2022フェブラリーS


サウスヴィグラスの画竜点睛

 ワールドベストレースホースランキングなどでおなじみになったオフィシャルレーティングの距離区分は短い方からS、M、I、L、Eの順に5つに分かれている。Sはスプリント、Mはマイルだが、これら2つの境界はダート・小回りコース主体の北米と、その他の地域では異なっている。日本や芝主体の欧州などでSは1000m〜1300m、Mは1301m〜1899mとなっているのに対し、北米ではSは1000m〜1599m、Mは1600m〜1899mで、Sのカバーする部分が大きい。これはダートだからというよりも、多くの競馬場が1周1マイル≒1600mの小回りで、伝統的にそこで行われるワンターンのレースをスプリント、1周する1600m以上のレースをルートと呼んで分けてきたためだろう。日本で1400mはMに属するわけだが、ダートを北米的なものと見れば1400mと1600mは異なるカテゴリーと考えることもできるし、逆に東京ダートなら1400mも1600mもワンターンだからどちらもスプリントともいえる。実際、過去に遡るとスプリント系の根岸S-G3とルート系のチャンピオンズC-G1や東海S-G2の活躍馬のここでの成績は拮抗している。スプリントの延長である場合もあるし、そうはならない場合もあるということのようだ。
 ◎テイエムサウスダンは過去に1400mばかりで重賞勝ちを収めてきたが、前走の根岸S-G3は初めてのワンターンの1400m重賞だった。この勝利は父サウスヴィグラスUSAとの父仔制覇ともなった。エンドスウィープ産駒の米国産馬サウスヴィグラスUSAは33戦16勝。JBCスプリントなど8つのダート重賞を含む16勝がすべて1400m以下というスプリンターだった。1600mには3回挑み、ヒヤシンスSではタイキヘラクレスから0秒1差の2着、武蔵野SではクロフネUSAから4秒4差の14着、フェブラリーSではアグネスデジタルUSAから1秒1差の6着だった。相手も悪いが、それ以上に距離が長過ぎたのは事実だろう。種牡馬となってからもダートのスプリントという実用路線で成功し、その中からラブミーチャンをはじめとする大物も出した(下表)。更に年を経ると関東オークスのタイニーダンサー、ジャパンダートダービーのヒガシウィルウィン、ロジータ記念のルイドフィーネら2000m以上でも活躍するものが出てきた。このあたりはエンドスウィープUSA〜フォーティナイナーUSAと遡る父系の懐の深さによるところも小さくないと思われる。都合よく解釈すると、種牡馬生活後半のサウスヴィグラスUSAは距離をこなせるスプリンター種牡馬への変化があった。本馬は1600mで2戦して父以上の負けっぷりなので、1600mをこなせる裏付けはなくて可能性があるだけだが、SとMの境界で行われるあやふやさの中にチャンスが潜んでいる。母の父ラングフールもダンチヒ直系のスピード血統なのは確かだが、娘の産駒にはケンタッキーオークス-G1のプラウドスペル、フロリダダービー-G1のマテリアリティらが出ている。牝系は5代母ノークラスの産駒にロスマンズ国際S-G1のスカイクラシック、ブリーダーズCジュヴェナイル-G12着のリーガルクラシック、孫にカナダ三冠とブリーダーズCディスタフ-G1を制した名牝ダンススマートリー、フィリップH.アイスリンH-G1のスマートストライクがいるカナダの名門。ダート重賞卒業生としてダート重賞活躍馬を次々に送り出した名種牡馬サウスヴィグラスUSAに唯一欠けているのがパート1G1の勝利で、今回はそれを贈る最大の好機。


サウスヴィグラスUSA産駒の活躍〜ダート重賞勝ち馬一覧
馬名生年毛色母の父主な重賞勝ち場所距離通算戦勝重賞
勝数
コーリンベリー2011コーリンラヴィアンミシックトライブUSA2015 JBCスプリント大井120029-8
サブノジュニア2014黒鹿サブノイナズマカコイーシーズUSA2020 JBCスプリント大井120044-12
ヒガシウィルウィン2014プリモタイムブライアンズタイムUSA2017 ジャパンダートダービー大井200044-15
ラブミーチャン2007ダッシングハニーアサティスUSA2009 全日本2歳優駿川崎160034-18
タイニーダンサー2013鹿キハクアサティスUSA2016 関東オークス川崎210023-6
テイエムサウスダン2017鹿ムービングアウトLangfuhr2022 根岸SG3東京140018-9
ナムラタイタン2006ネクストタイムアフリートCAN2011 武蔵野SG3東京160052-21
ヒロシゲゴールド2015青鹿エフテーストライクブラックタキシード2021 北海道スプリントC門別120033-7
キタサンサジン2012キタサンヒメカコイーシーズUSA2017 東京スプリント大井120041-7
エイシンヴァラー2011鹿エーシンラージシーシンボリクリスエスUSA2018 黒船賞高知140056-17
ハルサンサン2008鹿ハルワカワカオライデン2012 TCK女王盃大井180023-5
トーホウドルチェ2005黒鹿トーホウウインドブライアンズタイムUSA2010 マリーンC船橋160037-7
ハニーパイ2010鹿チャームカーニバルアサティスUSA2012 エーデルワイス賞門別120010-3
アークヴィグラス2016キセキノショウリフジキセキ2018 エーデルワイス賞門別120022-7
ストロングハート2015ファーストレディスマートボーイ2017 エーデルワイス賞門別120025-5
成績は2月15日現在、キタサンサジンは障害6戦1勝を含む

 昨年暮れのドウデュースの朝日杯フューチュリティS-G1制覇以来、ハーツクライ産駒の2019年生まれ世代が勢いを増していて、マテンロウレオがきさらぎ賞-G3に勝つと翌週はダノンベルーガが共同通信杯-G3に勝った。この勢いは上の世代にも波及し、東海S-G2を○スワーヴアラミスが、東京新聞杯-G3をイルーシヴパンサーが制した。勢いには便乗しておくべき。ハーツクライ産駒は芝向きが多く、本馬も母ベイトゥベイUSAがカナダの芝でG2とG3に勝ち、その父スライゴーベイはサドラーズウェルズ系の芝G1勝ち馬、祖母の父ウィズアプルーヴァルはカナダ三冠の芝ダート二刀流ということで、芝向きと出て不思議のない血統ながら、ダート転向が出世につながった。ハーツクライ産駒で米国に渡ったヨシダが芝のターフクラシックS-G1勝ちのあと、ダートに転じてウッドワードS-G1に勝った例もあるので、決めつけない方がいいということかもしれない。

 近年のダート界で目立つのはエーピーインディ系の勢力拡大で、昨年はカジノフォンテンとテーオーケインズ、▲ミューチャリーの3頭で大レースを5勝した。ミューチャリーは祖母がチューリップ賞2着のゴッドインチーフ、米国の名門ネイティヴストリート系で優駿牝馬-G1のヌーヴォレコルトが出た活気ある分枝。

 △サンライズノヴァはこのレースで3頭の産駒が4勝を挙げるゴールドアリュール産駒。叔父サンライズバッカスは2007年のこのレースの勝ち馬。同郷のサンライズホープはエーピーインディ系だけに侮れない。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2022.2.20
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