2018菊花賞


長距離将軍の生存戦略

 レースの数は長距離より短距離が圧倒的に多いにもかかわらず、種牡馬の色分けでいうと短距離血統よりむしろ中長距離血統が栄えている。目下のリーディングサイアー・トップ10は1位から順にディープインパクト、キングカメハメハ、ステイゴールド、ハーツクライ、ダイワメジャー、ハービンジャーGB、ゴールドアリュール、クロフネUSA、ロードカナロア、ルーラーシップ(JBISサーチ、10月16日現在)。この中で現役時代に明らかなスプリンターだったのはロードカナロアのみ。そして、その代表産駒アーモンドアイは1600m、2000m、2400mでG1勝ちを果たした。サクラバクシンオーの娘の仔にキタサンブラックが出たり、サウスヴィグラスUSAが産駒にジャパンダートダービー勝ち馬ヒガシウィルウィンを出したり、短距離に特化した典型のような種牡馬でも距離をこなしてしまう産駒は出るもので、その逆もある。振り子が時間がたてば静止するように、短距離に振れたり超長距離に向いたりした血統もやがては真ん中あたりに落ち着くということであるのかもしれない。超長距離と呼ぶべき3000mのこのレースに、血統は重視すべきだがし過ぎるのも良くないと考えられていて、まあ、それはその通りなのだが、下表のように過去30年の勝ち馬の父を並べるとそれなりの血統でないと結果は出せないということが分かる。複数の勝ち馬・入着馬を出した8位までのうち5頭がサンデーサイレンスUSAとその後継。2頭がロベルト直仔で、残る1頭がサッカーボーイということになる。ステイゴールドはサンデーサイレンスUSA直仔でもサッカーボーイの甥なので、この2頭を合わせると1位に迫る実績を残していることになる。


過去30年の菊花賞リーディング
順位種牡馬名その父1着2着3着着外勝率連対率3着率
1サンデーサイレンスUSAHalo443420.0750.1500.207
2ダンスインザダークサンデーサイレンスUSA32060.2720.4540.454
3ブライアンズタイムUSARoberto221100.1330.2660.333
4ステイゴールドサンデーサイレンスUSA210130.1250.1870.187
5サッカーボーイディクタスFR20030.4000.4000.400
6リアルシャダイUSARoberto13070.0900.3630.363
7ディープインパクトサンデーサイレンスUSA122220.0370.1110.185
8スペシャルウィークサンデーサイレンスUSA11030.2000.4000.400
9バゴFRNashwan10001.0001.0001.000
9マルゼンスキーNijinsky10001.0001.0001.000
9シャルードUSACaro10001.0001.0001.000
9シェリフズスターGBポッセUSA10001.0001.0001.000
9ノーアテンションFRGreen Dancer10001.0001.0001.000
9メジロティターンメジロアサマ10001.0001.0001.000
15ルーラーシップキングカメハメハ10010.5000.5000.500
15ホワイトマズルGBダンシングブレーヴUSA10010.5000.5000.500
15クリスタルグリッターズUSABlushing Groom10010.5000.5000.500
15サクラショウリパーソロンIRE10010.5000.5000.500
19ブラックタイドサンデーサイレンスUSA10030.2500.2500.250
20エルコンドルパサーUSAKingmambo10050.1660.1660.166
21シンボリクリスエスUSAKris S.10060.1420.1420.142
22ジャングルポケットトニービンIRE10070.1250.1250.125
過去30年間に勝ち馬を出した父馬を勝利・入着度数順に並べた

 今回は4頭がステイゴールド直仔で、1頭がステイゴールド系オルフェーヴルの産駒。エポカドーロはオルフェーヴル産駒として初のクラシック勝ちを果たすと同時に最初の牡馬の重賞勝ち馬となった。母はフィリーズレビューなど3歳牝馬限定重賞2勝の活躍馬ダイワパッション。その父フォーティナイナーUSAはオルフェーヴル産駒最初のG1勝ち馬ラッキーライラックの母の父フラワーアリーUSAの父系祖父でもあるので、ミスタープロスペクター×トムロルフの血にオルフェーヴルの良さを引き出す働きがあるのかもしれない。祖母の父シェイディハイツGBはサッカーボーイ産駒の菊花賞馬ヒシミラクルの母の父でもあり、血統表の3代目にヒシミラクル的要素が並んでいる。4代母カーンルージュは英チャンピオンS-G1、愛1000ギニー-G1の勝ち馬で、ピットカーンIREの牝馬の代表産駒。本馬を大将格としたステイゴールド系がディープインパクトらを差し置いて最大勢力となるG1はこのレースくらいだが、昨年のステイゴールド産駒は最大4頭出しで(4)(14)(15)(16)着に終わった。今年は質的に昨年とは比較にならない厚みを誇るが、それでもステイゴールドにはカウンターの位置が似合うのも確か。そのぶんの評価にとどめる。

 ロベルト系はおなじみの長距離御用達血統リアルシャダイUSA、ブライアンズタイムUSAのほかにもシンボリクリスエスUSAがエピファネイアを出している。シルヴァーホークからグラスワンダーUSAへと流れる系統は、グラスワンダーUSA産駒に2009年に6番人気で3着となったセイウンワンダー、1代下がってスクリーンヒーロー産駒に2014年に7番人気でやはり3着となったゴールドアクターが出た。ロベルト系でも特に地味に実績を残してきた分枝といえる。◎ジェネラーレウーノはスクリーンヒーローの第5世代。モーリスらの大活躍を受けて種付け頭数が飛躍的に増える直前の世代になる。近い世代に活躍馬がいないのは同じ父のゴールドアクターに似ているが、母の父ロックオブジブラルタルIRE、祖母の父ストームキャット、3代母の父アリダーと一流馬ばかりが並ぶ。ニジンスキーの娘である4代母ビーミスドは1982年の米2歳G1セリマSの勝ち馬。その娘に1991年の英オークス馬ジェットスキーレディがいる。5代母の孫に北九州記念2着のツルマルヨカニセや小倉記念-G3のエクスペディションがいるから鳴かず飛ばずということはないが、直牝系は四半世紀にわたって休眠に近い状態にあった。それを目覚めさせたのが、父の父の母アメリフローラ(ダンチヒ×ヒズマジェスティ)と母の父の父デインヒルUSA(ダンチヒ×ヒズマジェスティ)の擬似的なデインヒルUSA3×3の配合だったのかもしれない。そのほか、4代目と5代目にノーザンテースト、ストームバード、ニジンスキーとE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔が並んでいて、このあたりの凝ったデザインには目をみはらされる。

 父としての実績だけでなく、母の父としてもこのレースで特別な成功を示しているのがブライアンズタイムUSA。これまで娘の産駒は5頭が出走して、昨年のクリンチャーが10番人気2着、2010年ビートブラックは13番人気3着、2009年のスリーロールスは8番人気で勝った。いずれも3連単6ケタ配当の立役者となっている。3歳となってからの▲タイムフライヤーはホープフルSのG1格に疑問を抱かせるような成績がたまたま続いているが、ハーツクライ×ブライアンズタイムUSAの血統を考えれば、不振はここでの大復活の伏線というか爆発力の蓄積というか、そういうものであった可能性がある。ダート王タイムパラドックスのほか、仏4000mG1カドラン賞の勝ち馬ジェントゥー、春の天皇賞馬サクラローレルが出る牝系。

 △ユーキャンスマイルは母の父がダンスインザダーク。これも黙って名前買いすればニッコリ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2018.10.21
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