2019エリザベス女王杯


パリのかたきを京都で討つ

 火曜日に行われたメルボルンカップを終えた段階で日本調教馬は今年海外のG1に5勝を挙げた。ドバイターフ-G1のアーモンドアイ、クイーンエリザベス2世C-G1のウインブライト、ナッソーS-G1のディアドラ、コーフィールドC-G1のメールドグラース、コックスプレート-G1のリスグラシューのうち、過半数の3勝が牝馬による快挙だった。思い起こせば、最初に欧州のG1勝ちを果たした日本調教馬は1998年モーリスドギース賞-G1のシーキングザパールUSAであった。最初に北米でG1に勝ったのも2005年アメリカンオークス-G1のシーザリオだから、たまたまかもしれないが、いずれも牝馬によってパイオニアとしての実績が残されていたことになる。何か牝馬ならではの強さといったものがあるのかもしれない。
 さて、今回は牝馬のトップ3が抜けてなお、なかなかに豪華な顔ぶれが揃っていて、芝中距離の牝馬の層の厚さを感じさせることともなっている。アーモンドアイ世代の最優秀2歳牝馬◎ラッキーライラックは昨年3月のチューリップ賞-G2を最後に勝ちから遠ざかっている。今年の2月には中山記念-G2でウインブライトからクビ差の2着があるくらいだから力の問題ではなく、ステイゴールド系にありがちなやる気の問題が1年半を越えるトンネルにつながっているのだと思われる。母のライラックスアンドレースUSAは2歳時5戦1勝、年明けのステークスを勝つとグレードレースに挑み、3月のブルボネットオークス-G3で4着のあと、4月のキーンランドで行われるアシュランドS-G1を逃げ切った。次のケンタッキーオークス-G1では13頭立てのブービーに大敗して、それを最後に引退してしまうので、どれほどの成長力があったかは不明なままに終わったが、2歳で勝ち上がったのが4戦目で距離が伸びてからだから、少なくとも早熟なスピード馬ではなかった。5代母マイビューパーズの子孫にハーツクライがいるこの牝系は、4代母マイジュリエットの分枝も繁栄しており、1980年代から1990年代にかけてはティズジュリエットとステラマドリッドUSAの全姉妹が大活躍した。特に後者の子孫は下表の通り日本で大成功し、本馬のほかにミッキーアイルとアエロリットがG1勝ち馬となった。両者ともNHKマイルC-G1に勝っているが、古馬になってもG1レベルのパフォーマンスを示しており、歴代NHKマイルC-G1勝ち馬として上級といえる成長力も示した。そのような背景を考えると、ラッキーライラックにも同様の成長力が秘められていると推測できるのではないだろうか。このところ見た目がマッチョになってきているのが牝馬としてどうなのかは分からないが、父のオルフェーヴルらしさとか、母系のフォーティナイナーUSAの影響とか、そういったことが表面に出てきたことによりパワーアップにつながるかもしれない。オルフェーヴルで凱旋門賞-G1を勝ち損ねたスミヨン騎手にはここでしっかりと借りを返してもらいたい。どちらの借りかはよく分からないが。



マイビューパーズ系マイジュリエット分枝の繁栄
 My Bupers(USA) マイビューパーズ(黒鹿、牝、1967、Bupers)
  MY JULIET(USA) マイジュリエット(黒鹿、牝、1972年生、父Gallant Romeo)コティリオンH
      -G2、ヴォスヴァーグH-G2、ミシガンマイル&1/8H-G2、ブラックアイドスーザンS-G3、
      テストS-G3、ヴェイグランシーH
    Bold Julie(USA)(鹿、牝、1979、Bold Forbes)
    | Blue Ground(SAF)(栗、牝、1988、モガンボUSA)
    |   KIMBERLEY MINE(SAF) キンバリーマイン(鹿、牝、1996、Fort Wood)スプリング
    |     チャレンジ-G1、ゴールドサークルオークス-G2
    Just Juliet(USA)(黒鹿、牝、1982、What a Pleasure)
    | Just Fly(USA)(黒鹿、牝、1990、Capote)
    |   JUST WONDER(GB) ジャストワンダー(鹿、牡、2000、Hernando)シネマBCH-G3
    TIS JULIET(USA) ティズジュリエット(鹿、牝、1986、Alydar)シュヴィーH-G1
    | Dance My Dance(IRE)(鹿、牝、2000、Sadler's Wells)
    |   RASA LILA(NZ) ラサリラ(鹿、牝、2010、Darci Brahma)ケンブリッジトラヴィスS
    |     -G2、WRCカドルS-G3
    ステラマドリッドUSA STELLA MADRID(鹿、牝、1987、Alydar)スピナウェイS-G1、メイト
        ロンS-G1、フリゼットS-G1、エイコーンS-G1
      Refinement(USA)(鹿、牝、1994、Seattle Slew)
      | ライラックスアンドレースUSA LILACS AND LACE(栗、牝、2008、Flower Alley)
      |     アシュランドS-G1
      |   ラッキーライラック(栗、牝、2015、オルフェーヴル)阪神ジュベナイルフィリーズ
      |     -G1、チューリップ賞-G2、アルテミスS-G3
      アイルドフランスUSA ISLE DE FRANCE(鹿、牝、1995、Nureyev)ミネルヴ賞-G3、
      |   ヒルズボローH-G3
      | スターアイルIRE Star Isle(鹿、牝、2004、ロックオブジブラルタルIRE)
      | | ミッキーアイル(鹿、牡、2011、ディープインパクト)マイルチャンピオンシップ-G1、
      | |   NHKマイルC-G1、スワンS-G2、阪急杯-G3、アーリントンC-G3、シンザン記
      | |   念-G3
      | アステリックス(黒鹿、牝、2010、ネオユニヴァース)
      |   アエロリット(芦、牝、2014、クロフネUSA)NHKマイルC-G1、毎日王冠-G2、ク
      |     イーンS-G3
      ダイヤモンドビコー(鹿、牝、1998、サンデーサイレンスUSA)阪神牝馬S、ローズS、府
        中牝馬S、中山牝馬S

 ディープインパクトが今回は5頭出し。今年先週までの国内のG1でディープインパクトは(6.7.2.39)で連対率は0.241。1番人気では5戦2勝と微妙だが、ロジャーバローズの東京優駿-G1とかアルアインの大阪杯-G1、カレンブーケドールの優駿牝馬-G1・2着、この秋ならサトノルークスの菊花賞-G1・2着など、数が多くてしかも底力があるだけに穴血統としての存在感も大きい。そういった点から魅力的なのが○センテリュオ。全兄トーセンスターダムはきさらぎ賞-G3やチャレンジC-G3に勝ったあとオーストラリアに渡りエミレーツS-G1とトゥーラクH-G1の2つのG1に勝った。祖母エヴリウィスパーの産駒にも活躍馬が多いが、トーセンジョーダンは単勝7番人気33.3倍で天皇賞(秋)-G1に勝った。3代母クラフティワイフの子孫からも天皇賞(秋)とマイルチャンピオンシップのカンパニーをはじめ、多くの活躍馬が出ている。サンデーサイレンスUSA系×フォーティナイナーUSA系にノーザンテーストCANが加わる点ではラッキーライラックと共通している。

 ▲ラヴズオンリーユーは近年最強のニックスといえるディープインパクト×ストームキャットの配合。ドバイターフ-G1に勝った全兄リアルスティールをはじめ、日本ダービー馬キズナ、香港カップ-G1とイスパーン賞-G1のエイシンヒカリ、ジョッキークラブ賞-G1(仏ダービー)のスタディオブマン、エリザベス女王杯-G1のラキシス、安田記念-G1のサトノアラジン、桜花賞-G1のアユサンなど、世界のどこでもどんな距離でもG1勝ち馬が出ている。祖母モナヴァッシアは大種牡馬キングマンボの全妹で、3代母ミエスクはブリーダーズCマイル-G1連覇などG1・10勝のマイルの名牝。隙のない名血でポテンシャルも恐らく一番高いだろうが、ディープインパクト×ストームキャットで複数のG1に勝ったのはエイシンヒカリしかいないという事実もある。

 △クロコスミアは毎年このレースでモチベーションを最大にすべく仕上げているようで、ステイゴールド牝馬にはそれが合っているのだろう。牝系はケープクロスやディクタットが出る欧州の名門。4代目にノーザンダンサー直仔でカナダのE.P.テイラー生産のノーザンテーストCANとヴァイスリージェントが並ぶのがこの配合の肝。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.11.10
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