2019天皇賞・春


遅れて目覚めるハーツクライ

 菊花賞-G1と春の天皇賞-G1は時期が半年しか離れておらず、同じ競馬場で距離が約7%延長するだけの似た形態で行われている。超長距離のG1はこれら2つだけなので、その傾向には連続する面があるのは当然だが、一方で意外に断絶もある。種牡馬別に見ると、下表に示したように典型的なのがダンスインザダーク。かつて菊花賞では産駒が3勝2着2回と頼りになる血統だったにもかかわらず、天皇賞(春)では延べ19頭が出走して唯一ダイタクバートラムの3着が馬券圏内の成績だった。菊花賞は一生一度、天皇賞(春)は何度でも出走できるので、後者の種牡馬ランキングは1頭で複数勝利を挙げたものが上位に入るため若干データとしての信頼性には欠けるが、現役世代ではディープインパクトの下降傾向とステイゴールドの安定ぶりは認めていいだろう。そして、この表では半分隠れているようなものだが、菊花賞-G1→天皇賞(春)-G1で最も大きな上昇を見せるのがハーツクライだ。菊花賞-G1でのハーツクライ産駒は2011年ウインバリアシオンの2着があるだけ。しかし、天皇賞(春)-G1ではウインバリアシオン、カレンミロティック、フェイムゲーム、シュヴァルグランの3頭で2着5回、3着3回(2桁人気もあるよ!)という好成績を残している。ステイゴールドは過去6年でキタサンブラックの勝った2年を除く4年を3頭で制していて目をひくが、その陰で実はハーツクライが5年連続馬券圏内突入を果たしているのである。

 ハーツクライ産駒は2頭しか出ていないので、この選択を間違わなければもう高配当に半分手をかけたようなものだ。◎カフジプリンスは3歳夏に3勝目を挙げて菊花賞-G1路線に乗り、その後、重賞勝ちに近付いたり、脚部不安で長期休養を挟んだりして6歳春を迎えた。3歳夏に勝った阿寒湖特別はステイゴールドやマンハッタンカフェ、ファインモーション、ホクトスルタンら遅咲きの名馬が輩出した特別な特別レースで、天皇賞(春)-G1好走のハーツクライ産駒で3歳春のクラシックに出走歴がない点はカレンミロティック、シュヴァルグランと共通する晩成の大物の証といえるかもしれない。母のギンザフローラルは中央芝1200mで1勝、その後、大井に転じてダートで2勝を挙げ、ロジータ記念で3着となった。その父シンボリクリスエスUSAはブルードメアサイアーとしてレイデオロ、オジュウチョウサンという平地と障害で現役最強クラスの2頭を送っている。後者は本馬と同じサンデーサイレンスUSA系種牡馬との組み合わせになる。シーキングザゴールド産駒の祖母ストロングウィドウUSAは京都のダ1200mで新馬戦を勝ち、3代母ボールドウィンディはダート7FのエイグリームH-G2に勝った。シーキングザゴールド経由で入るミスタープロスペクターの血はハーツクライとの配合でとても重要。


似て非なる超長距離戦の種牡馬傾向 過去30年の種牡馬ランキング
天皇賞(春) 4歳上、3200b菊花賞 3歳、3000b
順位種牡馬名1着2着3着着外勝率順位種牡馬名1着2着3着着外勝率
1サンデーサイレンスUSA433280.1051サンデーサイレンスUSA443420.076
2ステイゴールド401120.2352ダンスインザダーク32060.273
3オペラハウスGB31070.2733ディープインパクト222230.069
4リアルシャダイUSA224160.0834ブライアンズタイムUSA221110.125
5メジロティターン21000.6675ステイゴールド220160.100
6ブラックタイド20001.0006サッカーボーイ20030.400
 ミルジョージUSA12080.091 リアルシャダイUSA13180.077
 ブライアンズタイムUSA12090.083 スペシャルウィーク11030.200
 Rainbow Quest11000.500 バゴFR10001.000
 チーフベアハートCAN11030.200 シェリフズスターGB10001.000
 メジロライアン11030.200 シャルードUSA10001.000
 ノーアテンションFR11040.167 メジロティターン10001.000
 ジャングルポケット11060.125 マルゼンスキー10001.000
 サッカーボーイ10450.100 ホワイトマズルGB10010.500
 ホワイトマズルGB10120.250 クリスタルグリッターズUSA10010.500
 マンハッタンカフェ10140.167 ルーラーシップ10020.333
 シャルードUSA10001.000 バンブーアトラス10020.333
 ミスキャスト10010.500 ブラックタイド10030.250
 フレンチデピュティUSA10020.333 エルコンドルパサーUSA10050.167
 ハーツクライ053130.000 シンボリクリスエスUSA10060.143
 ディープインパクト011130.000 ジャングルポケット10070.125

 ステイゴールドがG1級レースで初めて2着となったのは4歳時の天皇賞(春)。産駒の○エタリオウは既にG1は菊花賞-G1、G2も青葉賞-G2、神戸新聞杯-G2、日経賞-G2と2着になり、父を上回る早さで重賞入着コレクションを進めている。母のホットチャチャは3歳3月のブルボネットオークス-G3(オールウェザー8F)で重賞初挑戦初勝利を決めており、その後もクイーンエリザベス2世チャレンジカップS-G1など米の芝重賞3勝を上乗せした。その父カクタスリッジはヘネシーUSA直仔の2歳重賞勝ち馬で、競走成績以上の優れた種牡馬成績を上げるあたりはストームキャット直系らしい。祖母の父がアクアク系ブロードブラッシュ、3代母の父がダマスカス系プライヴェートアカウントを異系米国血統が入っている点でのステイゴールドとの“化学反応”が今後どういった形で現れてくるかの楽しみもある。

 マンハッタンカフェは自身菊花賞に勝ち、産駒はヒルノダムールが天皇賞(春)-G1に勝った。今回はシャケトラが1番人気となるはずだったが、1週前に残念なことになってしまった。それでも競馬は続いていくし、マンハッタンカフェにはもう1頭▲メイショウテッコンがいる。母エーシンベロシティUSAは未勝利ながら、その父レモンドロップキッドはキングマンボ直仔きっての良血で、フューチュリティS-G1、ベルモントS-G1、ホイットニーH-G1など2、3、4歳で毎年G1に勝った。祖母のバーモントガールUSAはダート1400mの新馬戦で1勝。3代母レイジングアパラチーの産駒にはBCスプリント-G1など米G13勝の名スプリンター・アータックスがいる。ミスタープロスペクター3×4を柱としてシアトルスルーやバックパサー、ラウンドテーブルやドクターファーガーらをちりばめた米国血統の塊といえる母と、この父との組み合わせも爆発力を秘めている。

 G1勝ちを果たして一度ピークに達したディープインパクト産駒には距離を置く立場としては、△フィエールマンは扱いが難しい。G1には勝ったが、まだピークには達していないと思えるからだ。母のリュヌドールFRは3歳夏に急上昇してマルレ賞-G2、ポモーヌ賞-G2と仏G2を連勝、ヴェルメイユ賞-G1で10着に敗れたあとイタリアでリディアテシオ賞-G1に勝ってジャパンC-G1にも出走した(7着)。ポモーヌ賞-G2勝ち馬にはレディベリー、ファビュルージェーン、コロラドダンサー、ホワイトウォーターアフェアGBなど後に名繁殖牝馬に育つものが少なくなく、牝馬の長距離戦も大事だと知らせてくれる。母は欧州血統を集めた中にミスタープロスペクターがワンポイントとなっていて、それが現代的なスピードの保証といえる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.4.28
©Keiba Book