2019朝日杯フューチュリティS


反撃は電光石火

 12月8日の香港国際競走で2019年の日本調教馬の海外遠征が終了した。アーモンドアイのドバイターフ-G1、ウインブライトのクイーンエリザベス2世カップ-G1と香港カップ-G1、ディアドラのナッソーS-G1、メールドグラースのコーフィールドカップ-G1、リスグラシューのコックスプレート-G1、グローリーヴェイズの香港ヴァーズ-G1、アドマイヤマーズの香港マイル-G1とG1・8勝は過去最高となった。そして、フルフラットによるブリーダーズカップジュヴェナイル-G1出走(5着)は初めての日本調教の2歳馬による海外遠征でもあった。一方でこの夏には7月30日にディープインパクト、8月9日にキングカメハメハと2頭の大種牡馬が相次いで死んだ。ひとつのピークなのか、曲がり角なのか、今のところよく分からないが、のちの時代から見ればこの年は日本競馬にとって何らかの画期として捉えられるだろう。

 キングカメハメハは2005年から種牡馬となり、産駒は2008年にデビューした。今年12月10日現在で血統登録された産駒は1795頭(JBISサーチによる)。これはフジキセキの1872頭、クロフネの1828頭に次ぐもので、ディープインパクト1683頭に追いつかれるかどうかといった暫定3位の数字。このような大量の産駒からドゥラメンテなど12頭のG1勝ち馬とチュウワウィザードなど3頭のJpn1勝ち馬が現れた。2歳戦でも下表に示した通り非常に優秀な成績を収めており、初年度産駒フィフスペトルが2歳重賞としてその年最初に行われる函館2歳Sに勝ったのを皮切りに、2009年にはローズキングダムがJRA賞最優秀2歳牡馬、アパパネが同牝馬を同時受賞したほか、2015年にもリオンディーズが朝日杯フューチュリティS-G1に勝って最優秀2歳牡馬に選ばれている。もっとも、2歳G1勝ちの実績でいえば阪神ジュベナイルフィリーズ-G1・3勝、朝日杯フューチュリティS-G1・3勝と阪神1600mに高い適性のあるディープインパクトの方が優秀なのだが、先週の阪神ジュベナイルフィリーズ-G1に勝ったレシステンシアがそれまで例年に比べて苦戦を強いられていたダイワメジャー産駒であったことなどを考えると、あえて劣勢のものの反撃に期待する手はある。キングカメハメハの2歳種牡馬ランキングは2008年、2009年と首位であったが、ディープインパクト産駒がデビューすると首位を譲り、ダイワメジャーの台頭にも押され、じわじわと勢いを失って2017年、2018年は20位に後退していた。今年は少し盛り返して13位(12月10日現在)につけている。◎ジュンライトボルトはこの夏3歳で中京記念に勝ったグルーヴィットの半弟。母スペシャルグルーヴは名前から分かる通りエアグルーヴ系にスペシャルウィークが配合されており、キングカメハメハ×スペシャルウィークは2015年の勝ち馬リオンディーズと同じパターンになる。祖母ソニックグルーヴはフレンチデピュティUSA産駒で、3代母が偉大なエアグルーヴということになる。トニービンIREの代表産駒でもあるエアグルーヴは天皇賞(秋)と優駿牝馬に勝ち、ジャパンカップ-G1では2度2着になった。1997年はピルサドスキーIREからクビ差、1998年はエルコンドルパサーUSAから21/2馬身差でスペシャルウィークには先着しているのだから、2着といっても大変な価値があったのだ。繁殖牝馬としても優秀で初仔アドマイヤグルーヴはエリザベス女王杯に2勝し、その産駒に2015年の最優秀3歳牡馬でキングカメハメハの代表産駒でもあるドゥラメンテが出たほか、アドマイヤグルーヴの7年後に生まれたやはりキングカメハメハ産駒のルーラーシップは香港でクイーンエリザベス2世カップ-G1に勝った。ノーザンテーストCAN産駒の4代母ダイナカールは優駿牝馬に勝ったほか、牡馬相手にも奮戦した名牝で、エアグルーヴ以外の分枝からも高松宮記念のオレハマッテルゼから東京スポーツ杯2歳S-G3のブレスジャーニーまで多くの活躍馬が現れた。キングカメハメハと特に相性のいい名門であるだけでなく、血統表にノーザンテーストCAN、ヴァイスリージェント、ニジンスキー、トライマイベストUSAとカナダの大オーナーブリーダー・E.P.テイラーが生産したノーザンダンサー直仔がちりばめられている点で、G1でこそ狙いたい底力を秘めた配合といえる。


キングカメハメハ産駒の2歳重賞勝ち馬
年度場所レース名距離馬名母の父人気単勝その後の主な成績
2008.8.10函館函館2歳S1200フィフスペトルライラックレーンUSABahri26.8マイルChp.2着
2009.11.21東京東スポ2歳S1800ローズキングダムローズバドサンデーサイレンスUSA13.6ジャパンC-G1
2009.12.13阪神阪神ジュベナイベナイルF1600アパパネソルティビッドUSASalt Lake24.6牝馬三冠
2009.12.20中山朝日杯フューチュリティS1600ローズキングダムローズバドサンデーサイレンスUSA12.3ジャパンC-G1
2012.9.1札幌札幌2歳S-G31800コディーノハッピーパスサンデーサイレンスUSA34.1皐月賞-G1 3着
2012.11.17東京東スポ2歳S-G31800コディーノハッピーパスサンデーサイレンスUSA11.9皐月賞-G1 3着
2014.8.31新潟新潟2歳S-G31600ミュゼスルタンアスクデピュティフレンチデピュティUSA34.1NHKマイルC-G1 3着
2015.11.14京都デイリー杯2歳S-G21600エアスピネルエアメサイアサンデーサイレンスUSA22.6富士S-G3
2015.12.20阪神朝日杯フューチュリティS-G11600リオンディーズシーザリオスペシャルウィーク25.9弥生賞-G2 2着
2016.12.25中山ホープフルS-G22000レイデオロラドラーダシンボリクリスエスUSA11.5東京優駿-G1
2018.11.24京都ラジオNIKKEI杯京都2歳S-G32000クラージュゲリエジュモータニノギムレット12.8共同通信杯-G3 3着

 世代最初の2歳グレードである函館2歳Sを初年度産駒が制したケースはキングカメハメハのあとは、2011年にアドマイヤムーンの例があり、今年8年ぶりにキズナが成功した。先例はいずれもG1サイアーとなっているので、キズナの前途も約束されたようなものだろう。キズナ産駒の○エグレムニは母ビーチアイドルがフェニックス賞など3勝、祖母ビーチフラッグがバイオレットS、マーガレットSなど3勝の快足一族。キズナの血統的な面白さは母キャットクイル20歳時の産駒であるため、1973年生まれの祖母パシフィックプリンセスとは27年もの生年の差が生じた点にあり、パシフィックプリンセスの父ダマスカスは1964年生まれ、母の父アクロポリスは1952年生まれ、祖母の父モスボロー1947年生まれと1代遡る毎に1ディケード昔の血が現れる。本馬でも祖母の父バウンダリーを経由してダマスカス4×5が生じており、このように20世紀的な近交がディープインパクトと同居する点に新鮮味がある。

 ▲マイネルグリットは母マイネショコラーデが函館2歳S2着馬で、祖母コスモヴァレンチは小倉2歳S勝ち馬。母の全兄ドリームバレンチノはJBCスプリントなど重賞5勝を挙げた。サンデーサイレンスUSAとデヴィルズバッグ経由のヘイロー4×5、グラスワンダーUSAとマイネルラヴUSAの同期を通じてロベルト×ミスタープロスペクターのニックスも押さえた。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2019.12.15
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