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東京の芝1600m戦といっても3歳馬のNHKマイルC-G1と牝馬のヴィクトリアマイル-G1、限定のない安田記念-G1ではそれぞれの傾向に微妙に違いがある。下表はヴィクトリアマイルの回数に合わせて過去11年の勝ち馬の父別の成績を示したものだが、3レースすべてに名前があるのはディープインパクトだけで、それさえも出走数の多さに支えられている面もあって、特にどれが得意というものでもない。ウオッカのようにヴィクトリアマイル-G1も安田記念-G1も力任せに勝ってしまうような例を除くと、それぞれに求められる資質は違うようだ。そのウオッカでさえ、ヴィクトリアマイル-G1で一度はエイジアンウインズに敗れているのだから、このレースにはこのレースの特殊性があるのだろう。並んだ種牡馬の名を見て大まかな傾向をいうなら、切れのヴィクトリアマイル-G1、早熟さのNHKマイルC-G1、力の安田記念-G1となる。雑ではあるが、大きく外しているものでもないだろう。フジキセキ産駒は最後の世代がもう6歳だからこれ以上記録は伸びそうもない。キングカメハメハはアパパネでヴィクトリアマイル-G1を1勝、ロードカナロアで安田記念-G1を1勝。率の比較でディープインパクトより優れているというわけでもないが、細かく脚を使える瞬発力という点ではこのレースに向くようには思える。 キングカメハメハ産駒の◎レッツゴードンキは血統表の3代目にBCマイル-G1連覇など10のG1勝ちのうち8つが1600mだったミエスク、名スプリンターでBCマイル-G1にも勝ったラストタイクーンIRE、2歳1600mのグランクリテリウム-G1に勝ったジェイドロバリーUSAと個性豊かなマイルの実績馬が並んでいる。ミエスクの父ヌレエフとジェイドロバリーUSAの母ナンバーは名繁殖牝馬スペシャルを母とする3/4同血の兄と妹の関係。エルコンドルパサーUSAとその模倣配合にヌレエフとサドラーズウェルズがあったように、名牝スペシャルの子孫の組み合わせの成功例は多く、このバリエーションであるミエスクとジェイドロバリーUSAはG13勝牝馬メイショウマンボの血統中にも見つけることができる。ともあれ、レッツゴードンキにマイルの名牝ミエスクの姿、その瞬発力を投影してみましょうというのが、今回の狙いの核心。 |
| 東京3大1600m戦の種牡馬別成績 (2006〜2016年) | |||||||||||||||
| 順位 | ヴィクトリアマイル | NHKマイルC | 安田記念 | ||||||||||||
| 種牡馬名 | 1着 | 2着 | 3着 | 着外 | 種牡馬名 | 1着 | 2着 | 3着 | 着外 | 種牡馬名 | 1着 | 2着 | 3着 | 着外 | |
| 1 | フジキセキ | 4 | 0 | 1 | 5 | アグネスタキオン | 2 | 0 | 1 | 3 | タニノギムレット | 2 | 0 | 2 | 5 |
| 2 | ディープインパクト | 2 | 2 | 2 | 13 | ダイワメジャー | 2 | 0 | 1 | 8 | ディープインパクト | 1 | 1 | 2 | 20 |
| 3 | クロフネUSA | 1 | 2 | 0 | 9 | クロフネ | 1 | 2 | 0 | 6 | スクリーンヒーロー | 1 | 1 | 0 | 0 |
| 4 | サンデーサイレンスUSA | 1 | 1 | 2 | 10 | ディープインパクト | 1 | 1 | 1 | 5 | シンボリクリスエスUSA | 1 | 1 | 0 | 3 |
| 5 | タニノギムレット | 1 | 1 | 1 | 2 | フジキセキ | 1 | 1 | 1 | 6 | キングカメハメハ | 1 | 0 | 1 | 6 |
| 6 | キングカメハメハ | 1 | 1 | 1 | 13 | マンハッタンカフェ | 1 | 1 | 0 | 2 | ハーツクライ | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 7 | スペシャルウィーク | 1 | 1 | 0 | 1 | スズカフェニックス | 1 | 0 | 0 | 1 | ローエングリン | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 8 | スズカマンボ | 0 | 1 | 1 | 2 | フレンチデピュティ | 1 | 0 | 0 | 3 | エアジハード | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 9 | ロイヤルタッチ | 0 | 1 | 0 | 0 | サクラバクシンオー | 1 | 0 | 0 | 9 | ロイヤルアカデミーUUSA | 1 | 0 | 0 | 1 |
| 10 | アグネスタキオン | 0 | 1 | 0 | 7 | キングヘイロー | 0 | 1 | 1 | 4 | サンデーサイレンスUSA | 1 | 0 | 0 | 14 |
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ブラックタイド=キタサンブラック、ディープインパクト=サトノダイヤモンドの兄弟代理対決となった天皇賞(春)-G1では兄ブラックタイド側に凱歌が上がった。自らが敗れて見せることで兄弟の地位を引き上げる一族の戦略であるわけはないが、この流れに乗ってそれらの弟オンファイアの躍進がないものだろうか。○ウキヨノカゼはオンファイア3年目の種付け時の産駒。ディープインパクトの全弟で3戦1勝東スポ杯2歳S3着と底を見せないまま引退したオンファイアは全兄ディープインパクトと同じ年に種牡馬デビューしながら初年度153頭、2年目117頭に種付けする人気を得たが、3年目は56頭まで減って血統登録された産駒は33頭。その中の1頭がウキヨノカゼだった。3年目で人気が落ちるのはよくあることながら、本馬の場合はそのタイミングでもう1頭の全兄ブラックタイドが種牡馬入りした影響も大きかっただろう。その後、初年度産駒のシゲルキョクチョウが小倉2歳Sで2着に入るなどの活躍を受けて2011年には種付け91頭とかなり持ち直すが、ウキヨノカゼの2013年クイーンC-G3、2015年キーンランドC-G3の勝利にはいずれも父の人気をもとの水準に引き上げるほどの効果はなく、昨年の種付けは9頭にとどまってしまった。そのように底を打ったタイミングでブラックタイドが廉価版代用血統というだけでないところを示した。この流れには少し注目しておくべきではないかということだ。ウキヨノカゼの牝系は祖母の産駒に名古屋GPのワイルドソルジャー、名古屋大賞典のダノンカモンらのダート重賞勝ち馬と阪神牝馬S勝ちのクィーンズバーンがいて、3代母アキスフォーラックはヴァニティH-G1(ダ9F)勝ち馬。その産駒ゴールデンチェリーは中央5勝のあと名古屋に転じて6歳でクラスターCに勝ったが、スピードと瞬発力には優れた牝馬だった。 昨年のこのレースはストレイトガールが抜け出してしまって、2着以下が接戦だった。▲ルージュバックは5着とはいえ、2着のミッキークイーンからは0秒2差。その後のエプソムC-G3と毎日王冠-G2の連勝で見せた瞬発力が本馬の真骨頂で、天皇賞(秋)-G1以降の3戦は牡馬の底力に押し戻された感もあって、まとめて度外視してもいいのではないだろうか。母のジンジャーパンチUSAは2007年のBCディスタフ-G1に勝った米最優秀古牝馬で、BCのほかに5つのG1に勝った名牝。母の父オーサムアゲインは1998年のBCクラシック-G1で、直線で激しく争うシルバーチャームUSAとスウェインから勝利を掠め取った切れ味がデピュティミニスター系にはまれなものだった。 △ミッキークイーンは3歳でG1に2勝し、ディープインパクト産駒のひとつの壁を破っていたのだが、その後は力を示すものの足踏みが続いた。力を見せていながら勝てないという状態はともするとズルズルと続いてしまうものだが、前走の快勝でその悪い流れを断ち切れたのは良かった。ジェンティルドンナのようにG1があればあるだけ勝てるというところまでは難しいとしても、それほど豪華な血統でないが重賞勝ちのある母から生まれたディープインパクト産駒という点は共通している。立ち直りの早さと渋太く成長を続けられる活力はそのあたりに由来するのだろう。牝系を5代まで遡ればその孫に英2000ギニーとジャックルマロワ賞に勝った名マイラー・ノノアルコUSAがいる。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.5.14
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