詩集・水辺の机        富沢 智

                 砂子屋書房   頒価2500円


「廃屋にて」


さて

楽しい夢の話はおしまいだ

榛名の廃屋で

おれは

ちっとも成長しなかったおれと

さしつさされつ暮らすのさ


人は遠くをあゆみ去るもの

あるいは

輝く風景を車体に映しながら

軽やかに疾駆するもの

そのように美しいものだと

思い知れ


なんでいまさら

破産した屋号をかかげてさ

どこにもいない黄色い嘴の

はぐれ鳥を呼び寄せようというのか

まいにちまいにち灯りをともして

餌撒いて


ある日

きみはうす汚れたコートを纏って

昭和の闇のなかから現われる

なぜだか分かんねだろ

あんたの客はみんなこっちで飲んでるのさ

ついてはこれがご案内だがね

きみはガリ版刷りの紙片を差し出すと

一陣の風となった


新しい夢ってやつは

ずいぶん古ぼけていやがるな

これが最新ウィンドウズ搭載

刻々と書き替えられる現在の

真の孤独というやつさ


訪問者無し

いや

滑稽なやつがいつも一人



「新刊」に戻る.......「TOPに戻る」

本のお申し込み、お問い合わせ等はここをクリックして下さい。