輪廻の林に
転生の森に
樹は見て来た
千年の空の色
千年の人の歴史
あらゆるものの誕生と死
西からの風が吹く
あんなに早く雲が走る
枝をゆらし葉をそよがせ
すこしずつ身軽になってゆく
樹は聴いている
じっと
千年の音
梢を過ぎる風の音
鳥たちの声
内なる水の流れる音
行方不明者を尋ねる放送が
初冬の空にひびくのを
樹は悲しんでなどいない
人の世の苦悩も悲嘆も
戦争も災害もテロも復讐も
あずかり知らぬこと
葉を鳴らし枝をこすり合せて
樹が呟いている
ああどうでもいいことだ
なにもかもおろかしいことだ
悠久の流れの中で
ひたすら年輪を重ねてゆくのみだ
いつか地に帰る日まで