「烏川」     平方秀夫

                 紙鳶社  頒価2000円  


 「地下水となって」

とびついたポンプの柄に

ぶらさがったまま地に足がつくと

チョロチョロと水が出た

ちいさな掌で

すくって飲んだ


兄も姉も学校に行き

父と母は

桑つみに出た

父が植えたアカシヤに

白い花が咲いた


春蚕だと母が言ったが

初夏だった

遠いことのようにも

ついこの間のことのようにも思える

水のうまさが

アカシヤの花の季節に

私の舌に湧く


時と場所が

こんなに難れたというのに

烏川の水が

地下水となって

さしてくる



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