詩集「触れないままに」    平方秀夫 

                 紙鳶社/


「橋からみていると」

私の問いを

川面が映さないのは

葦が両岸から

川を覆っているからだろうか


軍馬から落下して化膿した

兄の右大腿骨の

十四の傷口を

川は映していない


したたり落ちる

膿のにじんだガーゼを

その穴から

たぐりあげる手 母

も映っていない


ひび割れた指のさけ目から

にじみ出た母の血を

烏川は赤い一条に流したのに


今日は彼岸の入り

高い位置に架かった

橋からみていると

母が次兄をベッドから下した

あのときのままの像で

葦の河原に

下りてくるところだ



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