2020NHKマイルC


父から受けた1600の強さ

 過去10年の年度代表馬のうち牝馬はブエナビスタ、ジェンティルドンナ(2回)、アーモンドアイ、リスグラシューと半分を占める。大雑把にいえばトップクラスの牡馬と牝馬の能力は2キロの負担重量差がある以上はイーブンと考えて良くなってきた。3歳のマイル部門は1990年代初期の外国産競走馬ブームのころからシンコウラブリイIRE、ヒシアマゾンUSAなど牝馬上位の傾向があって、このレースが創設されてからも第1回は仏国産の牝馬ファビュラスラフインFRが1番人気となり(14着)、第2回には米国産牝馬シーキングザパールUSAが勝った。当時は桜花賞出走組がここに出てくることはなかったが、ようやく2005年に桜花賞からここへ回るものが出現し、桜花賞1着のラインクラフトと3着のデアリングハートが1、2着を占めた。ウオッカとダイワスカーレットが3歳を迎えたのが2008年だから、それに先行してこのレースが牝馬の時代の始まりを告げていたとも考えられる。このような流れのもとでは桜花賞-G1上位馬は非クラシック組の牡馬よりも強い可能性が高い。また種牡馬別ではダイワメジャーがカレンブラックヒル、メジャーエンブレム、アドマイヤマーズの最多3頭の勝ち馬を出している。ダイワメジャー自身が皐月賞と天皇賞(秋)のほかに1600mで安田記念-G1と2度のマイルチャピオンシップ-G1に勝った実績があり、このあたりは自身の祖母の父クリムズンサタンのスプリンターとしての資質が代を経ても影響を及ぼしているように思える。◎レシステンシアはダイワメジャー産駒で桜花賞-G1・2着と信頼できる要素を2つ備えていて、仮にそのどちらもなくても阪神ジュベナイルフィリーズ-G1で示した圧倒的な能力は、ここでは明らかに上位だ。アルゼンチン産の母マラコスタムブラダは同国で芝2200mのフィルベルトレレナ大賞-G1の勝ち馬。本馬のひとつ上の半兄に芙蓉Sのミッキーブラックを生んだ。その父リザードアイランドは2歳時に愛レイルウェイS-G2に勝ち、デインヒルダンサー、デインヒルUSAを経てダンチヒに遡る。祖母の父ポリグロートはサドラーズウェルズ直仔でクリテリウムドサンクルー-G1やエヴリ大賞-G2に勝ったステイヤー。3代母プルマはアルゼンチンで3つのG1に勝っていて、その父で5月25日大賞-G1など亜G1・7勝のニューダンディはニューノーブルを経てラウンドテーブルに遡る貴重な父系。母にダンチヒとサドラーズウェルズが入る点は2016年の勝ち馬メジャーエンブレムと共通しており、そのほかにも本馬にはノーザンテーストCANと母の父の祖母を経由してニジンスキーが入っており、これらE.P.テイラー氏の生産によるノーザンダンサー直仔が血統表中に並ぶ例は近年の活躍馬に多い。


桜花賞出走馬のNHKマイルC成績
年度馬名NHK桜花賞
人気着順人気着順
2005ラインクラフト2121
デアリングハート102103
2007ピンクカメオ171814
イクスキューズ※81765
2008エイムアットビップ151367
2009ワンカラット6664
2010サウンドバリアー8131416
2011フォーエバーマーク118125
ダンスファンタジア※91537
2014ホウライアキコ8564
アドマイヤビジン131486
2015クールホタルビ18141718
2016メジャーエンブレム1114
ブランボヌール156108
2017アエロリット2165
ミスエルテ57511
カラクレナイ11774
2018プリモシーン55610
アンコールプリュ1817911
2019グランアレグリア1521
プールヴィル1212146
※は桜花賞→フローラS→NHKマイルC

種牡馬別成績
順位種牡馬名1着2着3着着外
1ダイワメジャー3029
2ディープインパクト22110
3クロフネ2207
4フレンチデピュティ2104
5アグネスタキオン2013
6Kingmambo2002

 桜花賞-G1でレシステンシアを破ったのはシンボリクリスエスUSA系エピファネイア産駒のデアリングタクトだった。父系のイメージを単純化していうと切れのサンデーサイレンスUSA系に底力のロベルト系という違いがあって、舞台設定によっては前者を後者が逆転する場合がある。○プリンスリターンはシンボリクリスエスUSA系ストロングリターンの産駒。父は6歳時に安田記念-G1をレコード勝ちした遅咲きの大物。マンハッタンカフェ産駒の母プリンセスプライドは大井で3勝。祖母エンゼルプリンセスは上山8戦7勝の戦績を残して中央入りし、エルフィンS5着、チューリップ賞7着、桜花賞で18着となり、4歳で大井に転じて1勝を挙げた。3代母エンゼルスキーの産駒に大井の金杯、アフター5スター賞のツキノイチバンがいて、これが近親で唯一の活躍馬といえる。あとは遠く6代母の産駒にCBC賞(ダ1800m)と中京大賞典(ダ2000m)を勝ったミドリエースが見つかるくらいだ。そんな牝系にあっても、祖母の父ロイヤルスキーUSA、3代母の父マルゼンスキーと一流種牡馬ばかりが配合されていて、更に遡ってもマロットITY、ソロナウエーIRE、ライジングフレームIRE、トウルヌソルGB……と近代日本血統史といえる並びになっている。ニジンスキー4×5、そこにニジンスキーの近親にあたるロイヤルスキーUSAが入る配合は技巧的で、シンボリクリスエスUSAとサンデーサイレンスUSA、マルゼンスキーの組み合わせはエピファネイアに通じる。

 ウインドインハーヘアIREは息子のディープインパクトを通じてこの時代の最も大きな影響力を持つ牝馬といえる。現役時代も3歳時にはオークス-G1・2着、ヨークシャーオークス-G1・3着の成績を残し、翌4歳時にはアラジの仔を受胎してアラルポカル-G1に勝った。そのときお腹にいたグリントインハーアイUSAはサンダウンマイル-G2に勝ったジェレミーを生んだ。そのほか、ディープインパクトの全兄ブラックタイドは名馬キタサンブラックを送り、6戦5勝のレディブロンドUSAは帝王賞のゴルトブリッツを生み、その孫に天皇賞(秋)-G1のレイデオロが出た。青葉賞-G2・2着のヴァルコスもウインドインハーヘアIREの孫にあたり、20年にわたり活気を保つ牝系といえる。▲ルフトシュトロームはウインドインハーヘアIREの曾孫にあたる。高松宮記念-G1連覇の父キンシャサノキセキAUSは、南半球産の不利が否めない3歳時にもNHKマイルCで3着となっている。フジキセキ系ということでは2010年のこのレースをレコードで勝ったダノンシャンティがいる。リボー直仔ヒズマジェスティ4×5、リファール4×5の配合はG1でこそともいえる底力と瞬発力を感じさせるし、母の父キングカメハメハは2004年のこのレースの勝ち馬であり、桜花賞馬デアリングタクトの母の父でもある。

 穴馬としてディープインパクト産駒を狙うという手法はG1ではかなり有効で、これまでのディープインパクト産駒の国内G1は35が4番人気以内なのに対し、東京優駿-G1のロジャーバローズなど18が5番人気以下だった。△ラインベックは母が牝馬三冠+ヴィクトリアマイルに勝った名牝アパパネ。祖母以来の完全自家生産の血が秘めた力は底が知れない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.5.10
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