からお江戸へと
大股で攻め入ったあくる日のこと

あらあらどうしましょう
静まりかえった空の一角から
ドジな天女の声がしたと思いねえ
なんて瞬間はうつくしいのだろう
それは静かに長い尾を引き
      まさに地上に舞い落ちるところ

こいつは吉兆だぜ
あれはどこかの畑で
葱苗かなにかを覆っていた布じゃねえ
金色の雲のほとりで
まあすごい
なんて見下ろしていた天女の落とし物

いや そうじゃねえな
あたしこんなお仕事やめたわ
なんてね
下界に向けておしっこして
さっと拭いてばあっと捨てちゃった
そんなものかも知れねえなあ

それは春の午前の
とてもなやましいひとときだったので
天女の羽衣が降ってきたと
思いたかっただけのこと
ああそうとも
白え寒冷紗だったよ
・・・・・・・・・
お馬鹿さんねえ


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