2021エリザベス女王杯


令和を流れる明治の大河

 強い牝馬の活躍は今に始まったことではないが、去る11月6日に行われたブリーダーズCフィリー&メアターフ-G1ではディープインパクト産駒のラヴズオンリーユーが勝ち、その2時間後に行われたブリーダーズCディスタフ-G1ではオルフェーヴル産駒のマルシュロレーヌが勝った。歴史的快挙が1日に2件も起きることは奇跡といっていいと思うが、特にディスタフは出走馬11頭中7頭が前走でG1〜G3を勝ち、3頭は同じくG1〜G3で2着という強豪ひしめくハイレベルな一戦だった。マルシュロレーヌはレディスプレリュード、TCK女王盃、エンプレス杯、ブリーダーズゴールドCと牝馬限定のダート重賞を4勝しているが、正式にはグレード勝ちがない。しかも本場のダート初挑戦とあっては、単勝50.9倍の9番人気という低評価も仕方のないところだろう。この快挙は父オルフェーヴルの異常ともいえる能力による部分が大きいのだろうが、牝系の力というのはやはり大きい。フレンチデピュティ産駒の母ヴィートマルシェは1勝ながら、祖母キョウエイマーチは1997年の桜花賞馬。名馬ダンシングブレーヴUSAの我が国における牝馬の代表産駒だ。そして7代母が1953年秋の天皇賞馬クインナルビー。更に遡って9代母が1925年生まれのオーストラリア産馬シユリリーAUSとなり、ここから100年近くを日本で過ごしてきたことになる。クインナルビーの子孫からはオグリキャップも出ているが、ブリーダーズCディスタフ-G1の勝利は、その100年間の営みに間違いがなかったということでもある。
 シユリリーAUS系以上に長く日本に根付いた牝系が小岩井農場が明治40年に輸入した基礎牝馬で、その中でもフロリースカップGBの長きにわたる繁栄は特筆される。東京優駿勝ち馬だけでもミナミホマレ(1939年生)、マツミドリ(1944)、コダマ(1957)、カツラノハイセイコ(1976)、スペシャルウィーク(1995)、メイショウサムソン(2003)、ウオッカ(2004)と7頭を送り出すフロリースカップGB系は、少数精鋭のシユリリーAUS系と違って繁栄した分枝が多く、量的なメリットが大きいという点がまずあり、更に年月を経て牝系に蓄えられた力だけでなく、ノーザンダンサーやヘイルトゥリーズンといったその時代の流行血統の受容に長けていたことが成功の要因とはいえる。◎レイパパレ下表に示した通りフロリースカップGBの10代孫にあたる。宝塚記念のスズカコバンや東京優駿のカツラノハイセイコが出る第九フロリースカップ〜スターリングモアの分枝で、鮫川家のもとで函館から浦河へと移り、更に蠣崎牧場からノーザンファームへと移動した一族で、ブランドフォード、ネアルコ、ハイペリオンを生かした60〜70年代の配合から、ウイニングチケット(トニービンIRE)の導入で90年代型へ、クロフネUSAを経てディープインパクトで21世紀型へと移行しつつ能力の底上げを達成した。ストームキャット牝馬とのニックスにより欧州クラシックやブリーダーズCの勝ち馬を出す一方で、伝統的牝系の力を引き出したりもする点でディープインパクトの力を改めて思い知らされたりもする。余談だが、鮫川牧場のスターリングモア系とキャロットファーム(旧)の勝負服では、芝でもダートでも活躍したポジーを思い出すオールドファンも多いだろう。


フロリースカップGBの100年
フロリースカップGB(1904、鹿、父Florizel)
  第九フロリースカップ(1924、栗、ガロンGB)
    スターリングモア(1929、鹿、シアンモアGB)
      第三スターリングモア(1944、鹿、月友)
        トサモアー(1953、鹿、トサミドリ)阪神3歳S
          モンテホープ(1960、鹿、ライジングフレームIRE)
            ヤマニサクラ(1967、鹿、タリヤートスIRE)
              ナムラピアリス(1984、栗、トウショウボーイ)
                オイスターチケット(1998、鹿、ウイニングチケット)[3]ファンタジーS
                  シェルズレイ(2003、芦、クロフネUSA)[2]ローズS
                    レイパパレ(2017、鹿、ディープインパクト)大阪杯-G1

 ○テルツェットは母がラヴズオンリーユーの半姉で父がディープインパクトだから、最もタイムリーな良血といえる。叔父のリアルスティールはドバイターフ-G1勝ち馬で、曾祖母モネヴァッシアの産駒ランプルスティルツキンはマルセルブサック賞-G1勝ち馬、その産駒タペストリーはヨークシャーオークス-G1の勝ち馬。そして4代母ミエスクはブリーダーズCマイル-G1など仏・英・米で10のG1に勝った名牝だ。母の父デインヒルダンサーは種牡馬としてはややマイラー色が強いが、母の父に回るとデインヒルUSAらしいアシスト力を示し、娘の産駒からは英ダービー馬サーペンタイン、英オークス馬マインディング、ゴールドカップ-G1のサブジェクティヴィストらのステイヤーが出ている。リファール、ダンチヒ、ストームバード、ヌレエフと大御所ばかりを経由したノーザンダンサーの近交は力強く、阪神2200mの消耗戦でむしろ良さが出る可能性がある。

 ▲アカイトリノムスメは父が金子真人ホールディングスの勝負服で三冠を制し、母のアパパネも同じ勝負服で牝馬三冠、母の父キングカメハメハもやはり金子さんの勝負服でNHKマイルCと東京優駿に勝った。祖母のソルティビッドUSAも同じ勝負服で3勝を挙げた。全兄はいずれも現役でモクレレ4勝、ジナンボー4勝、ラインベック4勝と勝利数では足並みを揃えてまだ重賞勝ちがないが、やはりディープインパクトには牝馬がのびのびとどこまでも強くなる面がありますね。母は古馬になるとマイラーの傾向を強めたのかエリザベス女王杯-G1では2年連続3着に敗れているが、勝ち馬がいずれもスノーフェアリーIREでは仕方がない部分もある。ディープインパクト×キングカメハメハの組み合わせは同じ勝負服の日本ダービー馬ワグネリアンと同じだから、少なくとも今のところは前走からの距離延長を心配する必要はない。

 エピファネイアは産駒エフフォーリアの天皇賞(秋)-G1制覇によりディープインパクト・キラー的な資質を明らかにした。東京優駿-G1でキズナに敗れた怨念というわけではなく、ディープインパクトの切れ味が鈍ったところでロベルト系の底力により逆転する形は今後もコースや馬場、展開などによって起こり得るだろう。△クラヴェルはエピファネイア×キングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAの配合が三冠牝馬デアリングタクトと同じ。母ディアデラマドレは府中牝馬S-G2、マーメイドS-G3、愛知杯-G3と重賞に3勝。祖母ディアデラノビアはエピファネイアの母シーザリオと同期、同馬主、同厩舎で、素質は劣らないものを持っていた可能性があるが、フローラSなど重賞に3勝したものの、優駿牝馬、ヴィクトリアマイル、エリザベス女王杯など大レースでは3着止まりだった。ここは同期生の協力によりG1をめざす。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.11.14
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