2017マイルチャンピオンシップ


嵐を呼ぶ猫

 ブリーダーズカップが終わって米国の種牡馬ランキングはどんな具合だろう。ブラッドホース誌の11月14日現在の集計では首位がアンブライドルズソング。ただしこれは全収得賞金の4分の3を産駒アロゲートの2勝(ペガサスワールドカップ-G1とドバイワールドカップ-G1)で稼ぎ出している。2位キャンディライドの賞金もその半分近くがブリーダーズCクラシック-G1までG1・4連勝を果たしたガンランナーによるもの。3位以下にはキトゥンズジョイ、メダーリアドロ、タピットとコンスタントに稼いだ実力派が並び、ストームキャット系では6位にスキャットダディがいて、10位ハーランズホリデイがそれに続く。ただし、これらストームキャット系のランキング種牡馬は前者が2015年に、後者が2013年に死んでおり、長くベストテン内にとどまってきたベテラン・ジャイアンツコーズウェイも目下16位。今年で20歳だから、静かにフェードアウトしていく可能性が高い。かつては重賞勝ち馬なら猫も杓子も種牡馬入りしたストームキャット系も、ここに来て退潮の時代に入ったか、あるいは中休みか、いずれにしても父系としての勢いは全盛期に及ばない。
 どこかで潮が引けば別の場所では満潮ということもあるわけで、米国で勢いを失いつつあるストームキャット系が日本で勢力を増すという可能性もある。日本競馬の血統は世界の主流と必ずしも同調しているわけではなく、ロベルト系が突如力を持ったり、サンデーサイレンスUSA系が20年を超えて支配を続けたりという特異な面がある。ストームキャット系ではヨハネスブルグUSAやヘニーヒューズUSA、エスケンデレヤUSAといった比較的若く活力のある者が日本に渡ってきている点にも注目すべき。
 これまでストームキャット系は日本に合わないとされてきたが、今やディープインパクトの最良のパートナーはストームキャット牝馬であり、直系子孫にも下表の通り過去10年で6頭のG1級勝ち馬が現れた。日本への浸透はゆっくりと確実に進行している。そしてこれらは年齢や馬場の条件はさまざまだが、2つのマイルチャンピオンシップ-G1勝ちを含め6勝全部が1600mである点は注目に値する。モーリスのような存在が出現するくらいだから日本のM部門が低レベルということはないとしても、そのようなスーパースターがめったに育たないのも事実で、そういった実力拮抗の横並びの中、うまく好機をつかんだのがこれら日本のストームキャット直系の6頭だ。◎マルターズアポジーは今回の出走馬中唯一のストームキャット直系。父ゴスホークケンUSAはデビュー勝ちのあとは朝日杯フューチュリティSだけに勝った。その父バーンスタインがストームキャット直仔で、自身は愛G3に2勝したのみだが、産駒はカラコンティーとテピンがブリーダーズCマイルに勝っている。母のマルターズヒートはスワップスS-G2勝ちの快足オールドトリエステの産駒で、2歳時にフェアリーSを好位から抜け出し、3歳初戦エルフィンSを逃げ切り、続くフィリーズレビューは後方から追い込んで2着、5歳時には障害でも勝つなど優れたスピードを多様な形で生かせる馬だった。3代母バーブズダンサーの子孫にはトップフライトH-G1のフラットフリートフィート、キングズビショップS-G1のジジスターなどの米G1勝ちがいる牝系。夏に1600mの重賞に勝ち、前走であっさりつかまり、今回は大幅な相手強化と、逃げ馬として穴を開ける舞台は整った。そこにストームキャット系のワンチャンスを生かす力が(あったとして)うまくはまれば、大仕事をやってのける可能性はある。


1600mG1級のみに実績を残す日本のストームキャット直系
STORM CAT(1983−2013、父Storm Bird、母Terlingua、母の父Secretariat)
  Forest Wildcat 1991
  | エーシンフォワードUSA 2005 マイルチャンピオンシップ-G1(2010)
  ヘネシーUSA Hennessy 1993
  | サンライズバッカス 2002 フェブラリーS(2007)
  | ヘニーヒューズUSA Henny Hughes 2003
  |   アジアエクスプレスUSA 2011 朝日杯フューチュリティS-G1(2013)
  |   モーニンUSA 2012 フェブラリーS-G1(2016)
  Bernstein 1997
  | ゴスホークケンUSA 2005 朝日杯フューチュリティS(2007)
  |   マルターズアポジー 2012
  Giant's Causeway 1997
    エイシンアポロンIRE 2007 マイルチャンピオンシップ-G1(2011)

 ○エアスピネルは現時点で4勝2着2回。秋華賞勝ちの母エアメサイアは4勝2着4回。優駿牝馬2着の祖母エアデジャヴーは2勝2着5回。その産駒でアメリカJCC勝ちのエアシェイディは7勝2着10回。3代母の産駒で2冠馬エアシャカールは4勝2着6回。この名門ならではの良家の鷹揚さというか勝てそうで勝てなさは確かに本馬も受け継いではいるが、先祖親戚のみなさんに比べれば、かなり勝ちの方にシフトしている。キングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAの組み合わせは2冠のドゥラメンテ、ジャパンC-G1のローズキングダム、JCダート-G1のベルシャザールらが出る当代最良の組み合わせのひとつ。

 二度あることが三度あるとすればハービンジャーGB産駒の台頭であろうし、終わってみればまたミルコ・デムーロ騎手だったということもあろう。ハービンジャーGB産駒としてクラシック初連対を果たした▲ペルシアンナイトは母の父がサンデーサイレンスUSA。ディアドラが母の父スペシャルウィークでサンデーサイレンスUSAが1代引っ込んでいたり、モズカッチャンがサンデーサイレンスUSAを持たなかったりしたのに比べると、多数派という意味では正統派の配合といえる。母のオリエントチャームは4歳時にマーメイドS3着があり、秋華賞ではエアメサイアの4着に入っている。その全兄ゴールドアリュールはフェブラリーSや東京大賞典などに勝ったダートの名馬にして名種牡馬。半弟のゴールスキーは2010年のこのレースで3着となっている。3代母リラクタントゲストはビヴァリーヒルズH-G1勝ち馬だが、欧州的な重い部分もある血統なので、母の父サンデーサイレンスUSAの存在だけで芝1600mのG1に十分な瞬発力を期待できるかとなると微妙ながら、この秋のハービンジャーGBは天気も味方につけているようではある。

 ディープインパクトとフレンチデピュティUSAの組み合わせにはマカヒキやショウナンパンドラなど成功例がいくつもあるが、フレンチデピュティUSAの父デピュティミニスターが母の父に据えられると、日本的な繊細チューニングを施されていない無骨な印象が強まる。△サングレーザーはそういった配合だからこそ、洋芝の札幌、稍重の阪神、重の京都と連勝できたのかもしれない。上昇中のディープインパクト産駒は行き着くところまで追うのがセオリー。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.11.19
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