2020阪神ジュベナイルフィリーズ


岩石一族の反撃のつぶて

 1991年11月に阪神競馬場に新スタンドが完成し、直線に坂が設けられると、それまでの阪神3歳Sは牝馬限定の阪神3歳牝馬Sとなり、勝ち馬ニシノフラワーは翌年には桜花賞とスプリンターズSに勝った。2001年から年齢呼称変更に伴ってレース名が阪神ジュベナイルフィリーズとなり、2006年には3〜4角の外回りコースが新設され、芝1600mはそれまでとは違った最後の直線が470mを超える広大なものとなった。新コースとなって最初の勝ち馬ウオッカは翌年に牡馬相手に東京優駿に勝ったほか、古馬となってG1・5勝の大活躍をしたのは周知の通り。その後の勝ち馬からも全部が全部超大物とはいえないまでも、下表の通り多くの活躍馬が現れた。ここ3年に関しては2015年生まれアーモンドアイ、2016年生まれグランアレグリア、2017年生まれデアリングタクトとこのレースの不出走組から超大物が現れているが、ラッキーライラックや一昨年の2着馬クロノジェネシスは牡馬相手のG1勝ちを果たしているのだから、名牝への登竜門としての役割が薄らいだというわけではない。
 今年は函館2歳S-G3、札幌2歳S-G3、小倉2歳S-G3の3つの非限定戦を牝馬が勝った。牝馬は仕上がりが早いので、早い時期にひとつふたつ勝つ例は珍しくないし、それだけで牡牝のレベル差を云々することはできないが、ここまで3勝を挙げたのは、2013年に函館2歳S-G3、新潟2歳S-G3、札幌2歳S-G3、小倉2歳S-G3、デイリー杯2歳S-G2の5レースを牝馬が勝って以来のこと。
 牡馬相手の重賞ということで惜しかったのがサウジアラビアロイヤルC-G3における◎インフィナイトで、なかなか強い内容ではあったものの、勝ち馬がより強くよりスムーズな競馬をしたので着差3馬身の完敗となった。父のモーリスは安田記念-G1、マイルチャンピオンシップ-G1のほか香港で香港マイル-G1、チャンピオンズマイル-G1、香港カップ-G1に勝った名馬で、今年の2歳世代が初年度産駒となる。健康で仕上がりの早い産駒が多いためか出走頭数、出走回数ともにトップクラスで、11月上旬までは2歳サイアーランキングのトップを走っていた。例年終盤でペースを上げるディープインパクトに楽々とパスされてしまったが、自身がそれほど早熟でもなかったことを考えると、よく健闘したといえるだろう。アグネスデジタルUSA産駒の母モルガナイトは芝1800mと2000mで4勝を挙げ、産駒ブラックスピネルは東京新聞杯-G3に勝った。サンデーサイレンスUSA産駒の祖母タンザナイトは3勝。産駒にアメリカジョッキークラブC-G2、京都記念-G2のダンビュライト、ダイヤモンドS-G2・2着のラブラドライトがいる。リヴァーマン産駒の3代母キャサリーンパーUSAはオマール賞-G3・2着馬で、産駒にジャパンCダートのアロンダイト、孫に宝塚記念-G1のマリアライト、チャンピオンズC-G1のクリソベリル、神戸新聞杯-G2のリアファル、ジャパンダートダービーのクリソライトが出た。4代母リーガルイクセプションがリボーの娘で愛オークス-G1に勝ち、5代母ラージプトプリンセスの産駒にオイロパ賞-G1のエスプリデュノールがいるファミリー。ここ20年で急速に勢いを伸ばしている岩石由来馬名一族でもあり、先週のチャンピオンズC-G1での親類の汚名返上の場ということにもなる。モーリス×アグネスデジタルUSAは香港カップ-G1勝ち馬同士の組み合わせなので、来年の今ごろは香港で走っている可能性もあるが、父系がロベルト系、母の父系がミスタープロスペクター系、そしてサンデーサイレンスUSA4×3の近交という構成は、エピファネイア×キングカメハメハ、祖母がサンデーサイレンスUSAの娘というデアリングタクトと同工異曲と見ることもできる。


阪神JF勝ち馬のその後
年度勝ち馬その後の主な重賞勝ち鞍
2006ウオッカタニノギムレットジャパンC-G1、天皇賞(秋)-G1、安田記念-G1×2、ヴィクトリアマイル-G1、東京優駿
2007トールポピージャングルポケット 優駿牝馬
2008ブエナビスタスペシャルウィーク ジャパンC-G1、天皇賞(秋)-G1、ヴィクトリアマイル-G1、優駿牝馬、桜花賞
2009アパパネキングカメハメハ ヴィクトリアマイル-G1、秋華賞-G1、優駿牝馬-G1、桜花賞-G1
2010レーヴディソールアグネスタキオン チューリップ賞-G3
2011ジョワドヴィーヴルディープインパクト 
2012ローブティサージュウォーエンブレムUSA キーンランドC-G3
2013レッドリヴェールステイゴールド 
2014ショウナンアデラディープインパクト 
2015メジャーエンブレムダイワメジャー NHKマイルカップ-G1、クイーンC-G3
2016ソウルスターリングFrankel優駿牝馬-G1、チューリップ賞-G3
2017ラッキーライラックオルフェーヴル大阪杯-G1、エリザベス女王杯-G1×2、チューリップ賞-G2
2018ダノンファンタジーディープインパクト ローズS-G2、チューリップ賞-G2
2019レシステンシアダイワメジャー 
☆は父が当該年度産駒デビューの新種牡馬

 サンデーサイレンスUSAの娘シラユキヒメは、珍しい白毛一族の祖から優れた競走能力を持つファミリーの起点となった。最初の重賞勝ち馬ユキチャンをはじめ牝馬優勢の女系一族であった点も発展を支えたといえるが、孫の牡馬ハヤヤッコはレパードS-G3で白毛として世界初の正規グレード勝利を挙げ、○ソダシは初めて芝のグレード勝ち馬となった。クロフネUSA×キングカメハメハの組み合わせはありふれていそうに見えて実は本馬が初めての重賞勝ち馬。祖母からサンデーサイレンスUSAが入っているので、万能の3乗と素直に捉えるのが良さそうだ。牡牝の三冠馬誕生をはじめ、コロナ禍にありながら競馬場だけは陽気なニュースが続くが、白毛G1制覇が実現すれば世界中が驚くのではないだろうか。

 ▲メイケイエールは母がハービンジャーGB産駒シロインジャーで、祖母が前述のクロフネUSA産駒ユキチャン。3代母はシラユキヒメだからソダシと同じファミリー。父のミッキーアイルは本馬の活躍により新種牡馬による重賞勝ち一番乗りの栄誉に浴した。サンデーサイレンスUSA3×4に加えデインヒルUSA4×4という外国の重賞勝ち馬のような近交にもなっており、ソダシをより現代的に発展させた最先端モードの配合ともいえるが、血統表4代目に登場する16頭の祖先のうち10頭がノーザンダンサーの血を引くというのはなかなか凄まじい。5代母のストームアンドサンシャインは米国でテストS-G2、ポストデブS-G3に勝った活躍馬で、ソダシともどもしっかりした牝系の支えがある点には留意しておきたい。

 △エイシンヒテンは異能のディープインパクト直仔エイシンヒカリの初年度産駒。母エイシンサンバレーは関東オークス3着の実績があり、ダマスカス直系の快足エイシンワシントンUSAの代表産駒の一頭。ディープインパクト、ストームキャット、ダマスカスという要素を拾い上げるとキズナに重なる像が見えてくる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.12.13
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