2018高松宮記念


皇帝ネロは豹変す

 桜花賞に勝ったニシノフラワーが同じ年の暮れのスプリンターズSを鮮やかに差し切ったのが1992年。それからもう25年と3カ月がたったことになる。ニシノフラワーの母デュプリシトUSAは全盛期のダンチヒを父とし、ニューヨークのというより米国の競馬を代表する名門フィップス家の生産馬として生をうけた。3歳でマジェスティックライトを受胎してキーンランド11月セールに上場されたデュプリシトUSAは15万ドルで落札され、日本に渡って生んだのがニシノフラワーだった。2002年を除いてその後も2006年まで18年で送り出した17頭の産駒は、そのうち11頭が牝馬だったこともあり、短期間で一大牝系を築くことになる。その中から現れた活躍馬は下表のとおりで、ニシノマナムスメ、ニシノマオの同期2頭は惜しくも重賞勝ちがならず、ニシノフラワー以来の重賞制覇は牡馬の◎ネロによって達成された。今はニシノフラワーの曾孫が走っているくらいだから、とても長い時間が流れたことが分かる。デュプリシトUSAの母ファビュラスフロード、祖母ザブライドともにフィップス家の生産馬であり、ザブライドは三冠馬セクレタリアトの全姉にあたる。セクレタリアトは昨年9月になくなったペニー・チェネリー女史のオーナーブリード馬(メドウステーブル名義)だが、これはフィップス家所有のボールドルーラーの種付けを巡るコイントスの結果として、ザブライドはフィップス家の、セクレタリアトはチェネリー家のものとなった経緯があり、映画の「セクレタリアト/奇跡のサラブレッド」にも描かれていた。1968年のコインの落ち方次第では、1992年の日本の桜花賞馬も別の馬になっていたのかもしれない。それた話を元に戻すと、デュプリシトUSAが生んだ最後の牝馬ニシノタカラヅカはファンタジーS3着を最後に現役を引退し、3番仔ネロのあと2014年にニシノリサイタルを生んだ直後に死んでしまった。ニシノタカラヅカの2歳上の全姉ニシノブラッサムも同じ年に死んでいるので、ネロはサンデーサイレンスUSA×デュプリシトUSAの血を継ぐ貴重な存在の一頭ということになる。同じヨハネスブルグUSAの初年度産駒として小倉2歳S-G3、デイリー杯2歳S-G2に勝つなどして先に活躍したホウライアキコも母の父がサンデーサイレンスUSAだから、これは成功パターンといってよく、ストームキャット〜ヘネシーUSA系のワンピーク説をとるなら、こちらは回り道をして出世を果たしたぶん、より高いところまで達する可能性がある。サンデーサイレンスUSAの瞬発力だけではこなし切れないのもスプリントG1にありがちな一面で、このレースは新コースになってその傾向がより強まった。伯母のニシノフラワー、父系曽祖父ストームキャットだけでなく、血統表にはエイシンワシントンUSAを出したオジジアンUSAの名も見え、アメリカ風のスピードとパワーが満ちている印象があり、そのあたりのバランスもうまく取れている。


デュプリシトUSA系の息の長い活躍
デュプリシトUSA(牝、鹿毛、1985年生、父Danzig)
  ニシノフラワー(牝、黒鹿、1989、Majestic Light)スプリンターズS、桜花賞、阪神3歳牝馬S、
  |   マイラーズC、デイリー杯3歳S、札幌3歳S、2着チューリップ賞、3着スプリンターズS、
  |   エリザベス女王杯、スワンS
  | ニシノセイリュウ(牡、栗、1996、ブライアンズタイムUSA)若駒S
  | ニシノマナムスメ(牝、青鹿、2004、アグネスタキオン)2着マイラーズC、愛知杯
  ブランドセレナーデ(牝、鹿、1991、サウスアトランティックUSA)
  | ニシノシンフォニー(牡、鹿、2000、メジロライアン)2着セントライト記念
  ニシノファイナル(牝、黒鹿毛、1993、マラキムUSA)シリウスS
  | ニシノアンサー(牡、栗、2003、スペシャルウィーク)ホープフルS
  ニシノボナリー(牝、青鹿、1996、ニホンピロウイナー)
  | ニシノマオ(牝、黒鹿、2004、サクラバクシンオー)2着小倉2歳S、3着フェアリーS
  ニシノタカラヅカ(牝、栗、2003、サンデーサイレンスUSA)3着ファンタジーS
    ネロ(牡、栗、2011、ヨハネスブルグUSA)京阪杯-G32回、2着セントウルS-G2、アイビス
      サマーダッシュ-G3

 ○レッドファルクスの母は阪神3歳牝馬Sのスティンガー、ローズSのサイレントハピネスの全妹。スティンガーは2002年のこのレースで最後方から3着に追い込んで強烈なスプリント能力を示している。そういったところにサクラバクシンオーが去ったあとのスプリント界を背負う可能性のあるエンドスウィープUSA系の血を載せたのが本馬。父のスウェプトオーヴァーボードUSAは昨年の11月に死んでしまったが、晩年にこれだけの傑作を残せたのは喜ぶべきことだろう。エンドスウィープUSA直仔の大物には3月4日に死んだダートのサウスヴィグラスUSA、牝馬のスイープトウショウ、昨年の勝ち馬セイウンコウセイの父アドマイヤムーンとそれぞれの分野で優れた力を発揮するプロフェッショナルな性格が共通しており、得意な条件で信頼を裏切ることはないだろう。

 アドマイヤムーン産駒はシルクロードSで1〜3着を独占した。サンデーサイレンスUSAやディープインパクトを別にするとなかなか難しい記録だが、その立役者が▲ファインニードルだった。こちらはサンデーサイレンスUSAが父の母の父として3代目まで退き、血統表の下から8分の5を欧州血統で固めている。父の祖母ケイティーズファーストUSAは名牝ヒシアマゾンUSAの姉で英仏でリステッドに勝ち、その母ケイティーズも愛1000ギニー-G1とコロネーションS-G2に勝った名牝。母ニードルクラフトIREは仏G3勝ち馬で、その父マークオブエスティームは英2000ギニー-G1とクイーンエリザベス2世S-G1に勝った名マイラー。祖母シャープポイントはアイルランドの2歳戦、フィーニクスS-G1で2着となったスプリンター。その父ロイヤルアカデミー2はジュライC-G1など英スプリント路線で活躍したあと米国に渡ってブリーダーズCマイル-G1を制した。4代母アルパインニースの産駒には英2000ギニー-G1、愛2000ギニー-G1に勝ったチロルがいる。中間の降雨で力のいる馬場になっているのも有利かもしれない。

 △リエノテソーロUSAは4代母がアラバマS-G1など米G1・3勝の名牝クラッシーキャシー。そこにイージーゴアー、ガルチ、ラングフールと一流種牡馬ばかりを配合されて生まれたのが本馬。ミスタープロスペクター3×4でストームキャットとダンチヒ経由のノーザンダンサー5×4を挟んだ米国血統らしい米国血統といえる。前走と同じ条件で走った場合、芝1200mでは新馬、すずらん賞を連勝、芝1600mでアネモネS4着→NHKマイルC-G1・2着と少なくとも悪くなることはなかったので、続けて芝1200mを走る今回は前進があって驚けない。

 これまでの2年連続直前で回避していたダンスディレクターは8歳になってしまったが、名門スターロッチ系で祖母がウイニングチケットの全妹という在来牝系の名門にサンデーサイレンスUSA、ミスタープロスペクター直仔のG1スプリンター・アルデバラン2USAを重ねた。底力あり。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2018.3.25
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