2021スプリンターズS


親仔制覇は近いか遠いか

 この春の高松宮記念-G1ではロードカナロアとダノンスマッシュの父仔制覇が達成された。当然そんなことはサクラバクシンオーとその息子たちがやっているだろうと思われるところだが、これはキングヘイロー〜ローレルゲレイロに続く2例目。サクラバクシンオー自身はスプリンターズSを連覇して、産駒のショウナンカンプとビッグアーサーが勝ったのは高松宮記念だった。下表は大レースの親仔制覇の一覧。大阪杯はオルフェーヴル〜ラッキーライラックの父娘制覇があるが、父が勝ったときはG2なので含めていない。親仔がいずれもG1に勝つのも難しいことだが、同一レースとなると更に難易度が増す。その中で、さすがにクラシックと呼ばれるレースは親仔制覇の例が多く、距離は長い方が短いより成功例が多い。短い方は歴史が浅いという面もあるが、サクラバクシンオー的なスプリント専業種牡馬がなかなか出現しないことをみても、意図して短距離馬を作ることは実は難しいのかもしれない。

 ダノンスマッシュの香港カップ-G1と高松宮記念-G1父仔制覇によって、ポスト・サクラバクシンオーの地位に就いたロードカナロアは今回3頭出し。中でも軌道に乗った◎ダノンスマッシュの中心は動かしがたい。3歳時から同厩の先輩でもある父に似た戦績を残していたこともあって、大きな期待がかけられていたが、父よりはいくらか遅い出世となった。母スピニングワイルドキャットは米国の芝8.5Fで1勝。その父ハードスパンはダンチヒ晩年の大物で、ケンタッキーダービー-G12着、プリークネスS-G13着、ベルモントS-G14着と米三冠で快足を生かして健闘し、夏に7FのキングズビショップS-G1に勝った。祖母ハリウッドワイルドキャットはブリーダーズCディスタフ-G1など3つのG1を含め2歳時から4歳時までコンスタントに活躍して12勝を挙げた名牝。3代目に並ぶ種牡馬はキングマンボ、ストームキャット、ダンチヒ、クリスエスと大物ばかりで、ミスタープロスペクター4×4の近交となっている。隙のない良血で、G1級に達すれば長くそのレベルを維持できそうだ。


大レースの親仔制覇
レース
フェブラリーS2003ゴールドアリュール2010エスポワールシチー
2014コパノリッキー
2015コパノリッキー
2017ゴールドドリーム
高松宮記念2000キングヘイロー2009ローレルゲレイロ
2013ロードカナロア2021ダノンスマッシュ
皐月賞1964シンザン1985ミホシンザン
1973ハイセイコー1990ハクタイセイ
1976トウショウボーイ1983ミスターシービー
1984シンボリルドルフ1991トウカイテイオー
2001アグネスタキオン2008キャプテントゥーレ
2003ネオユニヴァース2009アンライバルド
2010ヴィクトワールピサ
2005ディープインパクト2016ディーマジェスティ
2017アルアイン
2020コントレイル
2011オルフェーヴル2018エポカドーロ
天皇賞(春)1948シーマー1955タカオー
2002マンハッタンカフェ2011ヒルノダムール
2006ディープインパクト2019フィエールマン
2020フィエールマン
2021ワールドプレミア
NHKマイルカップ2001クロフネUSA  2015クラリティスカイ
2017アエロリット  
優駿牝馬1943クリフジ 1954ヤマイチ  
1983ダイナカール 1996エアグルーヴ  
東京優駿1933カブトヤマ1947マツミドリ
1942ミナミホマレ1954ゴールデンウエーブ
1958ダイゴホマレ
1984シンボリルドルフ1991トウカイテイオー
2002タニノギムレット2007ウオッカ
2003ネオユニヴァース2009ロジユニヴァース
2004キングカメハメハ2015ドゥラメンテ
2017レイデオロ
2005ディープインパクト2012ディープブリランテ
2013キズナ
2016マカヒキ
2018ワグネリアン
2019ロジャーバローズ
2020コントレイル
2021シャフリヤール
安田記念1985ニホンピロウイナー1992ヤマニンゼファー
1993ヤマニンゼファー
1999エアジハード2010ショウワモダン
宝塚記念1966エイトクラウン 1975ナオキ
1999グラスワンダーUSA  2011アーネストリー
2006ディープインパクト2016マリアライト  
菊花賞1941セントライト1952セントオー
1949トサミドリ1956キタノオー
1960キタノオーザ
1962ヒロキミ
1964シンザン1981ミナガワマンナ
1985ミホシンザン
1996ダンスインザダーク2003ザッツザプレンティ
2004デルタブルース
2009スリーロールス
2005ディープインパクト2016サトノダイヤモンド
2018フィエールマン
2019ワールドプレミア
2020コントレイル
天皇賞(秋)1970メジロアサマ1982メジロティターン
1971トウメイ 1978テンメイ
1999スペシャルウィーク2010ブエナビスタ  
ジャパンカップ1985シンボリルドルフ1992トウカイテイオー
1999スペシャルウィーク2011ブエナビスタ  
2006ディープインパクト2012ジェンティルドンナ  
2013ジェンティルドンナ  
2015ショウナンパンドラ  
阪神JF1995ビワハイジ 2008ブエナビスタ  
2011ジョワドヴィーヴル  
朝日杯FS1976マルゼンスキー1982ニシノスキー
1987サクラチヨノオー
1997グラスワンダーUSA  2008セイウンワンダー
有馬記念1984シンボリルドルフ1993トウカイテイオー
2005ハーツクライ2019リスグラシュー  
2006ディープインパクト2014ジェンティルドンナ  
2016サトノダイヤモンド
旧8大競走は前身のレースを含む、 は牝馬

 ○ジャンダルムには母仔制覇のチャンスがある。母ビリーヴは新潟開催のスプリンターズSと翌年の高松宮記念を勝った名牝で、引退戦のスプリンターズSではデュランダルの追い込みにハナだけ屈して2着だった。産駒は父キングマンボのファリダットが安田記念3着などそこそこ距離をこなしてしまうのでスプリントに落ち着くのに時間がかかる場合があり、本馬も父が芝のステイヤー・キトゥンズジョイなのでスプリント戦へのデビューはこの春だった。ダンチヒ産駒の祖母グレートクリスティーヌはブリーダーズCディスタフ-G1など米G1・11勝の歴史的名牝レディーズシークレットの半妹。3歳時以来のG1挑戦となるが、格負けすることは決してない。

 キングヘイローはローレルゲレイロとの高松宮記念父仔制覇のほか、今年は母の父としてディープボンドがフォワ賞-G2に勝って凱旋門賞-G1に臨む。▲ピクシーナイトもキングヘイローの娘の産駒なので、日仏で同日に偉業達成の可能性がないとはいえない。祖母の父はサクラバクシンオー、3代母の父はエイシンワシントンUSAを送ったオジジアンUSAなので、母の持つスプリントの要素は上質で濃い。父のモーリスは1600mから2000mで活躍したが、デビュー戦は京都1400mを1.20.6の2歳レコードで勝っていて、高速決着への対応可。

 △レシステンシアは母マラコスタムブラダARGがアルゼンチン産。リザードアイランド×ポリグロートという珍しい組み合わせで、これはデインヒルUSA系×サドラーズウェルズ系の欧州型の配合。父ダイワメジャーは種牡馬としてはマイル専門といえる面もあるが、産駒コパノリチャードが高松宮記念-G1に、同ブルドッグボスはJBCスプリント(1400mですが)に勝った。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.10.3
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