2020東京優駿


金鉱脈を掘り当てろ

 今年はみなさんご存知の世界的な事情により、ケンタッキーダービー-G1が9月に延期されて米国三冠は6月のベルモントS-G1、9月のケンタッキーダービー-G1、10月のプリークネスS-G1という史上初の変則的な構成になった。英国のダービー-G1も今のところ7月(または8月)に延期して行われる見込みで、7月施行となれば240年の歴史の中で第一次世界大戦中の1917年(ニューマーケットでの代替開催)以来、史上2度目となる。日本でもほぼあらゆるイベントが中止や延期を余儀なくされたなか、無観客とはいえここまでスケジュール通りに競馬が開催されてきたことはありがたいというほかない。
 過去10年の勝ち馬の父は2010年がキングズベスト、2011年がステイゴールド、そのあとはディープインパクト5勝、キングカメハメハ2勝、ハーツクライ1勝と現代の血統トレンドから見ると極めて平穏な結果に見えるが、1番人気はわずか3回しか勝っていない。2000年から2009年までの10年間では7勝2着1回と高い確率で人気に応えていたのに、この傾向の変化はどういうことであろうか。大雑把にいえばサンデーサイレンスUSA時代からディープインパクト時代への移行というのがひとつあるようにも思えるが、これは個々のケースによるし馬にもよる。もうひとつ、見かけ上の2強がそのまま1、2着することも極めてまれで、個人的には明確な2強対決というとシンボリルドルフ対ビゼンニシキまで遡らないといけない上に実際には2強決着が成立しなかったので、個人的な曖昧な記憶によらず「1、2番人気の2頭が1、2着を占めた場合」を抜き出したのが下表。圧倒的な1番人気と大きく離された2番人気だったり、3強のうちの1、2番人気だったり、個々についてはおくとして、その数の何と少ないことか。フルゲートが18頭となった1992年以降では1993年から1999年までで3回起きたが、今世紀に入ると実にディープインパクト→インティライミの2005年1回だけということになってしまった。それ以降14年にわたって1、2番人気の堅い決着はない。何がいいたいかというと油断禁物ということだ。
 ◎ビターエンダーは2011年の三冠を制したオルフェーヴルの産駒。オルフェーヴルは軽い切れ味ではディープインパクトとの比較の上で劣勢となる傾向にあるが、それも馬によりけりといえる。骨折で戦線離脱してしまったが、オーソリティが青葉賞-G2を快勝し、本馬はプリンシパルS-Lに勝っているように、この世代は春の東京の時計の速い決着で結果を出した。このあたりは過去2世代には見られなかったもので、3世代目で新たな良さが引き出されるようになったのかもしれない。母はJRAのダートで3勝したあと、大井に転じて東京シンデレラマイルを含め3勝を挙げた。その父アフリートアレックスはケンタッキーダービー-G1・3着、プリークネスS-G1は4角で他馬の斜行に遭い大きく躓きながらも盛り返して勝利し、ベルモントS-G1は直線離す一方の圧勝だった。ケンタッキーダービー-G1も仕掛けのタイミング次第で何とかなっていたかもしれないと思える面もあり、少し運が足りなかっただけで三冠馬になりそびれた名馬だった。祖母の父アンブライドルズソングは現代米国の最重要血統に育ったが、これもケンタッキーダービー-G1では早め先頭から粘り切れず5着に敗れている。これは直前のウッドメモリアルS-G1で蹄に外傷を負ったため特殊蹄鉄とパッチを装着して出走し、力を出し切れなかったと考えられている。このようにダービーへの無念を抱えた配合を更に遡ると、3代母はミスタープロスペクター直仔のシルヴァーゴーストで、5代母の父サーチフォーゴールドはミスタープロスペクターの全兄。つまりミスタープロスペクター2×3の3代母に、アンブライドルズソング、アフリートアレックスとミスタープロスペクター系の主流を2代続けて配合したことになる。ラッキーライラックやエポカドーロの母がフォーティナイナーUSA系ということからも分かるようにオルフェーヴルとミスタープロスペクターの血の相性の良さはG1レベル。どこかで水準以上のスピードが求められる現代のこのレースには合っていそうだ。


86分の17 東京優駿が1、2番人気で決着した例
年度1着人気2着人気
2005ディープインパクト1サンデーサイレンスUSAインティライミ2スペシャルウィーク
1999アドマイヤベガ2サンデーサイレンスUSAナリタトップロード1サッカーボーイ
1995タヤスツヨシ1サンデーサイレンスUSAジェニュイン2サンデーサイレンスUSA
1993ウイニングチケット1トニービンIREビワハヤヒデ2シャルードUSA
1991トウカイテイオー1シンボリルドルフレオダーバン2マルゼンスキー
1985シリウスシンボリ1モガミFRスダホーク2シーホークFR
1980オペックホース2リマンドGBモンテプリンス1シーホークIRE
1972ロングエース1ハードリドンIREランドプリンス2テスコボーイGB
1965キーストン2ソロナウエーIREダイコーター1ヒンドスタンGB
1964シンザン1ヒンドスタンGBウメノチカラ2ヒンドスタンGB
1963メイズイ1ゲイタイムGBグレートヨルカ2ヒカルメイジ
1958ダイゴホマレ2ミナミホマレカツラシユウホウ1プリメロGB
1957ヒカルメイジ1Bois Rousselカズヨシ2タークスリライアンスFR
1951トキノミノル1セフトIREイツセイ2セフトIRE
1942ミナミホマレ2プリメロGBアルバイト1シアンモアGB
1938スゲヌマ2プライオリーパークGBタエヤマ1トウルヌソルGB
1934フレーモア1シアンモアGBテーモア(牝)2シアンモアGB

 ○コントレイルは母の父がアンブライドルズソング。サンデーサイレンスUSA系との組み合わせではジャパンカップ-G1のスワーヴリチャード、菊花賞-G1のトーホウジャッカルを送っており、ディープインパクト産駒には朝日杯フューチュリティS-G1のダノンプラチナがいて、米国の大御所にふさわしい実績を築きつつある。祖母フォークロアはブリーダーズCクラシック-G1連覇のティズナウの娘で、自身もブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ-G1に勝った。3代母の父ストームキャットはディープインパクトとの相性の良さで定評がある。2歳時の合同フリーハンデの評価に限れば、ホープフルS-G1よりも東スポ杯2歳S-G3でより高いレーティングを獲得していた。比較的苦手かもしれない中山2000mのG1を連勝して待望の東京。更にパフォーマンスを上げてくる可能性は高いが、流れ次第では2400mをこなし切れない懸念がなくはない。

 優駿牝馬-G1でのウインマイティーのあわや勝つかの3着は種牡馬ゴールドシップの可能性の片鱗を示したものだった。フィジカルな面での可能性のほかに、気性面に由来する意外性は今後も大レースで侮れないものとなるだろう。▲ブラックホールは母の父が日本ダービー馬キングカメハメハで、祖母ブルーリッジリバーは桜花賞2着馬。ノーザンテーストCAN産駒の3代母スカーレットブルーの曾孫にはマニカトS-G1など豪G12勝のブレイブスマッシュがいる。4代母スカーレットインクはサンデーサイレンスUSAの血を得ることで一大牝系を築いている。

 △ヴァルコスはディープインパクトの甥にあたり、思い切り良く長距離志向を前面に出した血統。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.5.31
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