2019NHKマイルC


平成の女傑の血が騒ぐ

 このレースでは過去10年間に馬券の対象となった30頭のうち、半分にあたる15頭が下表に示した通り5番人気以下だった。30頭の人気を単純に平均すると5.97人気となり、複勝配当の平均も589.7円と大変高いものとなる。なぜそんなことになるかというと、強い馬があまり出走してこなかったり、強いと思われた馬が実際にはそうでもなかったりといった場合が多いから。そのひとつの証拠として、格付けの基準となる年間レースレーティング(上位に入線した4頭の最終的なレーティングの平均)の3年平均(2016〜2018年)が112.67と牝馬限定戦と2歳戦を除くとG1の中で最も低い。3歳限定のG2と比べても、弥生賞の114.33、神戸新聞杯の115.92には大きく劣る。G1の基準となる年間レースレーティングは115。降格の警告がアジアパターン委員会から発せられるのは、それを3年連続5を超えて下回った場合なので、今のところG1の格は維持されているわけだが、低空飛行で安定してしまっている点で心もとないのは確かだろう。
 これまでどういう馬が穴を開けてきたかというと、過半数の父系祖父がサンデーサイレンスUSAであり、そうでないものの半分は母の父がサンデーサイレンスUSAかその直仔という、現代の血統勢力図から大きく離れていない構成となっている。その中で気付くのは、サンデーサイレンスUSA系ならマンハッタンカフェ、ダンスインザダーク、ステイゴールドといったステイヤー系の名前が目立ち、それ以外ではフレンチデピュティUSAが複数回登場する。それを踏まえて出走馬の血統表を眺めると、母の父がサンデーサイレンスUSA直仔のステイヤー・スペシャルウィークで、祖母の父フレンチデピュティUSAの◎グルーヴィットが大変怪しい。母スペシャルグルーヴは2戦未勝利、祖母ソニックグルーヴは不出走ながら、3代母は天皇賞(秋)、優駿牝馬など特に東京コースに実績を残した名牝エアグルーヴ。アドマイヤグルーヴ、ルーラーシップ、ドゥラメンテら子孫の活躍は今更述べるまでもないだろう。4代母ダイナカールも優駿牝馬の勝ち馬で、その子孫にも高松宮記念のオレハマッテルゼをはじめ多くの活躍馬が出ている。名牝系に名種牡馬を重ねたところに仕上げとして配されたのが、ポスト・ディープインパクトの一番手として期待通りの成績を積み上げてきたロードカナロア。初年度産駒のアーモンドアイ、ステルヴィオに続きこの3歳世代からも皐月賞馬サートゥルナーリアが現れたほか、ケイデンスコール、ファンタジスト、ヴァルディゼール、イベリスら1600m以下の重賞勝ち産駒4頭がすべてこのレースに出走してきた。このように順調に目標に向けて仕上げられる点もこの父の長所のひとつと考えられる。あとはアーモンドアイ、ステルヴィオ、サートゥルナーリアといった誰が見ても特別な馬以外でも、それなりの成長を示せるかという点がこれから試されることにはなるだろう。本馬のロードカナロア×スペシャルウィークの配合はサートゥルナーリアと同じであり、ブルードメアサイアーとしてのスペシャルウィークは表にあるタガノブルグのほか2015年のこのレースの勝ち馬クラリティスカイを送っている。可能性としてはG1レベルの期待をかけていい。


馬券圏内の半分を穴馬が占めるNHKマイルカップ
年度着順馬名単勝
人気
単勝
配当
複勝
配当
父系祖父母の父祖母の父
2009ジョーカプチーノ103,9801,120マンハッタンカフェサンデーサイレンスUSAフサイチコンコルドトウショウボーイ
レッドスパーダ5 380タイキシャトルUSADevil's BagStorm CatBates Motel
グランプリエンゼル13 2,850アグネスデジタルUSACrafty ProspectorサンデーサイレンスUSAノーザンテーストCAN
2010ダイワバーバリアン5 340マンハッタンカフェサンデーサイレンスUSAKingmamboオジジアンUSA
2012クラレント15 1,630ダンスインザダークサンデーサイレンスUSAダンシングブレーヴUSAテスコボーイGB
2013マイネルホウオウ103,430730スズカフェニックスサンデーサイレンスUSAフレンチデピュティUSAリアルシャダイUSA
インパルスヒーロー6 510クロフネUSAフレンチデピュティUSAサンデーサイレンスUSAノーザンテーストCAN
フラムドグロワール8 770ダイワメジャーサンデーサイレンスUSAブライアンズタイムUSANorthern Dancer
2014タガノブルグ17 1,940ヨハネスブルグUSAヘネシーUSAスペシャルウィークWoodman
キングズオブザサン12 1,600チチカステナンゴFRSmadounサンデーサイレンスUSAAffirmed
2016レインボーライン12 660ステイゴールドサンデーサイレンスUSAフレンチデピュティUSAレインボーアンバー
2017リエノテソーロUSA13 950SpeightstownGone WestLangfuhrGulch
ボンセルヴィーソ6 320ダイワメジャーサンデーサイレンスUSAサクラローレルトニービンIRE
2018ケイアイノーテック61,280370ディープインパクトサンデーサイレンスUSASmarty JonesDanzig
レッドヴェイロン9 520キングカメハメハKingmamboダンシングブレーヴUSAテスコボーイGB

 今年のハーツクライ産駒は4月終了時点の重賞勝ちがノーワンのフィリーズレビュー1勝と例年に比べると出足が鈍い。これは重賞初勝利がウインバリアシオンの2011年青葉賞-G2だった初年度産駒以来の低調さだが、逆にいえばウインバリアシオンのように左回りとなって目覚めるものがいるのかもしれない。○カテドラルはエルムS-G3のジェベルムーサの半弟で、母アビラGBはロックオブジブラルタルUSA産駒。2014年のこのレースの勝ち馬ミッキーアイルはディープインパクト×ロックオブジブラルタルUSAだから、祖父の代では共通する構成だ。アレッジド産駒の祖母アニマトリスは英オークス-G1で3着となり、夏にはマルレ賞-G2とノネット賞-G3を連勝した。3代母のクレオパトル賞-G3勝ち馬アレクサンドリーの子孫にはクリテリウムドサンクルー-G1のポリグロートや、エプソムCのアドマイヤカイザー、エディリードH-G1のスペシャルリングがいる。英ダービー馬クエストフォーフェイムGBと同じ牝系で、このレースの卒業生でいえばレインボーラインのように、ゆっくり大きく成長するのではないだろうか。

 昨年のディープインパクト産駒は5頭が出走して6番人気のケイアイノーテックが勝ち、2番人気のギベオンが2着となった。天皇賞(春)-G1がそうなりかけたように、人気のディープインパクトを逆転するなら人気薄のディープインパクトと決め打ちするのもひとつの手だろう。▲ダノンチェイサーは前述のミッキーアイルと同じディープインパクト×ロックオブジブラルタルUSA。母は愛1000ギニー-G1、米でガーデンシティS-G1とG1・2勝の名牝で、4代母オプティミスティックラスの子孫にはコロネーションS-G1のゴールデンオピニオン、英愛でG1・3勝のアリススプリングスがいる名門。

 △グランアレグリアの母はジャストアゲイムS-G1など米芝G12勝の名牝。その父タピットは現在の代表的米国血脈で、ディープインパクト産駒としては最新仕様といえる。欧州血統が強いダノンチェイサーとは対照的。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.5.5
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