2020秋華賞


新展開を見せるカメハメハ王の力

 ブルードメアサイアーランキング、すなわち母の父馬成績は1992年から2006年の15年間ノーザンテーストCANが首位を守った。2007年にその座を奪ったのはサンデーサイレンスUSAで、娘の産駒の出走頭数587、収得賞金59億65万円だった。そこからの成績はうなぎ登りといえ、2010年には出走頭数が大台超えの1072頭、収得賞金は80億8326万円に達した。翌2011年には出走頭数1240頭で収得賞金83億4011万円を稼ぎ出し、これが賞金のピーク。2014年には出走頭数のピークとなる1385頭が出走して80億2379万円、2015年も1306頭で83億525万円を稼いだ。振り返るとこのころが全盛期であったようで、最後の直仔の誕生から13年が経過した2016年からは緩やかに下り坂に向かっている。昨年もランキングでは首位を守りはしたものの、出走頭数981頭、収得賞金44億492万円とそれぞれピーク時の7割と5割にまで落ち込みを見せている。そして迎えた今年はついに春から首位をキングカメハメハに奪われたまま、秋のG1シーズンに突入した。収得賞金はキングカメハメハ31億456万円、サンデーサイレンスUSA28億6082万円とその差はじわじわと広がっていて、それでも2億4000万円程度なので逆転は可能な範囲だが、もはや流れは新王者誕生に向かっているようだ。
 ブルードメアサイアーランキングは量がすべてを制する面があって、数が多いものが強い。種牡馬ランキングのような急激な変化は起きにくい。今年に関していえば出走頭数はキングカメハメハ601に対してサンデーサイレンスUSAは785。出走回数も3995対5953だから、まだまだサンデーサイレンスUSAが優位を保っていて不思議ないのだが、キングカメハメハにはそれをひっくり返すだけの質の優位があったということになる。◎デアリングタクトはその象徴的な存在といえるのではないだろうか。父のエピファネイアはジャパンカップ-G1と菊花賞-G1に勝った名馬で、皐月賞-G1と日本ダービー-G1は2着。ダービー馬キズナとは種牡馬デビューも同じタイミングとなり、現3歳が初年度産駒となる。2017年生まれの世代別種牡馬ランキングでは首位ディープインパクトに続いて2位キズナ、3位エピファネイアの新世代2頭が争っている。重賞勝ち馬数など、キズナが数的優位に立つ反面、G1勝ちにはエピファネイアが先に到達するなど、現役時さながらの競り合いが続いているわけだが、一点豪華主義的な観点からするとデアリングタクトを送り出したエピファネイアがランキングを覆しているともいえる。キングカメハメハ産駒の母デアリングバードは1戦未勝利だが、サンデーサイレンスUSAの娘である祖母デアリングハートは2度の府中牝馬SとクイーンSに勝ち、桜花賞で3着、NHKマイルCで2着となった。その年の桜花賞2着馬シーザリオはその後、優駿牝馬とアメリカンオークス-G1に勝ち、エピファネイアの母となった。デアリングハートがサンデーサイレンスUSAの娘、シーザリオがスペシャルウィークの娘なので、デアリングタクトはサンデーサイレンスUSA4×3の近交となり、この様式の配合馬としては最初のG1勝ち馬ともなった。このサンデーサイレンスUSAの血だけでなく、父系のロベルトと母の父系のミスタープロスペクターの相性がいいこと、父に潜むシアトルスルーもミスタープロスペクターと相性がいいこと、父にはサドラーズウェルズがあり母の父にはヌレエフがあること、マルゼンスキー経由のニジンスキーとラストタイクーンIRE経由のトライマイベストUSAとカナダのE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔の名前が並ぶことなど随所に血統的な意匠が凝らされている。特に万能で機動力に富むキングカメハメハの血は京都内回り2000m攻略の大きな後押しとなることだろう。


母の父としてのキングカメハメハの躍進
年度順位出走
頭数
出走
回数
勝利
頭数
勝利
回数
収得賞金
(万円)
重賞勝ち馬
2012287414343842.4 
2013552511692232421.5デニムアンドルビー(ローズS-G2、フローラS-G3)
20146065363263833068.2タガノエスプレッソ(デイリー杯2歳S-G2)
201524115654395957105.9タガノトネール(サマーチャンピオン)
20162120313747314370846.4タガノトネール(武蔵野S-G3)
2017113032126143252152511.9モズカッチャン(エリザベス女王杯-G1、フローラS
-G2)、ワグネリアン(東スポ杯2歳S-G3)ライジング
リーズン(フェアリーS-G3)
201834152986191329269538.5ブラストワンピース(有馬記念-G1、新潟記念-G3、
毎日杯-G3)、ワグネリアン(東京優駿-G1、神戸新
聞杯-G2)、ステイフーリッシュ(京都新聞杯-G2)
201925374175226411288599.8インディチャンプ(安田記念-G1、マイルチャンピオ
ンシップ-G1、東京新聞杯-G3)、ブラストワンピース
(札幌記念-G2)、ブラックホール(札幌2歳S-G3)、
アンデスクイーン(レディスプレリュード、ブリーダー
ズゴールドC)、ラーゴブルー(マリーンC)
202016013995249396310456.4デアリングタクト(桜花賞-G1、優駿牝馬-G1)、ブラ
ストワンピース(アメリカジョッキークラブC-G2)、イン
ディチャンプ(マイラーズC-G2)、ルフトシュトローム
(ニュージーランドT-G2)、アウィルアウェイ(シルク
ロードS-G3)、メイケイダイハード(中京記念-G3)、
ソダシ(札幌2歳S-G3)、アンデスクイーン(エンプレ
ス杯)
※数値はJBISサーチによる(中央+地方、10月13日現在)

 ○ホウオウピースフルも母の父がキングカメハメハ。こちらは兄が有馬記念-G1勝ち馬ブラストワンピース、父が三冠馬オルフェーヴルだから、大物食いが可能かどうかの一点に絞った物差しであれば最大級の期待がかけられる。オルフェーヴル産駒のG1勝ち馬ラッキーライラックとエポカドーロの母がいずれもフォーティナイナーUSA系であったこと、先日の東京盃に勝ったジャスティンの母の父がゴーンウエストであったことを考えると母の父がミスタープロスペクター系牝馬が父には似合うといえそうだし、ファンタジーS-G3・2着の祖母ツルマルグラマーの父がフジキセキであることから、サンデーサイレンスUSA3×4の近交ともなる。父はノーザンテーストCAN4×3、母にはトライマイベストUSA=エルグランセニョールの全兄弟4×3、そしてそれらがE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔という技巧的な配合でもある。

 ステイゴールド系としてオルフェーヴルを追う存在であるゴールドシップも現3歳が初年度産駒。今のところブラックホールによる昨年の札幌2歳S-G3が唯一の重賞勝ちだが、そのブラックホールは日本ダービー-G1で17番人気ながらそれほど差のない7着となり、優駿牝馬では▲ウインマイティーが13番人気で3着となった。さすがに底力がある。本番での変わり身注。

 ハーツクライ産駒はこのレースに延べ12頭が出走し2着3回。リスグラシュー、ヌーヴォレコルト、キョウワジャンヌだ。△クラヴァシュドールは母がストームキャット系×ミスタープロスペクター系の父に合う米国血統。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.10.18
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