2019スプリンターズS


短距離への帰郷

 スプリンターズS-G1連覇、香港カップ-G1連覇のロードカナロアはほかに高松宮記念-G1、専門外の安田記念-G1も勝って日本競馬史上最高のスプリンターとなった。2014年に種牡馬になると、初年度産駒からアーモンドアイとステルヴィオ、2年目からはサートゥルナーリアを送り出し、下表のとおり1600m、2000m、2400mと主要な距離カテゴリーのG1は既に勝ってしまった。残すのは1200mと3200m級のみ。ディープインパクトでさえ初年度のG1制覇は1600mだけで、2400mと2000mは2年目のジェンティルドンナの登場まで待たなければならなかった。そういった種牡馬としての汎用性とか万能ぶりを自ら明らかにするスピードはディープインパクトを凌ぐものだ。ディープインパクトは2016年、6世代目の産駒サトノダイヤモンドが菊花賞-G1に勝ったことで、S(1000〜1300m)、M(1301〜1899m)、I(1900〜2100m)、L(2101〜2700m)、E(2701〜)の5つの距離区分のうちMからEまでの4つを制したが、S部門がなかなか難しいようだ。この部門ならロードカナロアの本領ということで今回は3頭出しの攻勢となった。
 キングカメハメハの1200mの重賞勝ち産駒はロードカナロアのほかには函館2歳S-G3のフィフスペトルと北九州記念-G3のトウカイミステリーだけ。かつての最強スプリンター・サクラバクシンオーの父サクラユタカオーも1200mの重賞勝ち馬はその他には出さなかった。種牡馬サクラバクシンオーも産駒に多くのスプリント重賞勝ち馬を送ったが、G1級の勝ち馬となると高松宮記念のショウナンカンプとビッグアーサーの2頭だけだ。このようにスプリンターは計算通りにいかず、安定供給が難しく、一代限りで終わる可能性もある。そういった意味では、ロードカナロア産駒ならスプリントのG1は簡単に勝てると必ずしもいえないことは留意する必要がある。
 それを踏まえてあえてに抜擢するイベリスは、アイビスサマーダッシュ-G3・2回、北九州記念-G3など5つの重賞に勝ったベルカントの半妹。父がサクラバクシンオーからロードカナロアになったところが5歳の年の差を示しているが、ボストンハーバーUSA産駒で芝とダートの1200mで計3勝を挙げた母セレブラールのスピードを生かす配合である点は同じ。ボストンハーバーUSAはカポウティからシアトルスルーに遡るので、ロードカナロアの父系曽祖父ミスタープロスペクターとは牝祖が同じマートルウッドだけに相性が良い。ロードカナロアの血統には母のレディブラッサムがボールドルーラー(その父ナスルーラ)×サムシングロイヤル(その父プリンスキロ)のシリアンシーとセクレタリアトの全姉弟3×4、キングカメハメハの母の父ラストタイクーンIREの母の父がミルリーフ(ネヴァーベンド×プリンスキロ)というアメリカ的スピードの仕掛けが隠されていて、これはボストンハーバーUSAの父祖シアトルスルーのボールドルーラー系×ラウンドテイブル系(その父プリンスキロ)、祖母の父サートリストラムのサムシングロイヤル×ラウンドテイブル(それぞれの父プリンスキロの4×3)、4代母アマランダのボールドルーラー系×ラウンドテイブル系の配合によく呼応する。1950年代のナスルーラ×プリンスキロのニックスをパターンを変えつつ繰り返し、そのスピードが最も現代的なスプリンター・ロードカナロアを背後で支えている。


ロードカナロアの急速な成功
年月日レース名距離勝ち馬性齢重量馬体重母の父
2018.1.8シンザン記念G31600アーモンドアイ牝354464サンデーサイレンスUSA
2018.3.18スプリングSG21800ステルヴィオ牡356466ファルブラヴIRE
2018.4.8桜花賞G11600アーモンドアイ牝355462サンデーサイレンスUSA
2018.5.20優駿牝馬G12400アーモンドアイ牝355466サンデーサイレンスUSA
2018.8.26新潟2歳SG31600ケイデンスコール牡254462ハーツクライ
2018.9.2小倉2歳SG31200ファンタジスト牡254464ディープインパクト
2018.10.14秋華賞G12000アーモンドアイ牝355480サンデーサイレンスUSA
2018.11.3京王杯2歳SG21400ファンタジスト牡255474ディープインパクト
2018.11.18マイルChp.G11600ステルヴィオ牡356478ファルブラヴIRE
2018.11.25ジャパンCG12400アーモンドアイ牝353472サンデーサイレンスUSA
2018.11.25京阪杯G31200ダノンスマッシュ牡355470ハードスパンUSA
2018.12.28ホープフルSG12000サートゥルナーリア牡255500スペシャルウィーク
2019.1.6シンザン記念G31600ヴァルディゼール牡356444ハーツクライ
2019.1.27シルクロードSG31200ダノンスマッシュ牡456.5474ハードスパンUSA
2019.4.13アーリントンCG31600イベリス牝354452ボストンハーバーUSA
2019.4.14皐月賞G12000サートゥルナーリア牡357496スペシャルウィーク
2019.7.21中京記念G31600グルーヴィット牡352490スペシャルウィーク
2019.8.25キーンランドCG31200ダノンスマッシュ牡457478ハードスパンUSA
2019.9.8京成杯オータムHG31600トロワゼトワル牝452462ハーツクライ
2019.9.22神戸新聞杯G22400サートゥルナーリア牡356498スペシャルウィーク

 同じ父の○ダノンスマッシュは母の父がダンチヒ×アリダー系の直線的なスピードを伝えるハードスパンUSA。この父との組み合わせではミスタープロスペクター系×ダンチヒ系という20年来のスタンダードともいえるスピード配合となる。祖母のハリウッドワイルドキャットはブリーダーズCディスタフ-G1など米G1・3勝の名牝で、こちらはロベルト系×ミスタープロスペクター系のニックスの先駆者だった。これらの組み合わせとなる本馬はミスタープロスペクター4×4、ノーザンダンサー5×4の現代的でオーソドックスな配合。イベリスが秘めているであろう切れ味を力とスピードで押さえ込む可能性もある。

 長い海外遠征中に英国でナッソーS-G1制覇の快挙をなしとげたディアドラと、先週の神戸新聞杯-G2で世代を代表する力を見せたサートゥルナーリアの共通点は母の父スペシャルウィーク。これは下半期の地味で秘かなキーワードとなるかもしれない。スペシャルウィークの娘の仔▲ディアンドルは父がルーラーシップ。2000〜2400mを中心に活躍し、多くの産駒はその流れに沿っているが、そこはキングカメハメハ系だけに変わり種も出てくるだろう。ロードカナロアが中距離馬を出すように、ルーラーシップも短距離馬を出しても驚けないということだ。血統表2代目には1997年の天皇賞(秋)勝ち馬エアグルーヴと同じく1999年の勝ち馬スペシャルウィーク、すなわち1998年のジャパンカップ-G1の2、3着馬がキングマンボ産駒の下に並んでいる。これら中長距離血統の力が短距離に集中されれば大駆けはあり得る。

 キングカメハメハはS、M、I、Lの4部門G1制覇を産駒デビューから4年で達成した。ステイゴールドはM、I、L、Eを制していて、残すところS部門のみとなった。△リナーテはステイゴールド産駒として初めて1200mのG1に出走する。菊花賞-G1、有馬記念-G1に勝った半兄サトノダイヤモンドはディープインパクト産駒としても長距離向きなので不思議ではあるが、ステイゴールド牝馬は気性的に1200mが向くものが出ても驚けない。G1で格負けしない血統なので、父の意外性に賭ける手も。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.9.29
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