2017高松宮記念


父の奇跡をもう一度

 JRA賞の「最優秀短距離馬」を1200m(または1400m)以下のスプリント部門から選ぶか、1600mのマイル部門も含めて選ぶかは投票者の意思に任されており、昨年はマイルチャンピオンシップ勝ち馬ミッキーアイル、一昨年は安田記念-G1、マイルチャンピオンシップ-G1、香港マイル-G1に勝ったモーリスが選ばれている。英語のセリ名簿にタイトルが記載される場合はモーリスが「チャンピオンスプリンター」となるわけだからおかしな話だが、現状の選出方法ではこれも仕方ない。2014年にはスノードラゴン、それ以前はロードカナロア(2013、2012)、カレンチャン(2011)、キンシャサノキセキAUS(2010)、ローレルゲレイロ(2009)、スリープレスナイト(2008)とスプリントG1の勝ち馬が選ばれていて、2007年より遡るとダイワメジャーやハットトリックが並ぶことになる。ロードカナロアを頂点として、スプリンターが最優秀短距離馬に選ばれていた時代はスプリント部門がそれなりに高い水準にあって、ここ2年はそうではないからやや長い距離での活躍馬が選ばれているということではあるだろう。

 そのようにスプリント部門がある程度高い水準にあった時代、2010年と2011年のこのレースを連覇したキンシャサノキセキAUSは偉大なスプリンターだったということになる。その父フジキセキはマイル部門やそれ以上の距離で活躍した産駒も多いが、実際には優れたスプリント種牡馬でもあって、キンシャサノキセキAUS以外にファイングレインが高松宮記念-G1に、ストレイトガールがスプリンターズS-G1に勝っていて、重賞級なら下表に示した通りズラリと並ぶ。シュウジはフジキセキの孫世代で最初の短距離重賞勝ち馬で、3歳の昨年すでに阪神カップ-G2の父仔制覇を達成しているのは優秀。父の高松宮記念-G1連覇はいずれも阪神カップ-G2から1走を挟んでのものだったから、前走の着順はともかく、それもちゃんと踏襲していることになる。母のカストリアUSAは米国で未勝利だが、産駒ツルマルレオンは北九州記念勝ち馬。母の父キングマンボは昨年の勝ち馬ビッグアーサーの母の父でもある。サンデーサイレンスUSA系との組み合わせではハーツクライ産駒の上記ツルマルレオンのほかにサンデーサイレンスUSAとの協同によって春の天皇賞馬スズカマンボを送り出している。ミスタープロスペクター系での中で大レース向きの底力は随一といえる存在。キンシャサノキセキAUSの祖母の父がリファール、本馬の3代母の父はリファール直仔なので、リファール4×5とキングマンボの母の父ヌレエフを経由して3本のノーザンダンサーが入ることになり、2007年に13番人気で2着となったペールギュントがサンデーサイレンスUSA×リファールだったことを見ても、これはこのレースには向いたパターンだろう。


フジキセキ系の1200m重賞勝ち馬
フジキセキ(牡、1992年生、父サンデーサイレンスUSA)
  テンシノキセキ(牝、1998年)セントウルS、フェアリーS
  タマモホットプレイ(牡、2001年)シルクロードS
  ビーナスライン(牝、2001年)函館スプリントS
  ファイングレイン(牡、2003年)高松宮記念-G1、シルクロードS-G3
  グレイスティアラ(牝、2003年)エーデルワイス賞(ダ)
  キンシャサノキセキAUS(牡、2003年)高松宮記念-G1×2、函館スプリ
      ントS-G3、オーシャンS-G3、
    シュウジ(牡、2013年)小倉2歳S
  アルティマトゥーレ(牝、2004年)セントウルS-G2、シルクロードS-G3
  デグラーティア(牝、2006年生)小倉2歳S
  アドマイヤサガス(牡、2008年)北海道スプリントC(ダ)
  ストレイトガール(牝、2009年)スプリンターズS-G1、シルクロードS-G3
  トーホウアマポーラ(牝、2009年)CBC賞-G3

 シュウジの同世代でライバル的存在であるソルヴェイグの父2014年の勝ち馬コパノリチャードと同じダイワメジャー。NHKマイルC-G1のほか毎日王冠-G2や小倉大賞典-G3にも勝ったカレンブラックヒルを除くと、メジャーエンブレムなど産駒の重賞勝ちは徹底して1600m以下。秋の天皇賞馬でありながら、2年連続で最優秀短距離馬のタイトルを得たのは繁殖部門での傾向を見越してのものであったのかもしれない。コパノリチャードは母の父がトニービンIREだったが、こちらはそこに直仔ジャングルポケットが据えられて近代化が果たされている。カーリアン直仔の祖母アイリッシュカーリIREの産駒には2009年に15番人気で3着となったソルジャーズソングがいてこのレースに縁のある牝系。3代母インスローラーはリファールの半妹で、このファミリーからはモーリスドギース賞-G1のシーキングザパールUSAやアシュランドS-G1のアーベインなど多くの活躍馬が出ている。父の母の父ノーザンテーストCAN、祖母の父カーリアンを経てニジンスキーと、カナダの実業家にして大生産者E.P.テイラーの手になるノーザンダンサー直仔(いわば本家のノーザンダンサー産駒)が2系統入る点も昨今の流行。

 本家のノーザンダンサーを集めたという点では▲レッツゴードンキがそれ以上。父の母の父ラストタイクーンIREの父トライマイベストUSA、母の父マーベラスサンデーの母の父ヴァイスリーガルCAN、祖母の父ジェイドロバリーUSAの母の父ニジンスキー、4代母の父ノーザンテーストCANと4本が入っている。父系祖父キングマンボの母の父ヌレエフは名門クレイボーンファーム産の最高級ノーザンダンサー直仔。父系祖父キングマンボと祖母の父ジェイドロバリーUSAは名牝スペシャルの血を持つミスタープロスペクター直仔という点で共通しており、この両者の組み合わせからはG1・3勝の名牝メイショウマンボも生まれている。この配合上の柱を5本のノーザンダンサーでまとめ上げた形になる。母の父マーベラスサンデーに加え、3代母の父リアルシャダイUSAや4代母の父ノーザンテーストCANといった血にはゆっくりと力を発揮する面もあり、成熟期を迎えてからのもう一段階の変身を支えるのではないだろうか。

 キンシャサノキセキAUSの初めての重賞勝ちは5歳夏の函館スプリント-G3。南半球産だと気候風土を含めた日本の競馬にしっくりくるまでどうしてもそれくらいの時間がかかる。同じ勝負服のメラグラーナAUSは5歳を迎えた緒戦で重賞勝ちだから優秀だし、9歳上のキンシャサノキセキAUS当時よりも南半球産馬の調整の技術も向上しているのだろう。父のファストネットロックは2004/05年の豪チャンピオンスプリンターで、2011/12年、2014/15年の豪チャンピオンサイアー。アイルランドでもシャトル供用され、英チャンピオンS-G1のファシネイティングロックや英オークス-G1のクオリファイなど北半球でも5頭のG1勝ち馬を送っている。ステイヤーも出るあたりはデインヒルUSA系らしいが、これは牡馬相手のG1でもひけを取らない底力につながると考えていい。3代母の産駒には豪G1に6勝、1991年のジャパンC-G1で3着となったシャフツベリーアヴェニューAUSがいる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.3.26
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