新田正一路詩集・刻まれた風景      

                 紙鳶社


「夜の郭公」


かすかな声に目覚めると

裏の丘の林の中で

郭公が鳴き続けている。


カッコー カッコー カッコー


外の霖雨を透して

単調に連続して聞こえるその声は

私の胸の底にしみ込んでくる。


七十歳を過ぎてから

老いの症候を

繕い繕いながら生きる日々―


誰にも見せられない心の奥底の

囲いしこりに

かすかな鳴き声は投影する


ああ私も 身体も心もひとつに凝縮して

誰もいない丘の林の

夜のこまかい雨の中で

うつろになるまで

鳴き続けてみたい。



「新刊」に戻る.......「TOPに戻る」

本のお申し込み、お問い合わせ等はここをクリックして下さい。