2017優駿牝馬


ハービンジャーGBのゆるやかな勢い

 2010年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを11馬身差で圧勝したハービンジャーGBが翌年から日本で種牡馬となり、その初年度産駒がデビューしたのは2014年。英仏の中長距離血統を集めたステイヤーといえる構成ながら、1600〜2000m戦が意外に多い日本の2歳戦の距離体系のためか、母系のサンデーサイレンスUSAの血のサポートが多かったためか、はたまた父系が現代のノーザンダンサーの主流デインヒルUSA系であるためか、ファーストシーズンサイアーランキングではスプリンター・キンシャサノキセキAUS、ダート王ヴァーミリアン、アメリカの大物エンパイアメーカーUSAらを抑えて首位、2歳ランキングでもディープインパクト、キングカメハメハらの上位常連に続いて6位に食い込んでみせた。その後の種牡馬ランキング(JBIS発表、総合)では2015年16位、2016年13位、2017年5月16日現在11位とベスト20に定着している。これをJRA限定、芝限定と縛りを増やしていくと、更に順位は上がってベスト10の一角を占めることになる。サンデーサイレンスUSAの血が浸透充満したところに、中和剤、あるいは転換役としてタイミングが良かったということでもあるが、そのランキング上の地位に比べて重賞、それも上に行くほど実績に乏しいのがこれまでの弱みではあった。それが今年は下表の通り上半期途中のここまでで前2年に匹敵するほどに重賞で実績を残している。特に初めてのクラシック連対、前哨戦重賞勝利と、これまでになく春本番の大舞台での活躍が目立つ。
 初年度産駒の2015年菊花賞-G1・3頭出しを超える多頭数の陣容で臨む今回、桜花賞-G1・6着ながら最速の上がり3Fを記録したディアドラに期待する。これまでのハービンジャーGB産駒のおおまかなイメージとしては、上がり3Fで脚を使ってもディープインパクト産駒の最後の1Fの瞬発力に屈するというものが挙げられるが、このクラシック世代はそれにあてはまらないケースも多い。実際にフローラS-G2ではハービンジャーGB産駒のヤマカツグレースがディープインパクト産駒のフローレスマジックを抜かせず、そこへ更にハービンジャーGB産駒モズカッチャンが鋭い脚で迫って交わすという過去の定型を覆すものだった。今年は違うぞ。ペルシアンナイトの皐月賞-G1・2着以降、そんな流れができているように思える。ディアドラの母ライツェントは4戦未勝利だが、小倉芝2000mで3着がある。祖母ソニンクGBは直仔にダイオライト記念のランフォルセ、東京杯のノーザンリバー、ラジオNIKKEI賞2着のノットアローンがいて、孫には東京優駿のロジユニヴァース、デイリー杯2歳S-G2のジューヌエコールが出た。3代母ソニックレディは愛1000ギニー-G1、サセックスS-G1、ムーランドロンシャン賞-G1に勝った名マイラー。1歳下のミエスクとともに、大種牡馬ヌレエフが全盛期に送った名牝といえる。スペシャルウィーク×マキアヴェリアンの母はヘイロー3×4となり、おおむねサンデーサイレンスUSA直仔なみの瞬発力を期待できるとすると、この父の長距離適性をそがずに決め手の鋭さを補強でき、それもスペシャルウィーク経由であれば、むしろ長距離適性も強まると考えて良さそうだ。父の持つベーリングという重石を、デインヒルUSA、サンデーサイレンスUSA、マキアヴェリアン、ヌレエフといった現代的な血によって、良い方向へ転がすことができるのではないだろうか。


核心に近づきつつあるハービンジャーGB産駒
年月日
レース名距離


馬名性齢母の父
2015.1.11シンザン記念-G3芝16009ロードフェリーチェ牡3サンデーサイレンスUSA
2015.1.18京成杯-G3芝20003ベルーフ牡3サンデーサイレンスUSA
2015.2.14クイーンC-G3芝16001ロカ牝3ダンスインザダーク
2015.8.9小倉記念-G3芝20002ベルーフ牡3サンデーサイレンスUSA
2015.9.5札幌2歳S-G3芝18001プロフェット牡2タニノギムレット
2015.9.27神戸新聞杯-G2芝24007トーセンバジル牡3フジキセキ
2015.11.28京都2歳S-G3芝20003ドレッドノータス牡2サンデーサイレンスUSA
2016.1.17京成杯-G3芝20005プロフェット牡3タニノギムレット
2016.3.21フラワーC-G3芝180014ウインクルサルーテ牝3サンデーサイレンスUSA
2016.5.7京都新聞杯-G2芝22009アグネスフォルテ牡3フレンチデピュティUSA
2016.8.7小倉記念-G3芝20004ベルーフ牡4サンデーサイレンスUSA
2016.11.5ファンタジーS-G3芝14003ディアドラ牝2スペシャルウィーク
2016.12.10チャレンジC-G3芝18005ベルーフ牡4サンデーサイレンスUSA
2017.1.8シンザン記-G3芝16001ペルシアンナイト牡3サンデーサイレンスUSA
2017.2.25アーリントンC-G3芝16001ペルシアンナイト牡3サンデーサイレンスUSA
2017.3.19阪神大賞典-G2芝30005トーセンバジル牡5フジキセキ
2017.4.16皐月賞-G1芝20004ペルシアンナイト牡3サンデーサイレンスUSA
2017.4.23フローラS-G2芝200012モズカッチャン牝3キングカメハメハ
2017.4.23フローラS-G2芝200010ヤマカツグレース牝3グラスワンダーUSA

 ソウルスターリングは母が3歳時にサンタラリ賞-G1(2000m)、ディアヌ賞-G1(仏オークス、2100m)、ヴェルメーユ賞-G1(2400m)と3つの牝馬限定G1に勝っている。その父モンズーンはアラルポカル-G1、オイロパ賞-G1(2回)など2400mのG1に3勝したドイツの名馬で同国リーディングサイアー。直仔ピュアブリーゼが2011年のこのレースで2着となった実績もある。父フランケルはマイルでの強さが衝撃的なものだったが、10Fには対応していたし、その全弟ノーブルミッションは10F以上で活躍し、5歳時にはサンクルー大賞-G1(2400m、これは繰り上がり1着)、チャンピオンS-G1(10F)に勝った。フランケルと考えず、ガリレオ系で母はデインヒルUSA×レインボークエストと考えればむしろステイヤーである方がしっくり来るではないか。牝系はシュヴァルツゴルトに遡るドイツの名門。ただ、この分枝の代表としては5代母の産駒スタインレンが思い出される。これがBCマイル-G1の勝ち馬だから、どこまで行っても半信半疑が拭えないのも確か。

 ハービンジャーGBだ、フランケルだ、ハーツクライだといっているときに怖いのがディープインパクトの一撃。今年の皐月賞にもそのような面があったのではないだろうか。▲ブラックスビーチは祖母リーチフォーザムーンUSAがフィリーズマイル-G1・3着馬で、その半兄は偉大なアグネスデジタルUSA。母の父がキングマンボである点も底力を求められる局面で効果を発揮しそうだ。母の父としてのキングマンボは英ダービー馬キャメロット、“キングジョージ”のデュークオブマーマレード、天皇賞(春)のスズカマンボ、高松宮記念-G1のビッグアーサーなどの実績がある。

 リスグラシューが勝つと、ソウルスターリング、レーヌミノルとの3頭で世代限定牝馬G1をひとつずつ分けることになる。三つ巴というか三すくみというか、ずば抜けた馬がいてもいなくても、のちに大きな差ができようとも、3歳春はこのような見かけ上3強となることが少なくない。これも母の父アメリカンポストというベーリング直仔の重石をサンデーサイレンスUSA×トニービンIREの父によって良い方に転がせるか、リファール4×5×4の助けで転がせるかということになる。父の産駒ヌーヴォレコルトは3年前にハープスターを逆転。その再現はあり得る。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.5.21
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