2020天皇賞(秋)


牝馬の時代と覇権の推移

 1984年に距離が2000mに変更されてから、天皇賞(秋)では5頭の牝馬が勝ち、延べ9頭が2、3着に入った(下表)。これは第一に距離短縮のおかげではあるだろうが、3200mの時代にも1980年プリテイキャスト、1971年トウメイ、1962年クリヒデ、1959年ガーネツト、1958年セルローズ、1954年オパールオーキツト、1953年クインナルビー、1950年ヤシマドオターと8頭の勝ち馬がおり、戦前の帝室御賞典の時代に遡っても1942年にニパトア、1938年にヒサトモが勝っている。天皇賞(春)が1953年にレダが勝ったほかはほぼ牝馬が手も足も出ないのとは大変な違いだ。ともあれ、エアグルーヴの登場をきっかけとして、大物牝馬が結果を残しやすい舞台として天皇賞(秋)が認識されたのは事実だろう。JRAから発表されているプレレーティングはアーモンドアイが124、クロノジェネシスが120と牝馬2頭が上位を占めている。セックスアローワンスが4点あるので、牡馬換算ではそれぞれ128と124となって他を圧倒している。ただ、長年レーティング観察をしている者の私見としては、安田記念-G1よりヴィクトリアマイル-G1の方が高かった上半期のレーティングの据わりの悪さ、具体的には安田記念-G1のグランアレグリアが119にとどまりヴィクトリアマイル-G1のアーモンドアイがそれをはるかに上回る124だった点に、名前にレーティングが付いたという印象が拭えない。トップクラスで安定した実績を残す名馬に高いレーティングが付くのは悪いことでは勿論ないが、高いパフォーマンスをしたから名馬としての評価を受けるはずが、それが繰り返されると名馬だから高いパフォーマンス(であるに違いない)と価値の転倒が起きてしまう。これは世界ランキングでも長くトップに君臨していると起きがちなことで、気付いたときにはピークを過ぎていたという場合もある。
 ◎クロノジェネシスは上昇ぶりがあまりに急なので、公式レーティングがそれに追い付かないようにも見える。父のバゴFRは2歳時に4戦してクリテリウムアンテルナシオナルまで-G1無敗。3歳時はジャンプラ賞-G1、パリ大賞-G1とG1に連勝し、英インターナショナルS-G1とニエル賞-G2で3着に敗れたが、凱旋門賞-G1では鮮やかに巻き返した。その後、4歳時は緒戦のガネー賞-G1こそ勝ったが、あとはトップクラスで善戦止まり。ジャパンC-G1の8着を最後に引退した。その父ナシュワンのように歴史的名馬とまでは呼ばれることがなくても、ピークまでの上昇力には見るべきものがあり、例えば3歳夏から秋にかけて未勝利から菊花賞-G1勝ちまで急上昇したビッグウィークなど、例は少ないながらもその長所は伝わっている。その上昇力を考えるとクロノジェネシスにもまだ伸びる余地を見ておいていいのではないだろうか。クロフネUSA産駒の母クロノロジストは1勝馬だが、娘のノームコアは昨年にヴィクトリアマイル-G1、今年も札幌記念-G2に勝っている。祖母インディスユニゾンはダービー卿チャレンジTなど重賞4勝のフサイチエアデールの1歳下の全妹。このファミリーからは朝日杯フューチュリティSのフサイチリシャール、クイーンCのライラプス、札幌2歳Sのアドマイヤエイカンら多くの活躍馬が現れている。バゴFRの祖母クドジェニは大種牡馬マキアヴェリアンの全妹でミスタープロスペクター×ヘイローの配合。インディスユニゾンのサンデーサイレンスUSA×ミスタープロスペクターとは同様の組み合わせで、これはサンデーサイレンスUSA系種牡馬×マキアヴェリアンの配合により成功したヴィルシーナ、シュヴァルグラン、ヴィブロスのG1・3きょうだい、ドバイワールドC-G1のヴィクトワールピサに通じる要素。母の父クロフネUSAは直仔にNHKマイルC-G1勝ち馬で昨年の3着馬アエロリット、ヴィクトリアマイル-G1のホエールキャプチャ、NHKマイルC-G1のクラリティスカイを出している。フレンチデピュティUSA系でもあって、母の父に回っても東京のG1攻略の力となるだろう。


秋の天皇賞における牝馬の活躍
年度着順馬名年齢母の父人気単勝
オッズ
1984ロンググレイスゲイルーザックITYスイーブテューダーペリオッドGB723.4
1997エアグルーヴトニービンIREダイナカールノーザンテーストCAN24.0
2004ダンスインザムードサンデーサイレンスUSAダンシングキイUSANijinsky1338.3
アドマイヤグルーヴサンデーサイレンスUSAエアグルーヴトニービンIRE917.0
2005ヘヴンリーロマンスサンデーサイレンスUSAファーストアクトIRESadler's Wells1475.8
ダンスインザムードサンデーサイレンスUSAダンシングキイUSANijinsky1353.9
2008ウオッカタニノギムレットタニノシスタールションUSA12.7
ダイワスカーレットアグネスタキオンスカーレットブーケノーザンテーストCAN23.6
2009ウオッカタニノギムレットタニノシスタールションUSA12.1
2010ブエナビスタスペシャルウィークビワハイジCaerleon12.2
2013ジェンティルドンナディープインパクトドナブリーニGBBertolini12.0
2014ジェンティルドンナディープインパクトドナブリーニGBBertolini24.7
2019アーモンドアイロードカナロアフサイチパンドラサンデーサイレンスUSA11.6
アエロリットクロフネアステリックスネオユニヴァース620.0
距離が2000mとなった1984年以降(牝馬は延べ48頭が出走し5勝2着4回3着5回着外34回)

 ○アーモンドアイは3歳時の無敗の名牝からときどき負ける名牝になってきて、長く健康な競走生活を送るためには恐らくその方が正しい。3代母セックスアピールの子孫からはトライマイベストUSA、エルグランセニョールの兄弟から、曾孫のバハミアンパイレート、ドームドライヴァー、玄孫のチンチョンまで多くのG1勝ち馬が現れ、4代母ベストインショウからもザールからラグズトゥリッチズまで更に多くの名馬名牝が輩出している名門牝系。そこにヌレエフ、サンデーサイレンスUSAと配された母はエリザベス女王杯のタイトル以上のポテンシャルがあり、それが娘に開花したと見ることもできる。

 例えば2011年のトーセンジョーダンのように、血統表にトニービンIREとノーザンテーストCANを見つければ当たるという幸せな時代はもう過ぎてしまった。そうはいっても探せばまだ見つかるもので、▲キセキは父ルーラーシップの母が名牝エアグルーヴで、これはトニービンIRE×ノーザンテーストCANの最高傑作ともいえる。東京2000mは一昨年のこのレースで3着となって以来2度目でしかないが、父系祖父キングカメハメハ、母の父からディープインパクトが入って、祖母ロンドンブリッジは桜花賞2着馬で娘に優駿牝馬のダイワエルシエーロがいるという東京向き、2000m向きの要素を満載しているようではないか。

 先週の教訓を生かして人気の有無にかかわらずディープインパクト系に流す手もあるが、もう少し懐古的ノーザンテーストCAN探しを続けると、△ウインブライトはステイゴールドとアドマイヤコジーンを経由したノーザンテーストCAN4×4。サンデーサイレンスUSA系とコジーン系の組み合わせと見れば、このレースで2度3着のあるイスラボニータに通じる。父ステイゴールド自身このレースでは4戦2着2回。中山専用、香港専用と決めつけると痛い目を見る。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.11.1
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