2018秋華賞


名牝の娘たちの名牝の座をかけた戦い

 オーストラリアではウィンクスが28連勝を達成し、フランスではエネイブルが凱旋門賞-G1連覇と牝馬の時代が続いている。牝馬の時代というよりも、牡馬と1.5〜2kgの斤量差があれば対等にやれるようになっていて、牝馬の能力発揮を阻害する要因を取り除いてやればパフォーマンスに大きな性差は出ないのかもしれない。実行するには困難だが、簡単にいってしまうとそういうことになる。秋華賞の段階では3歳牝馬にはまだ対牡馬のG1レベルの戦いがないが、ジェンティルドンナはじめ諸先輩方の活躍をもって、3歳牝馬限定G1でも一定レベル以上なら牡馬を負かせるということも分かってきていて、牝馬の活躍の度合いは国や地域の競馬のレベル、あるいは調教技術のバロメーターと捉えることができる。今回の出走馬は、そのうち5頭の母がG1級の実績(下表参照)を持っていて、血統的にも大変豪華な戦いとなった。アーモンドアイとラッキーライラックの2頭は既に母娘2代G1(級)勝利を達成している。母娘でG1勝ちをつなぐのは、産駒の数からいっても父系より難しいのは明らかで、牝系3代続けてのG1勝ちはあまりない。あまりないといっても、米国は牝馬限定戦が多いので、マーキングタイム(1963年生、エイコーンS=グレード未設定)〜リラクシング(1976、デラウェアH-G1)〜キャディラッキング(1984、バレリーナS-G1)、また、同じフィップス家の一族で、パーソナルエンスン(1984、ブリーダーズCディスタフ-G1)〜マイフラッグ(1993、BCジュヴェナイルフィリーズ-G1)〜ストームフラッグフライング(2000、BCジュヴェナイルフィリーズ-G1)のブリーダーズC3代制覇、ほかにもいくつか見つかるのだが、欧州だと今年もアルファセントーリが大活躍した名牝ミエスクの一族でさえ牝系3代ストレートは達成していない。この手の継続が多そうなドイツでもグループ制導入後はディアナ賞(G2/G1、独オークス)でロイザッハ(1971)〜ラスヴェガス(1981)、ナイトペティコート(1993)〜ネクストジーナ(2000)の母娘制覇2例がある程度だった。日本ではダイナカール(1980)〜エアグルーヴ(1993)〜アドマイヤグルーヴ(2000)の3代が有名だが、やはり難業には変わりがない。


母たちの華やかな実績
馬名生年母の父
母の重賞勝ち鞍
アーモンドアイロードカナロアフサイチパンドラ2003サンデーサイレンスUSA
エリザベス女王杯、札幌記念
オールフォーラヴディープインパクトレディアルバローザ2007キングカメハメハ
中山牝馬S-G3×2
サラキアディープインパクトサロミナGER2009Lomitas
ディアナ賞(独オークス)-G1、ハンブルク牝馬賞-G3
パイオニアバイオルーラーシップアニメイトバイオ2007ゼンノロブロイ
ローズS-G2
プリモシーンディープインパクトモシーンAUS2008Fastnet Rock
VRCオークス-G1、VRCオーストラリアンギニー-G1、ATCロイヤ
ルランドウィックギニー-G1、ATCヴァイナリースタッドS-G1、VRC
エドワードマニフォルドS-G2、VRCブレイザーS-G2
ラッキーライラックオルフェーヴルライラックスアンドレースUSA2008Flower Alley
アシュランドS-G1
このほかダンサールの母パラダセールARGがG1勝ち

 このように、G1(級)牝馬の娘のG1勝ち馬がG1で戦うということがいかに贅沢かを理解した上で、第3回戦を見ていきたい。基礎的な力を考えると、逆転があるとすれば、ラッキーライラックの成長がアーモンドアイのそれを上回っていた場合。◎ラッキーライラックの父オルフェーヴルは新馬勝ちのあと、芙蓉Sでホエールキャプチャに敗れ、京王杯2歳S-G2・10着、シンザン記念-G3・2着、きさらぎ賞-G3・3着と負け続ける。スプリングS-G2・の勝利で目を覚ますと、三冠達成から有馬記念-G1まで6連勝で3歳戦を終えた。その父のステイゴールドが本気を出したのが、引退する年の7歳時、ドバイシーマクラシック-G2と香港ヴァーズ-G1だったように、がんばっていると見せかけて実は力を出し切っているわけではないという傾向はこの父系に多かれ少なかれある。つまり、可能性としては、春のラッキーライラックは3歳春先のオルフェーヴルのような停滞期にあって、実は2戦とも着差ほどには実力差がなかったのだということがないだろうか。母のライラックスアンドレースUSAは3歳4月のアシュランドS-G1に勝って、次のケンタッキーオークス-G1で大敗したのを最後に引退してしまったので、3歳後半に向けての成長力は未知に終わったが、2、3歳でG1に勝っている3代母ステラマドリッドUSAの子孫には最優秀古牝馬ダイヤモンドビコーや、NHKマイルC-G1勝ち馬で古馬になってマイルチャンピオンシップ-G1に勝ったミッキーアイル、そして先週の毎日王冠-G2に勝ったアエロリットなど、一流どころはどれも十分な成長力を備えている。これら都合の良い事実だけ拾い上げた感がなくもないが、正面突破で押し切れるくらいの地力は秘めていると思う。

 ○アーモンドアイの母フサイチパンドラの戦歴をたどると、デビュー2戦目の阪神ジュベナイルフィリーズで即3着するほど早熟で、優駿牝馬2着、秋華賞3着と3歳でも一線級の力を備え、秋華賞後に挑んだエリザベス女王杯ではカワカミプリンセス降着による繰り上がりとはいえG1級競走に勝利し、4歳でも牡馬を相手に札幌記念-G2に勝った。こちらも十分な成長力を備えている。父のロードカナロアはチャンピオンスプリンターであることはいわずもがなであって、種牡馬としての資質に一面としてそれを強く出すかもしれないし、一方で、その父キングカメハメハの汎用性を忠実に受け継いだ上で更にパワーアップする可能性も十分にあり得る。本馬の春の戦いでそれは既に明らかになっているともいえる。現代の大成功配合であるキングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAを一歩未来に進めた形ともいえるだろう。

 2012年のディアナ賞-G1勝ち馬サロミナの娘である▲サラキアは、エルフィンSに勝ったサロニカの全妹。祖母ザルデンティゲリンは独G3勝ち馬で、オイロパ賞-G1でも2着となった活躍馬。3代母の孫に一昨年のディアナ賞馬-G1ゼリエンホルデもいる。ディアナ賞の母娘制覇が意外に少ないのは上記の通りだが、この牝系は重賞2代制覇を継続中。それを更に伸ばす活気があると見るべき。

 △プリモシーンは母モシーンAUSがオーストラリアの名牝。母の血統はデインヒルUSAとヌレエフ、ニジンスキーの組み合わせが柱となる構成だが、サートリストラム5×4がオーストラリア的。こういった新世界開拓的な配合が最近のディープインパクト産駒の成功例には増えつつあるようだ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2018.10.14
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