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10月の凱旋門賞-G1に勝ったエネイブルは7月にキングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1にも勝っている。3歳牝馬は今年のエネイブルを含めて1931年のパールキャップ以来凱旋門賞をこれまでに13勝、“キングジョージ”は1973年のダリア以来4勝しているので勝つこと自体は特に珍しいことではないが、同じ年に両方を3歳牝馬が制したことはないし、当然1頭によるダブル制覇は史上初の快挙。また、オーストラリアでは6歳牝馬ウィンクスが10月末のコックスプレート-G1を3連覇して22連勝、G1は15連勝とした。ワールドベストレースホースランキングはドバイワールドカップ-G1以降ずっとアロゲートが134のレーティングで見かけ上1位の座にあるが、2位の牝馬ウィンクスのレーティングは132なので、セックスアローワンスの3ないし4点を足せば135〜136となって実質の単独1位となる。イネイブルも凱旋門賞-G1後に128のレーティングを得ていて、これも3を足せば131で英チャンピオンS-G1勝ち馬クラックスマン130を抜く。芝に関しては南北両半球でそれぞれ牝馬が首位に立っているということになる。牝馬と牡馬の力量の接近または逆転はトップクラスにおいて顕著で、普通のオープンクラスでバランスが崩れるほど牝馬が牡馬を圧倒するということはない。超一流の、力を出し切れるぎりぎりまで出すレベルになると、牡馬と牝馬の力が接近して差はなくなり、差がないならば斤量にして1.5〜2キロのセックスアローワンスがそのまま有利になる。ジャパンカップ-G1で牝馬の好成績が目立つようになってきたのは、それだけ馬の持つ力をぎりぎりまで引き出せるようになったということが要因のひとつとしてあるのかもしれない。下表は優駿牝馬の時計が東京優駿の時計よりも速かった年の一覧。1週違えば馬場状態も違うし、流れも違うので時計だけで比較できるものではないが、いずれもが良馬場で牝馬の方が速い場合、実際にどちらが強かったのかはおくとして、少なくともそんな年の優駿牝馬勝ち馬はおおむね名牝と呼べる。これは間違いのないところ。◎ソウルスターリングはフランケル初年度産駒として世界最初のG1勝ち馬。前述のクラックスマンが英チャンピオンS-G1に勝って若干生じつつあったフランケルの種牡馬としての前途への疑問も払拭された。14戦14勝のフランケルの現役時代はマイル部門での快進撃が強烈な印象を残したが、4歳時の最後の2戦は英インターナショナルS-G1、英チャンピオンS-G1と10F部門のG1で完勝を収めており、全弟ノーブルミッションはやはり10F部門でタタソールズゴールドC-G1や英チャンピオンS-G1に勝ち、繰り上がりとはいえ2400mのサンクルー大賞-G1にも勝って、むしろ中長距離馬としてG1・3勝の実績を残した。それを踏まえてガリレオ×デインヒルUSAという血統を見れば、フランケルはステイヤーの資質は秘めていたが、スピードと馬力がありすぎたがためにそのような成績になったと考えることも可能だ。母のスタセリタFRは2歳10月のデビュー戦から連勝を続け、サンタラリ賞-G1、ディアヌ賞-G1(仏オークス)、ヴェルメイユ賞-G1まで牝馬のG1・3つを含め6連勝を果たした。4歳時には2000mのジャンロマネ賞-G1に勝ち、5歳時は米国に移籍してビヴァリーDS-G1、フラワーボウル招待H-G1でG1・2勝を上積みし、米最優秀芝牝馬に選ばれている。その父はドイツの2400m血統代表といえるモンズーンで、祖母の父ダッシングブレードはマイラーながらシャーリーハイツ系なので長い距離にも対応する。マンハッタンカフェやブエナビスタで日本でもおなじみのドイツの名門シュヴァルツゴルト系で、こちらはブリーダーズCマイル-G1のスタインレンが出るシェーンブルンの分枝。毎日王冠-G2は上がりが速くなりすぎ、天皇賞(秋)-G1は馬場が重くなりすぎた。普通の馬場の2400m、キタサンブラックがいれば上がり33秒というレースにもならず、持てる力は発揮しやすいだろう。 |
| 優駿牝馬の時計が東京優駿より速かった年 | ||||||||
| 優駿牝馬 | 年度 | 東京優駿 | ||||||
| 優勝馬 | 天候 | 馬場 | タイム | タイム | 馬場 | 天候 | 優勝馬 | |
| ソウルスターリング | 晴 | 良 | 2:24.1 | 2017 | 2:26.9 | 良 | 晴 | レイデオロ |
| ジェンティルドンナ | 晴 | 良 | 2:23.6 | 2012 | 2:23.8 | 良 | 晴 | ディープブリランテ |
| エリンコート | 雨 | 良 | 2:25.7 | 2011 | 2:30.5 | 不 | 雨 | オルフェーヴル |
| ブエナビスタ | 晴 | 良 | 2:26.1 | 2009 | 2:33.7 | 不 | 曇 | ロジユニヴァース |
| カワカミプリンセス | 晴 | 良 | 2:26.2 | 2006 | 2:27.9 | 稍 | 晴 | メイショウサムソン |
| スティルインラブ | 晴 | 良 | 2:27.5 | 2003 | 2:28.5 | 重 | 曇 | ネオユニヴァース |
| レディパステル | 晴 | 良 | 2:26.3 | 2001 | 2:27.0 | 重 | 曇 | ジャングルポケット |
| ダンスパートナー | 曇 | 良 | 2:26.7 | 1995 | 2:27.3 | 良 | 曇 | タヤスツヨシ |
| ノアノハコブネ | 晴 | 良 | 2:30.7 | 1985 | 2:31.0 | 重 | 曇 | シリウスシンボリ |
| リニアクイン | 小雨 | 良 | 2:28.1 | 1977 | 2:28.7 | 良 | 曇 | ラッキールーラ |
| シャダイターキン | 晴 | 良 | 2:32.4 | 1969 | 2:35.1 | 不 | 曇 | ダイシンボルガード |
| ヤマピツト | 晴 | 良 | 2:29.6 | 1967 | 2:30.9 | 良 | 雨 | アサデンコウ |
| ベロナ | 晴 | 良 | 2:31.3 | 1965 | 2:37.5 | 不 | 小雨 | キーストン |
| オーカン | 曇 | 稍 | 2:33.4 | 1959 | 2:38.1 | 不 | 雨 | コマツヒカリ |
| フエアマンナ | 小雨 | 稍 | 2:33.4 | 1956 | 2:36.1 | 重 | 雨 | ハクチカラ |
| ヒロイチ | 曇 | 良 | 2:32.4 | 1955 | 2:36.3 | 不 | 雨 | オートキツ |
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○キタサンブラックは前年の覇者。牝馬はジェンティルドンナが連覇し、ブエナビスタも2年連続1位入線したが、牡馬の場合、あのテイエムオペラオーでさえ2年目の5歳時は3歳馬ジャングルポケットにクビだけ差された。チャンピオンの秋といおうかたそがれといおうか、ずっと先頭を走ってきた者にかかる重みがじわじわとくるタイミングなのかもしれない。それでも、全弟ディープインパクト産駒にあまり見ることのない持続性であるとか、不良馬場でも力を尽くす忍耐力であるとか、サンデーサイレンスUSA系の新たな展開を担っていくのはこちらの方なのかもしれないと考えるとまだまだ先のことながら興味深い。 ▲レイデオロは祖母レディブロンドUSAがブラックタイドやディープインパクトの半妹。今年はディープインパクト直系にG1勝ちが少ない(アルアインの皐月賞-G1とサトノアラジンの安田記念-G1の2勝)ぶん、一族が穴を埋める形となっているようでもある。レディブロンドUSA自身、5歳6月に函館の1000万条件戦でデビュー勝ちを収めてそこから破竹の5連勝、スプリンターズS4着で引退とわずか4カ月の現役生活で強烈な印象を残す牝馬だった。父キングカメハメハは産駒ローズキングダムが繰り上がりながら2010年のこのレースに勝ち、母の父シンボリクリスエスUSAの産駒には2014年の勝ち馬エピファネイアがいる。テイエムオペラオーを破ったジャングルポケットはその年の日本ダービー馬だから、立場としては似ている。 ヴィクトワールピサやネオリアリズムの海外での勝利、ロジユニヴァースの不良馬場での東京優駿勝利など、底力を求められる局面で強いネオユニヴァース産駒。△サウンズオブアースは昨年のこのレースの2着馬。名門クリスエヴァート系に名種牡馬ばかり配合された母の血も魅力。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.11.26
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