詩集・エッセイ/いいださんちのおばちゃん

飯田光子

                 紙鳶社


「妾猫」


猫のブチオが怪我をした

耳の付け根あたりを

恋敵にでもやられたらしい

赤チンを塗ってやったが

じきに膿をもって手術

さぞかし痛かったろうが

こっちだってフトコロが痛かった

飼い主の痛みというのは

なにかブルジョワ気分だったな


ブチオは時にブタオと呼ばれ

食欲旺盛暴れはっちゃくだったが

怪我をしてから急にしおらしくなり

妾猫みたいに鳴くようになった

体にモノを言わせていたのが

目でモノを言うようになり

今ではブーコちゃん、なんて

チャンづけでよばれている

そういえば投薬袋には

「飯田様ブッチーちゃん」なんて書いてあったな

戸籍名のごとく

字の読める猫だったら

コレを何と思っただろう



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