2019ジャパンC


血統表3代目に潜むトニービンを探せ

 かつて20世紀から21世紀へと移るころ「ワールドレーシングチャンピオンシップ(旧称ワールドシリーズレーシングチャンピオンシップ)」というシリーズがあったのを記憶されている方もおられると思う。クイーンエリザベス2世カップ-G1(香港)、シンガポール航空国際カップ-G1(シンガポール)、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1(英国)、アーリントンミリオンS-G1(米国)、バーデン大賞-G1(独国)、愛チャンピオンS-G1(愛国)、凱旋門賞-G1(仏国)、コックスプレート-G1(豪州)、カナディアン国際S-G1(加国)、ブリーダーズカップターフ-G1(米国)、ブリーダーズカップクラシック-G1(米国)、ジャパンカップ-G1(日本)、香港カップ-G1(香港)の最大で13レースがシリーズに組み込まれ、そのポイントを争った結果、初代のダイラミ(1999年)から、ファンタスティックライトUSA(2000、2001)、グランデラIRE(2002)、ハイシャパラル(2003)、スラマニとエパロ(2004)、ヴェンジェンスオブレイン(2005)が世界チャンピオンとなった。リスクと利益のバランスを考えると超一流馬に世界行脚を求める企画は無理があるように思えるが、それでもゴドルフィンの肝煎りとあって初期にはそれなりに盛り上がを見せた。前記したレースは個別に見ればほとんどが今でも一流の内容を保っているが、「ワールドレーシングチャンピオンシップ」当時の豊かな国際色をとどめているかというと何とか健在といえるのはもう香港カップ-G1くらいしかないように見える。特に今年の場合は日本馬が熱心に挑戦したおかげでカラフルになったレースも少なくない。「世界チャンピオン戦」はどんなに高賞金を用意しても、地理的、時期的にアドバンテージがあっても、だんだんと老いていくのは避けられないのではないだろうか。
 ジャパンカップ-G1の場合は最後に外国招待馬が勝ったのが2005年のアルカセットUSA、馬券圏内に入ったのが2006年3着のウィジャボードGBだから、今週の週刊競馬ブック「血統アカデミー」で山口裕司さんが指摘しているように「こと勝ち馬検討の観点からすると(中略)遠征馬の不在は大した問題ではない」ということになる。さて、そのような変化にあって、見方によっては目立たず渋太く影響力を保ち続けているのがトニービンIREの血。エアグルーヴやジャングルポケットの時代は遠くなってしまったが、下表の通り、血統表の3代目あたりにトニービンIREが潜んだ馬の好走例は途切れることがない。ハーツクライとルーラーシップが優秀なのではといわれればその通りかもしれないが、サンデーサイレンスUSA、キングカメハメハが幅を利かすからこそトニービンIREが存在意義を増すのは確かだろう。
 ルーラーシップ産駒は菊花賞馬キセキが昨年のこのレースで2着し、今年はメールドグラースがコーフィールドC-G1でG1初制覇を果たした。自身もG1勝ちは香港のクイーンエリザベス2世カップ-G1のみだし、母のエアグルーヴも牡馬相手の活躍により記憶される名牝なので、アウェー環境に強い何かがあるのかもしれない。◎ムイトオブリガードはG1経験が大阪杯-G1・8着の1度しかなく、格下であるのは否めないが、逆にだからこそこれまで秘めていた力が引き出される可能性がある。ルーラーシップ×サンデーサイレンスUSAの配合はメールドグラースやダンビュライトと同じ。母のピサノグラフは4勝を挙げてターコイズS3着のある活躍馬で、祖母のシンコウラブリイIREはマイルチャンピオンシップ、毎日王冠などに勝った名牝。ちなみに祖父母の代に並ぶキングカメハメハ、エアグルーヴ、サンデーサイレンスUSA、シンコウラブリイIREの重賞勝ちを合計すると24にのぼり、このあたりの豪華さはメールドグラースやダンビュライトに勝る。血統表4代目にノーザンテーストCANとニジンスキー、5代目にトライマイベストIREと、カナダの大オーナー・ブリーダーであるE.P.テイラーの手になるノーザンダンサー直仔の名が並ぶ点も今どきの一流馬らしいところ。


過去のジャパンカップにおけるトニービンの影響
馬名性齢人気続柄
1993ウイニングチケット牡34
1994ロイスアンドロイス牡48
19957ロイスアンドロイス牡58
1997エアグルーヴ牝42
1998エアグルーヴ牝52
2001ジャングルポケット牡32
20025ジャングルポケット牡43
200310ダービーレグノ牡518
20045ナリタセンチュリー牡54
10ハーツクライ牡33母の父
2005ハーツクライ牡42母の父
4リンカーン牡59母の父
18ストーミーカフェ牡314父の母の父
2006ドリームパスポート牡35母の父
10ハーツクライ牡52母の父
200714ドリームパスポート牡46母の父
18ヴィクトリー牡38母の父
20085オウケンブルースリ牡34父の父
12アドマイヤモナーク牡716母の父
15トーセンキャプテン牡413父の父
2009オウケンブルースリ牡42父の父
20104ジャガーメイル牡67父の父
7オウケンブルースリ牡56父の父
2011トーセンジョーダン牡56父の父
ジャガーメイル牡714父の父
5ウインバリアシオン牡37父の母の父
10オウケンブルースリ牡612父の父
2012ルーラーシップ牡52母の父
6トーセンジョーダン牡610父の父
7ビートブラック牡58父の母の父
10ジャガーメイル牡811父の父
14オウケンブルースリ牡717父の父
2013トーセンジョーダン牡711父の父
4アドマイヤラクティ牡54父の母の父
2014ジャスタウェイ牡53父の母の父
5ハープスター牝32祖母の父
7ワンアンドオンリー牡38父の母の父
14トーセンジョーダン牡816父の父
2015ラブリーデイ牡51祖母の父
4ジャングルクルーズセン617父の父
7ワンアンドオンリー牡413父の母の父
9ダービーフィズ牡518父の父
15カレンミロティックセン716父の母の父
16アドマイヤデウス牡410父の母の父
2016シュヴァルグラン牡46父の母の父
8ワンアンドオンリー牡514父の母の父
17フェイムゲームセン615父の母の父
2017シュヴァルグラン牡55父の母の父
16ワンアンドオンリー牡615父の母の父
2018キセキ牡44父の母の父
スワーヴリチャード牡42父の母の父
4シュヴァルグラン牡65父の母の父
5ミッキースワロー牡48母の父の父
8ウインテンダネス牡510父の父の父
13ノーブルマーズ牡512父の父

 ディープインパクト産駒の牡馬にも複数のG1勝ちを収めるものが増えてきた昨今であるが、まだG1・2勝目に苦労するものの方が多い。ということは、このレースで相当の実績を残すディープインパクト産駒だが、牡馬を狙うならG1未勝利がいい。○ジナンボーは母がアパパネだから父母とも同じ勝負服の三冠馬で、重賞勝ちは2頭合わせて15という豪華な組み合わせ。こちらも血統表5代目にトライマイベストIREとヴァイスリージェントというE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔が並んでいる。

 ▲スワーヴリチャードは昨年の大阪杯-G1勝利のあと不振とまではいえないモタつきが続く。父の母の父がトニービンIRE。これがグレイソヴリン系。母の父アンブライドルズソングの母の父カロもグレイソヴリン系。祖母の父ジェネラルミーティングはボールドルーラー系、3代母の父リヴァーマンはネヴァーベンド系とさまざまなナスルーラ系種牡馬が織り込まれ、6代母の父もナスルーラという配合。これらが噛み合えばこのレース向きの瞬発力につながる。

 △ユーキャンスマイルもトライマイベストIREとニジンスキーのE.P.テイラー血統を装備。もう一段階の成長は見込んでいい。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.11.25
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