2019菊花賞


ステイヤーは潜伏している

 皐月賞と東京優駿の勝ち馬が出ない菊花賞はさほど珍しいことでもなく、直近ではキタサンブラックが勝った2015年がそうだった。しかし、更に東西の前哨戦である神戸新聞杯(1999年以前の京都新聞杯)とセントライト記念の勝ち馬も出ない例はトラツクオーが勝った1951年まで遡らなければ出現せず、そもそもそのころはセントライト記念はあっても神戸盃も京都盃(それぞれ新聞杯の前身)もなかったので、今回のケースは実質的に史上初めてとなる。春のクラシック馬不在の年を遡ってみると、キタサンブラックと2013年のエピファネイアこそ3歳春までに重賞勝ちがあるが、2010年ビッグウィークは7月に未勝利脱出、2008年オウケンブルースリは8月に1000万条件の阿賀野川特別勝ち、2004年デルタブルースは10月に1000万の九十九里特別勝ちと、菊花賞挑戦の時点で条件馬であることが多い。今回はグレード勝ち馬3頭、リステッド勝ち馬3頭と、クラシック馬不在という以上に、何といいましょうか、あまりレベルが高くない戦いとなった。どんな馬が争覇圏内に飛び込んできても驚けないと考えておく必要がある。
 なぜこうなったかの原因はともかく、今はたまたま長距離系種牡馬がいないのは事実だろう。サンデーサイレンスUSAやディープインパクトのような万能走者が長距離でも強いケースは別として、ダンスインザダーク、ブライアンズタイムUSA、サッカーボーイ、リアルシャダイUSAといった専門的長距離型種牡馬がいなくなり、ステイゴールドは実質的ラストクロップが4歳を迎えた上にそれら晩年の産駒も異分野進出に熱心という傾向がある。ステイゴールド後継のオルフェーヴルやゴールドシップには可能性があるが、まだ実績がともなわない。そういったわけで、長距離の衰退というよりも過渡期の落ち込みと見るべき。下表のような長距離ランキング級種牡馬が1頭でも出現すれば、様相は簡単に変化するのではないだろうか。この分野でディープインパクトの覇権を許さない存在といえばランキング6位ハーツクライと見るのが妥当なのだろうが、阪神大賞典やダイヤモンドSでの強さに対して11回出走した菊花賞での実績らしい実績はウインバリアシオンの2着が1度あるだけであとは大敗がほとんど。あまりアテにはできない。キングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1圧勝の欧州型ステイヤー・ハービンジャーGBはどうかというと、3000m以上の平地重賞には10回出走してトーセンバジルの阪神大賞典-G2・3着があるだけ。その後に有馬記念-G1を勝つ昨年のブラストワンピースでも0秒4差の4着に敗れていた。とはいえ、春のノームコアのヴィクトリアマイル-G1、夏の英国におけるディアドラのナッソーS-G1制覇、ブラストワンピースの札幌記念-G2、そして今月初めのドレッドノータスによる京都大賞典-G2勝ちと、活躍の幅の広さという点で、2017年秋にG1を立て続けに3勝したときとはまた違う勢いに乗っている。このあたりでそろそろ超長距離部門への進出がないものだろうか。◎シフルマンは母がサンデーサイレンスUSA産駒だから、マイルチャンピオンシップ-G1のペルシアンナイト、京都大賞典-G2のドレッドノータスと同じ。これまでのレース振りで示していない瞬発力が潜在している可能性はある。祖母は秋華賞に勝ちジャパンC-G1・2着となった名牝ファビラスラフインFR。産駒のギュスターヴクライはオルフェーヴルが大逸走した阪神大賞典-G2の勝ち馬。3代母メルカルは4000mのカドラン賞-G1勝ち馬。このあたりがハービンジャーGBの3代目以前に潜む豊富な欧州ステイヤーの血と呼応すれば、超長距離での突然の覚醒はあり得る。


過去30年の長距離種牡馬ランキング
順位種牡馬名1着2着3着着外勝率連対率3着率主な長距離産駒
1サンデーサイレンスUSA12129980.0920.1830.252ディープインパクト
2ステイゴールド1153480.1640.2390.284ゴールドシップ
3ダンスインザダーク1078560.1230.2100.309デルタブルース
4ブライアンズタイムUSA772320.1460.2920.333マヤノトップガン
4サッカーボーイ726170.2190.2810.469ヒシミラクル
6ハーツクライ6144390.0950.3170.381フェイムゲーム
7リアルシャダイUSA5106420.0790.2380.333ライスシャワー
7エルコンドルパサーUSA525280.1250.1750.300ソングオブウインド
7メジロティターン51000.8331.0001.000メジロマックイーン
10ディープインパクト4109500.0550.1920.315フィエールマン
10オペラハウスGB431180.1540.2690.308テイエムオペラオー
10アドマイヤドン40170.3330.3330.417アルバート
10ホワイトマズルGB40190.2860.2860.357アサクサキングス
14ノーザンテーストCAN351380.0640.1700.191インターフラッグ
14メジロライアン331190.1150.2310.269メジロブライト
14ミルジョージUSA331200.1110.2220.259ユーセイトップラン
14ブラックタイド30050.3750.3750.375キタサンブラック
1990年以降3000b以上の芝平地重賞成績。産駒の太字は菊花賞馬

 2歳時から実績のあるもう1頭のハービンジャーGB産駒○ニシノデイジーは、祖母ニシノミライがセイウンスカイ×ニシノフラワー。菊花賞馬×桜花賞馬の西山牧場版夢の配合ということになる。ニシノミライにはフォルリ、ミルリーフ、サムシングロイヤルといった名血に加え、リボーの6×4なども潜んでいて、どこかでスイッチが入れば大仕事ができる。母の父アグネスタキオン、そして父ハービンジャーGBならG1クラスの爆発力を期待していい。

 ハーツクライ系の後継というよりも転換点となりそうな存在がジャスタウェイ。なぜか産駒にまだ重賞勝ち馬が出ていないが、このあたりは4歳秋からの急上昇で世界ランキング1位にまで到達した自身もそうだったように、ハーツクライ的な晩成の傾向が出ているのかもしれない。▲ヴェロックスのクラシック2、3着もそういった面が出たためだとすると、ここかこの先かは分からないが、大きな飛躍のときが来る可能性はある。ただ、ドイツ牝系にニジンスキーやチーフズクラウンが入って、母の父もドイツのリーディングサイアー・モンズーンだから底力は十分だが、逆にいえば本格的な上昇には時間がかかるかもしれない。特にチーフズクラウンは意外な重石になることがある。

 ルーラーシップは不良馬場の一昨年の勝ち馬キセキを出した菊花賞サイアー。キングカメハメハ×トニービンIRE×ノーザンテーストCANの配合で、しかもトニービンIRE×ノーザンテーストCANの最高峰であるエアグルーヴが母なので、香港のクイーンエリザベス2世カップ-G1のみに終わった現役時のG1タイトル以上のポテンシャルを種牡馬としては備えているだろう。万能のキングマンボ系からは2006年の勝ち馬ソングオブウインドを出しているように、超長距離へ発展する道もある。△ヒシゲッコウは半兄ステルヴィオが昨年のマイルチャンピオンシップ-G1勝ち馬。祖母の産駒にはクランエンブレムとクリーバレンの障害重賞勝ち馬がおり、4代母スイートコンコルドは三冠馬シンボリルドルフの3歳上の全姉。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.10.20
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