2020菊花賞


超長距離で存分に踊れ

 本年10月20日現在の総合サイアーランキングベスト10のうち、ディープインパクト、ハーツクライ、オルフェーヴル、ルーラーシップ、キングカメハメハには現役時代に2400m以上の勝ち鞍があり、ロードカナロアの最長勝ち距離は1600m、ダイワメジャーとゴールドアリュールはいずれも2000mで、サウスヴィグラスとキンシャサノキセキは1400mだった。2歳ランキングも目下の首位モーリスが天皇賞(秋)の2000m、2位から5位のドゥラメンテ、エピファネイア、キズナ、ディープインパクトにはいずれも2400m以上でG1勝ちがある。こうして見ると、種牡馬はスピードが第一だとされる割には競走成績に長距離実績の厚い馬によって支えられているのが日本の競馬の現状といえる。もっとも、距離を短い方からS(スプリント)、M(マイル)、I(インターミディエート)、L(ロング)、E(エクステンディド)と5部門に分けるとしても、Sが短距離走者でEがマラソンランナーかというとそういうわけでもなく、短くて1分足らず、長くて3分超のサラブレッド競馬はヒトの陸上競技に当てはめると中距離走だといわれる。概ねどれも中距離走者といえる競技者をサラブレッド競馬では細分化してスプリンター〜ステイヤーと呼びならわしていることになる。それを前提に、競走馬もわれわれ同様雇われの身であるとすれば、早く帰りたい、楽をしたいと思うのが自然で、そのあたりで他より少し我慢強いと長距離でも力を出せるということになるのではないだろうか。さすがにロードカナロアやサウスヴィグラスUSA自身に3000mを走らせようとするのはフィジカル的に無理があるが、そこまで極端な例でなければ、距離適性にはフィジカルとメンタルの綱引きのような面もある。
 そういうわけで、ステイヤーが菊花賞-G1を勝つというよりは、菊花賞-G1に勝った馬をステイヤーと呼ぶということでいいと思うが、それでもたまには伏流していたステイヤー血統が表に出てくることがある。それも菊花賞-G1だ。今でいうとステイゴールド系がもっともステイヤーらしいが、こちらは日の当たる道を堂々と歩いていて、潜んでいる印象がない。そこへいくとダンスインザダークはすっかり暗闇に潜った感がある。父として、また母の父としての菊花賞での実績は下表の通り穴党には軽視すべからざるものがあり、菊花賞が得意な割に天皇賞(春)ではまるでダメな点も、ここで狙わねばいつ狙うという意味で強調しておきたい。◎ヴァルコスは2年ぶりにこのレースに出走を果たしたダンスインザダークの孫。母のランズエッジは8戦未勝利だが、芝1800mで2着と3着が1回ずつ、芝2000mで3着が1回ある。娘のロカはクイーンC-G3で3着、忘れな草賞で2着となった。祖母のウインドインハーヘアIREは説明不要の名牝かと思うが、3歳時に英オークス-G1・2着、4歳時はアラジUSAの種を受胎(のちのグリントインハーアイ)して走り、ドイツでアラルポカル-G1に勝った。2000年に日本に輸入され、サンデーサイレンスUSAとの交配によって生まれた仔がブラックタイド、ディープインパクト、オンファイアの全兄弟3頭となる。3代母バーグクレアは英1勝、孫にNHKマイルCのウインクリューガー、玄孫にはブリーダーズCターフ-G1のタリスマニックGBがいて、長期にわたって活力を保っている牝系。4代母ハイクレアは英女王陛下の服色で英1000ギニー-G1、ディアヌ賞-G1(仏オークス)に勝った名牝。父のノヴェリストIREはアイルランド産だが、父系をモンズーン、ケーニッヒシュトゥールと遡り、牝系はベルリン大賞-G1連覇などG1・4勝の名馬ネボス(ノヴェリストIREの3代母の父でもある)と同じ名門。キングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1のレコード勝ちのほか、サンクルー大賞-G1、バーデン大賞-G1、ジョッキークラブ大賞-G1など4つのG1に勝ったドイツの歴史的名馬の1頭といえる。血統表の2代目、祖父母の欄はモンズーンがオイロパ賞-G1など2400mのG1に3勝、ナイトラグーンが2歳1600mのヴィンターケーニギン賞-G3に勝ち、ダンスインザダークは菊花賞馬、ウインドインハーヘアも2400mのアラルポカル-G1勝ちという長距離型。そこにサンデーサイレンスUSAが入り、更に英三冠馬ニジンスキー4×5とナイトシフト経由でシブレットを取り入れてカナダのE.P.テイラー・ブランドの血も揃えた。現代的な切れも備えた超長距離対応血統といえる。


菊花賞に強いダンスインザダークの子孫
娘の産駒
年度着順馬名母の父または父人気単オッズ前走着順
2018ユーキャンスマイル父キングカメハメハ1031.7阿賀野川特別1000万1
201418サングラス父スタチューオブリバティUSA16152.7セントライト記念-G214
直仔
2009スリーロールス母の父ブライアンズタイムUSA819.2野分特別1000万1
2009フォゲッタブル母の父トニービンIRE718.7セントライト記念3
20074エーシンダードマン母の父Woodman1239.5兵庫特別1000万3
20077ローズプレステージ母の父Shirley Heights1464.8神戸新聞杯10
20068トーホウアラン母の父Nureyev624.9日本ダービー9
20057コンラッド母の父Nureyev760.5セントライト記念10
200510ミツワスカイハイ母の父アレミロードUSA15161.3不知火特別1000万8
2004デルタブルース母の父Dixieland Band845.1九十九里特別1000万1
2003ザッツザプレンティ母の父Miswaki520.2神戸新聞杯5
20035マッキーマックス母の父ディクタスFR837.5神戸新聞杯7
2002ファストタテヤマ母の父ターゴワイスUSA1691.3札幌記念13

 ○コントレイルはディープインパクト×アンブライドルズソング。日米のチャンピオンサイアー同士の組み合わせで、母自身は未勝利ながら、ティズナウ産駒の祖母フォークロアはブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ-G1、メイトロンS-G1に勝った2005年の米最優秀2歳牝馬。ストームキャットの娘である3代母コントライヴの孫エッセンシャルクオリティは現2歳でブリーダーズフューチュリティ-G1に勝った。4代母ジーノは米G3・2勝、5代母バジーはデラウェアH-G1勝ち馬という名門。日米合作の現代的スピードが武器だが、サンデーサイレンスUSA系とアンブライドルズソング牝馬の組み合わせからは本馬のほかにトーホウジャッカル、ダノンプラチナ、スワーヴリチャードのG1勝ち馬が出ており、スペシャルウィーク産駒のトーホウジャッカルは実際に菊花賞馬となった。

 ステイゴールド系はオルフェーヴル、ゴールドシップだけでなく、ドリームジャーニーが▲ヴェルトライゼンデ、ナカヤマフェスタが△バビットと年長組が有力馬を送り込んできた。ヴェルトライゼンデは昨年の勝ち馬ワールドプレミアの半弟で叔父にプリンスオブウェールズS-G1、ジャックルマロワ賞-G1、イスパーン賞-G1と英仏でG1・3勝の名馬マンデュロがいる。ドリームジャーニー自身は神戸新聞杯-G2勝ちから菊花賞-G1に臨んで5着だったが、全弟は三冠馬だから問題ない。バビットは4代母ゲイミサイルがエーピーインディやレモンドロップキッドの祖となった名門。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.10.25
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