2021ヴィクトリアマイル


名マイラーの血が騒ぐ

 2006年に創設されたこのレースは過去15回で1番人気の勝利が2009年ウオッカ、2010年ブエナビスタ、2013年ヴィルシーナ、2020年アーモンドアイの4回しかない。過去10年の3着以内30頭の人気を平均すると5.77番人気となっているので、滅多なことでは堅く収まらないと考えた方がいい。過去10年の3着以内30頭の3代目、つまり父、母の父、祖母の父を並べてみると、その多くの部分を名マイラーの名が占めていることが分かる。下表に示したとおり、30頭中23頭は父、母の父、祖母の父のうち1頭ないし2頭に1600m(または1マイル)のG1級レースの1着(または1位入線)の経験があった。大体において優れたスピードを備えたものが名種牡馬になる場合が多いので、血統表中にマイラーの名がないことの方がむしろ稀といえなくもないが、30頭中23頭という数は信じてみてもいいのではないだろうか。ちなみに今回の出走馬でこれに該当するのは、50音順でイベリス(父ロードカナロア)、クリスティ(母の父クロフネUSA、祖母の父フジキセキ)、サウンドキアラ(母の父アグネスデジタルUSA、祖母の父シアトルスルー)、シゲルピンクダイヤ(父ダイワメジャー、母の父ハイシャパラル、祖母の父シンダー)、デゼル(祖母の父マークオブエスティーム)、マルターズディオサ(母の父グランドスラム、祖母の父スピニングワールド)、レシステンシア(父ダイワメジャー)の7頭に過ぎない。大まかな見立てとしては、この7頭のうち1頭か2頭が馬券に絡む可能性はかなり高く、場合によっては3頭が上位を占めることもある。過去の例がそう語っている。
 ◎マルターズディオサの母の父グランドスラムは2歳時のフューチュリティS-G1が1マイルだった。米国はメイントラックの1周が1マイルの競馬場が多いためダート1マイルの大レースは意外に少ないので、これは貴重。祖母の父スピニングワールドUSAはジャックルマロワ賞-G12回、ブリーダーズCマイル-G1、ムーランドロンシャン賞-G1、愛2000ギニー-G1に勝った名マイラーで、2000ギニー-G1失格の大種牡馬ヌレエフの代表産駒の1頭といえる。父のキズナは今年に入って産駒がG1に6回出走した。本馬の高松宮記念-G18着、桜花賞-G1ではファインルージュ3着、ソングライン15着、天皇賞(春)-G1がディープボンド2着、そして先週のNHKマイルC-G1がソングライン2着、バスラットレオン中止だった。あと一歩が届かないと見るべきか、あるいは逆にもうそこまで近づいているのか、そろそろ答えが出るころかもしれない。ジャドモントファーム生産の3代母ラヴィッシュギフト以降、藤田家の下で育てられてきた牝系で、近くに活躍馬は少ないが、5代母ソーシャルコラムの産駒にプリンスオブウェールズS-G2のツータイミングがおり、6代母ミスカーミーの子孫にはニューヨーク牝馬三冠のクリスエヴァート、米2歳王者チーフズクラウン、ケンタッキーダービー馬ウイニングカラーズ、ジャパンC-G1のタップダンスシチーUSAと多くの名馬がいる。


血統中に潜むマイルGT実績
年度着順馬名人気母の父祖母の父
2011アパパネ2キングカメハメハ   Salt LakeSpectacular Bid
ブエナビスタ1スペシャルウィークCaerleonLord Gayle
レディアルバローザ3キングカメハメハTejano RunLord Gaylord
2012ホエールキャプチャ  4クロフネUSAサンデーサイレンスUSANashwan
ドナウブルー7ディープインパクトBertoliniリファーズスペシャル
マルセリーナ3ディープインパクトMarjuDistant Relative
2013ヴィルシーナ1ディープインパクトMachiavellianNureyev
ホエールキャプチャ12クロフネUSAサンデーサイレンスUSANashwan
マイネイサベル5テレグノシスサンデーサイレンスUSAマルゼンスキー
2012ヴィルシーナ11ディープインパクトMachiavellianNureyev
メイショウマンボ3スズカマンボグラスワンダーUSAジェイドロバリーUSA
ストレイトガール6フジキセキタイキシャトルUSAデインヒルUSA
2015ストレイトガール5フジキセキタイキシャトルUSAデインヒルUSA
ケイアイエレガント12キングカメハメハA.P. IndyRoberto
ミナレット18スズカマンボウォーニングGBファーディナンドUSA
2012ストレイトガール7フジキセキタイキシャトルUSAデインヒルUSA
ミッキークイーン1ディープインパクトGold AwayProcida
ショウナンパンドラ2ディープインパクトフレンチデピュティUSAディクタスFR
2017アドマイヤリード6ステイゴールドNumerousKenmare
デンコウアンジュ11メイショウサムソンマリエンバードIREサンデーサイレンスUSA
ジュールポレール7ディープインパクトエリシオFRMr. Prospector
2012ジュールポレール8ディープインパクトエリシオFRMr. Prospector
リスグラシュー1ハーツクライAmerican PostミラーズメイトGB
レッドアヴァンセ7ディープインパクトダンシングブレーヴUSAテスコボーイGB
2019ノームコア5ハービンジャーGBクロフネUSAサンデーサイレンスUSA
プリモシーン4ディープインパクトFastnet RockストラヴィンスキーUSA
クロコスミア11ステイゴールドボストンハーバーUSANashwan
2012アーモンドアイ1ロードカナロアサンデーサイレンスUSANureyev
サウンドキアラ4ディープインパクトアグネスデジタルUSASeattle Slew
ノームコア5ハービンジャーGBクロフネUSAサンデーサイレンスUSA
太字は1600m(または1マイル)のGT相当レースの1着(または1位入線)馬

 実際に安田記念-G1とマイルチャンピオンシップ-G1を勝った馬のマイル適性を云々するのもナンセンスなので、にはグランアレグリアを。ディープインパクト産駒の多頭数出走は牝馬限定G1で特に目立つが、今年は昨年の8頭を上回る10頭出しとなった。母の父タピットはウッドメモリアルS-G1(9F)とローレルフューチュリティ-G3(8.5F)の勝ち馬だから距離カテゴリー的にはマイル部門の名馬といえ、種牡馬としては中距離から長距離までこなす産駒を送ってチャンピオンとなった。母のタピッツフライはジャストアゲイムS-G1、ファーストレディS-G1と芝8FのG1・2つを含め米国で7勝を挙げていて、母も自身も名マイラーということになる。

 ▲デゼルは母アヴニールセルタンFRがプールデッセデプーリッシュ-G1(仏1000ギニー)、ディアヌ賞-G1(仏オークス)の勝ち馬。その父ルアーヴルはプールデッセデプーラン-G1(仏2000ギニー)2着、ジョッキークラブ賞-G1(仏ダービー)勝ち馬だから、父の達成できなかった2冠を娘が実現したことになる。祖母の父マークオブエスティームは2000ギニー-G1とクイーンエリザベス2世S-G1に勝った。当時のインターナショナルクラシフィケーションで133のレーティングを得て名マイラーの誉れが高い。クイーンエリザベス2世S-G1は休み明けの名牝ボスラシャムの取りこぼしだったんじゃないのかという疑念も個人的には持っているが、さすがステイヤー血統だけに母系に入ると底力を支える助けになっているようだ。

 △レシステンシアは父ダイワメジャーがマイルチャンピオンシップ-G1、安田記念-G1、再びマイルチャンピオンシップ-G1と勝った。産駒は堂々たるチャンピオンのアドマイヤマーズでさえ、3歳で頂点に立って以降は上がり目がなかったように、早熟の嫌いはないではない。しかし、父自身は皐月賞勝ちのあと喉の手術を経てマイルG1・3勝を5、6歳時に達成しているので、ノーザンテーストCAN的な成長力、息の長さといったものは秘めているはずだ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.5.16
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