2021高松宮記念


速さと力で押し通せ

 G1競走の出走馬決定順には1)優先出走権 2)出走馬決定賞金があって、それに優越してレーティング順位、正確には「レーティングをもとに定める順位」の上位5頭が優先出走できる仕組みが設定されている。実力はあるが、賞金を積み損ねた馬を救済する措置であり、まさに昨年の1位入線馬クリノガウディーのためにあるようなルールだったが、実際にはクリノガウディーのレーティング115は5位タイで、近走成績を考慮されて順位は8位となった。昨年はグランアレグリアのスプリンターズS-G1が118(牡馬換算122)に達したが、香港スプリント-G1勝ちのダノンスマッシュも115に甘んじていた。この部門は総じて低く、1400m以上のマイル部門のレーティングが高い。この1年間はそういう評価だったということになるが、ロードカナロアが128の評価を受けた2013年をピークとして、スプリント部門は他部門と比べるとレーティングに関しては低空飛行が続いていた。この構図が正しいとすると、スプリント生え抜きよりも、他部門からの転入組に期待するのが正しいのかもしれない。
 週刊競馬ブックの「血統アカデミー」でサラブレッド血統センターの成田幸穂さんが「父について振り返ると、サンデーサイレンスUSAUSA系の不振が見てとれる」と指摘した通り、中京コース改修後に勝ったサンデーサイレンスUSA直系は2014年のコパノリチャードのみ。これがダイワメジャー産駒だった。ディープインパクトに代表されるように柔らかい身のこなしから中距離で優れた瞬発力を発揮するものの多いサンデーサイレンスUSA系にあってダイワメジャー産駒は異色といえば異色で、スピードと力で押すものがほとんど。下表にあるように、G2格以上の重賞では2000m以上の勝利がひとつもない。徹底している。◎レシステンシアは阪神ジュベナイルフィリーズ-G1と前走の阪急杯-G3で2度レコード勝ちしているように、ダイワメジャー産駒らしいスピードで押すマイラー。マイラーの実績の下にスプリンターとしての本質が隠れている可能性も高い。アルゼンチン産の母マラコスタムブラダARGは母国で芝2200mのフィルベルトレレナ大賞-G1に勝っており、本馬の半弟にあたるグラティアスは1月に京成杯-G3に勝った。母の父リザードアイランドはレイルウェイS-G2に勝ったマイラーで、デインヒルダンサーを経てデインヒルUSAに遡る。祖母の父ポリグロートはクリテリウムドサンクルー-G1勝ち馬で、サドラーズウェルズの直仔。サンデーサイレンスUSA、デインヒル、サドラーズウェルズといった日欧の主流血統の21世紀型リミックスということになる。3代母プルマはG1・3勝の1989/1990年の亜2歳牝馬チャンピオン。ここにはアルゼンチンらしくラウンドテーブルやブルリーといった古風な血が保存されている。


ダイワメジャー産駒の主な重賞勝利
馬名生年母の父年度レース距離馬場
カレンブラックヒル2009Grindstone2012NHKマイルCG1芝1600
2013毎日王冠G2芝1800
2012ニュージーランドTG2芝1400
ダイワマッジョーレ2009Law Society2013京王杯スプリングCG2芝1400
エピセアローム2009Cozzene2012セントウルSG2芝1200
コパノリチャード2010トニービンIRE2014高松宮記念G1芝1200
2013スワンSG2芝1400
ブルドッグボス2012デインヒルUSA2019JBCスプリントLRダ1400
メジャーエンブレム2013オペラハウスGB2016NHKマイルCG1芝1600
2015阪神ジュベナイルFG1芝1600
ソルヴェイグ2013ジャングルポケット2016フィリーズレビューG2芝1400
ボールライトニング2013デヒアUSA2015京王杯2歳SG2芝1400
レーヌミノル2014タイキシャトルUSA2017桜花賞G1芝1600
ミスパンテール2014シンボリクリスエスUSA2018阪神牝馬SG2芝1600
アドマイヤマーズ2016Medicean2019香港マイルG1芝1600
2019NHKマイルC芝1600
2018朝日杯FSG1芝1600
2018デイリー杯2歳SG2芝1600
ノーヴァレンダ2016クロフネUSA2018全日本2歳優駿Lダ1600
レシステンシア2017Lizard Island2019阪神ジュベナイルFG1芝1600
モントライゼ2018Nayef2020京王杯2歳SG2芝1400

 香港スプリント-G1父仔制覇という形でG1初制覇を飾った○ダノンスマッシュ。ロードカナロアの再来という期待がしぼみかけたときもあったが、5歳の暮れに結果を出したあたり、父の一面である晩成の傾向によるところがあったかもしれない。母スピニングワイルドキャットUSAは米1勝。その父ハードスパンはダンチヒ晩年の傑作で優れたスピードを伝える。祖母ハリウッドワイルドキャットはブリーダーズCディスタフ-G1など3、4歳時にG1に3勝した名牝。産駒ウォーチャントがブリーダーズCマイル-G1に勝って種牡馬としても成功しているほか、産駒イヴァンデニソヴィッチがジュライS-G2に勝ち、孫のデイニッシュダイナフォーマーはシングスピールS-G3に勝った。いつG1レベルに達してもおかしくない高級な牝系に、ミスタープロスペクター4×4とストームキャット、ダンチヒを重ねた米国的なスピード血統。

 初年度産駒から函館2歳S-G3勝ち馬も北海道2歳優駿勝ち馬も阪神大賞典-G2勝ち馬も送り出したキズナは、種牡馬としての多芸多才という点において父を凌ぐ可能性がある。雨にたたられた先週に7勝を挙げて週間JRA最多勝種牡馬となったことから見ても、道悪でチャンスが増す種牡馬と考えていい。キズナ産駒の▲マルターズディオサは3代母ラヴィッシュギフトが名門ジャドモントファーム生産馬で、祖母マルターズダイアン、母トップオブドーラUSAともに本馬のオーナー藤田家の米国での生産馬。近くに活躍馬はないが、5代母ソーシャルコラムの産駒にプリンスオブウェールズS-G2のツータイミングUSAがおり、6代母ミスカーミーの子孫にはエイコーンS-G1のクリスエヴァート、ケンタッキーダービー-G1のウイニングカラーズ、ジャパンC-G1のタップダンスシチーUASらがいる名門。ストームバード、エルグランセニョール、ヌレエフを経由したノーザンダンサー5×5×5に、セクレタリアト5×5も潜む。欧州血統のようにも見えながら実は藤田家らしい米国血統という凝った配合。

 中京芝は昨年暮れから数えて今週で12週目。雨が降ろうが降ろまいが、力のいる状態となるのは間違いない。このレースが不良馬場で行われたのはコパノリチャードが勝った2014年のみ。スプリンターズSはカルストンライトオが勝った2004年とアストンマーチャンが内ラチ沿いをスイスイと逃げ切った2007年が不良だった。△トゥラヴェスーラは母ジャジャマーチャンがアストンマーチャンの全妹。父ドリームジャーニーはステイゴールド直仔だけに道悪への適性がないとは思えないし、その全弟オルフェーヴルは道悪の東京優駿-G1を圧勝した。この配合に実現することのないオルフェーヴル×アストンマーチャンを投影することもできるわけだ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.3.28
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