2017NHKマイルC


フレンチの東京向きアレンジ

 NHKマイルC21年の歴史を振り返ると、シーキングザパールUSA、エルコンドルパサーUSA、クロフネUSAらクラシックを締め出された外国産競走馬のスーパースターの時代を経て、キングカメハメハからディープスカイまでのNHKマイルC〜東京優駿の新しい2冠の概念の誕生、それと並行して牝馬にとっては桜花賞との2冠あるいはそこからの巻き返しの場となっていたり、いろいろな役割を果たしてきたことが分かる。どうしても春の大目標という形にはなりにくいせいか、勝ち馬は超大物かそれほどでもないかの差がはっきりとしており、それぞれ年度末のレーティングも触れ幅が激しい。エルコンドルパサーUSAやクロフネUSAといった超G1級を含めても、平均すると(牝馬は4点プラス)、皐月賞に劣り、桜花賞にもやや劣るというこのレースの地位が見えてくる。ディープインパクトを中心としたサンデーサイレンスUSA系が中長距離に強く、そのカテゴリーの層が厚くなるのは当然としても、このまま勝ち馬のレーティングが114前後で推移することが続くようだとG1の格が危うくなってくる。もっとも、グレード制の仕組みとして、いったんG1になるとなかなか降格はされないので、この部門に関してじっくりと腰を据えた長期的な振興策を練るべき局面ではあるだろう。マイルは競馬の基本といえる距離であるし、ここで底上げが可能なら、古馬のこのカテゴリーもそれにつれてレベルアップがかなうだろう。


NHKマイルCなど勝ち馬の年度末レーティング
NHKマイルC勝ち馬人気桜花賞馬人気皐月賞馬人気
2016メジャーエンブレム1121ジュエラー1123ディーマジェスティ1208
2015クラリティスカイ1143レッツゴードンキ1125ドゥラメンテ1213
2014ミッキーアイル1141ハープスター1171イスラボニータ1172
2013マイネルホウオウ11310アユサン1107ロゴタイプ1171
2012カレンブラックヒル1171ジェンティルドンナ1222ゴールドシップ1244
2011グランプリボス1141マルセリーナ1102オルフェーヴル1234
2010ダノンシャンティ1151アパパネ1121ヴィクトワールピサ1211
2009ジョーカプチーノ11210ブエナビスタ1171アンライバルド1163
2008ディープスカイ1211レジネッタ10812キャプテントゥーレ1147
2007ピンクカメオ10717ダイワスカーレット1153ヴィクトリー1147
2006ロジック1113キストゥヘヴン1086メイショウサムソン1176
2005ラインクラフト1122ラインクラフト1122ディープインパクト1241
2004キングカメハメハ1171ダンスインザムード1121ダイワメジャー11310
2003ウインクリューガー1109スティルインラブ1132ネオユニヴァース1171
2002テレグノシス1144アローキャリー10713ノーリーズン11515
2001クロフネUSA1251テイエムオーシャン1121アグネスタキオン1161
2000イーグルカフェUSA1132チアズグレイス1096エアシャカール1152
1999シンボリインディUSA1146プリモディーネ1104テイエムオペラオー1195
1998エルコンドルパサーUSA1261ファレノプシス1103セイウンスカイ1182
1997シーキングザパールUSA1101キョウエイマーチ1121サニーブライアン11511
1996タイキフォーチュンUSA1194ファイトガリバー11010イシノサンデー1134

 血統的にはほかのG1に比べて多様な系統が活躍している。2勝を挙げた種牡馬はフレンチデピュティUSA、アグネスタキオン、ダイワメジャー、キングマンボの4頭。フレンチデピュティUSAの直仔クロフネUSAは自身が勝ち馬の1頭であり、種牡馬としても一昨年の勝ち馬クラリティスカイと2着馬2頭を送っているので、フレンチデピュティUSA〜クロフネUSAの父仔は第一に注目すべき。アエロリットは父がクロフネUSAで母の父がクイーンエリザベス2世C-G1勝ち馬ネオリアリズムの父ネオユニヴァース、イトコには2014年の勝ち馬ミッキーアイルがいる。祖母のアイルドフランスUSAはミネルヴ賞-G3に勝ち、米国でもヒルズボローH-G3に勝った。3代母ステラマドリッドUSAはエイコーンS-G1などG14勝を挙げた。同期にゴーフォーワンドという超名牝がいてこの成績だからこちらも名牝といえる。娘のダイヤモンドビコーはローズS、阪神牝馬Sなど重賞4勝、孫のライラックスアンドレースUSAはアシュランドS-G1に勝ち、同マキャヴィティは兵庫ジュニアグランプリで2着となった。4代母のマイジュリエットも牡馬相手のヴォスバーグH-G2などを含め6つの米重賞に勝ち、産駒ティズジュリエットはシュヴィーH-G1に勝った。このように血統的背景は文句のないものだが、ひとつ重箱の隅をつつくような懸念材料を挙げると、全体として牝馬に活躍馬の多いクロフネUSAも、このレースに限ればクラリティスカイ以外に2着のインパルスヒーローもブラックシェルもいずれも牡馬だったという点。これまで牝馬は出走自体が1度しかないので、データとしての信頼性には乏しいが、東京1600mはクロフネUSA牝馬のスピードとは違うものが求められるという面はあるかもしれない。
 オールザゴーは母からフレンチデピュティUSAの血を受けつつ、父が意外性のあるステイゴールド。この組み合わせは昨年の3着馬レインボーラインと同じで、同馬が秋には菊花賞-G1で2着となっているように、こちらも前走で1400mに勝ったからといって、今後どうなるかは分からないが、母アルーリングボイスは小倉2歳SとファンタジーSの勝ち馬、エンドスウィープUSA産駒の祖母アルーリングアクトも小倉3歳S勝ち馬と母方2代は短距離志向が強い。この磨き上げたスピードがステイゴールドとの配合でどのように維持されるか、あるいは方向転換するのかは興味深いところ。ステイゴールドの祖母の父ノーザンテーストCANと、フレンチデピュティUSAの父系祖父ヴァイスリージェントはいずれもカナダの大実業家E.P.テイラーの手になるノーザンダンサー直仔であり、それらが血統表中に同居することの効用はこの欄でも繰り返し述べてきたところだ。祖母が3×3で持つミスタープロスペクターの血もフォーティナイナーUSAとファピアノといった現在まで活力を保った系統であり、化ける力、一発の魅力を秘めた血統ではある。

 ▲アウトライアーズは父が昨年の桜花賞馬ジュエラーと同じヴィクトワールピサで母の父はフレンチデピュティUSA。ヴィクトワールピサがドバイワールドC-G1に勝ち、先週またネオリアリズムが香港で勝っているように、ネオユニヴァースにはディープインパクトのような繊細な切れ味はなくとも世界で勝負できるような馬力がある。皐月賞号のこの欄の繰り返しになるが、母は繁殖牝馬としてのフレンチデピュティUSAの娘として理想的なダートの短距離で活躍した条件馬で、東京ダート1400mの西湖特別(1000万下)は追い込んで2着に4馬身差をつける派手なものだった。祖母リュドゥパームUSAはデルマーデビュターントS-G2勝ち馬で、牡馬相手のデルマーフューチュリティ-G1では2着となった。これら母系の影響が今のところ優勢だとすると、距離短縮で変わり身があって驚けない。

 フランケルは14戦無敗、競走生活終盤の4歳後半には10Fでもけた外れの強さを示したが、やはり怪物の怪物たるゆえんは3歳春のマイル戦、英2000ギニー-G1で見せた衝撃的な6馬身差圧勝だろう。その娘ミスエルテは母ミスエーニョUSA、祖母マッドキャップエスカペイドともに米G1勝ち馬という良血を見直すべき。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.5.7
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