2017阪神ジュベナイルフィリーズ


幸運を招く1600mの旅

 故山野浩一さんが1970年に始めたフリーハンデで最初に110の壁を超えた2歳馬は1972年の阪神3歳Sに勝った牝馬のキシュウローレルで、後年の換算によるレーティングは112に達した。牡馬なら114相当の数値となり、これを超えたのはようやく1976年、朝日杯3歳Sの勝ち馬マルゼンスキーであり、牝馬は更に下って2008年ブエナビスタの113まで待たねばならなかった。キシュウローレルは翌年に紅梅賞に勝ったものの4歳牝馬特別(西)、桜花賞ともに2着に終わり、4歳時にオープンと早鞆Sに勝ったが、成績としては4戦4勝の2歳時で完結した名牝だったといえよう。
 牡馬の朝日杯フューチュリティSの勝ち馬には今でも2歳完結型がときどき見られ、それはそれで種牡馬選別のために効果を上げているはずだが、このレースは阪神の直線に坂ができて阪神3歳牝馬Sと改称された1991年以来、3歳戦、更に古馬としても活躍する将来性発露の場となった。外回りコースが設けられた2006年以降はその性格を更に強めていて、この流れは牝馬重賞路線の整備やさまざまな要因があり、このレース単独の功績というわけでもないが、26年間これだけの密度で名牝と呼べるレベルの勝ち馬が現れたことは驚くべきだ。
 その26年間で3頭の勝ち馬を送り出した種牡馬はサンデーサイレンスUSAのみであり、ディープインパクトが2頭。あとはどれも父馬が違う。シンプルな力の勝負となるコースゆえに特定の血統への偏りがないということかもしれないが、そのぶん新興勢力にも食い込みやすい場となる。この世代が初年度産駒となるオルフェーヴルは2歳種牡馬ランキングでは11位(JBISサーチ、12月4日現在)であり、新種牡馬ランキングではロードカナロア、ヘニーヒューズUSAに次ぐ3位となっている。短距離系には後れを取っているものの、エイシンフラッシュやノヴェリストIREといった中長距離系には負けていない。ただし、勝利頭数はベスト10のなかで最少であるので、牝馬に2頭の重賞勝ち馬を送り出した長打力が物をいっている。オルフェーヴル産駒の◎ラッキーライラックは母がアシュランドS-G1を逃げ切ったライラックスアンドレースUSA。その父フラワーアリーはフォーティナイナーUSA系ディストーティドヒューマー産駒で、2005年のトラヴァーズS-G1に勝った。祖母リファインメントがミスタープロスペクター系と相性の良いシアトルスルー牝馬で、3代母ステラマドリッドUSAはエイコーンS-G1など米G1・4勝の名牝。ステラマドリッドUSAの産駒には阪神牝馬Sなど重賞4勝のダイヤモンドビコー、曾孫にはマイルチャンピオンシップ-G1のミッキーアイル、NHKマイルC-G1のアエロリットなど日本での活躍馬も多い。父がノーザンテーストCANの近交馬である点を考えるとミスタープロスペクター系×シアトルスルー×アリダーという別の米国血脈で構成された母はバランスが良さそうだし、父にリューテナンドスティーヴンス、母の父にサドラーズウェルズといずれもラフショッドの子孫が潜んでいるのもおもしろい。


名牝列伝の趣もある勝ち馬一覧
年度勝ち馬人気その後の重賞勝ち(太字はG1級)
1991ニシノフラワーMajestic Light1桜花賞、スプリンターズS、マイラーズC
1992スエヒロジョウオートウショウペガサス9 
1993ヒシアマゾンTheatrical2エリザベス女王杯、京都大賞典、オールカマー、ローズS、
ニュージーランドT4歳S、クリスタルC、クイーンS、クイーンC
1994ヤマニンパラダイスDanzig1 
1995ビワハイジCaerleon4京都牝馬特別
1996メジロドーベルメジロライアン2優駿牝馬、エリザベス女王杯×2、秋華賞、オールカマー、
府中牝馬S
1997アインブライドコマンダーインチーフGB7 
1998スティンガーサンデーサイレンスUSA3京王杯スプリングC×2、4歳牝馬特別(東)、京都牝馬特別
1999ヤマカツスズランジェイドロバリーUSA1クイーンS、マーメイドS、全日本サラブレッドC
2000テイエムオーシャンダンシングブレーヴUSA1桜花賞、秋華賞、札幌記念、チューリップ賞
2001タムロチェリーセクレトUSA7 
2002ピースオブワールドサンデーサイレンスUSA1 
2003ヤマニンシュクルトウカイテイオー6中山牝馬S
2004ショウナンパントルサンデーサイレンスUSA8 
2005テイエムプリキュアパラダイスクリークUSA8日経新春杯G2
2006ウオッカタニノギムレット4東京優駿、ジャパンカップG1、天皇賞(秋)G1、安田記念
G1
×2、ヴィクトリアマイルG1、チューリップ賞
2007トールポピージャングルポケット3優駿牝馬
2008ブエナビスタスペシャルウィーク1桜花賞、優駿牝馬、ジャパンカップG1、天皇賞(秋)G1、
ヴィクトリアマイルG1
、京都記念G2、チューリップ賞
2009アパパネキングカメハメハ2桜花賞G1、優駿牝馬G1、秋華賞G1、ヴィクトリアマイルG1
2010レーヴディソールアグネスタキオン1チューリップ賞G3
2011ジョワドヴィーヴルディープインパクト4 
2012ローブティサージュウォーエンブレムUSA5キーンランドCG3
2013レッドリヴェールステイゴールド5 
2014ショウナンアデラディープインパクト5 
2015メジャーエンブレムダイワメジャー1NHKマイルCG1、クイーンCG3
2016ソウルスターリングFrankel1優駿牝馬G1、チューリップ賞G3
1991年より阪神3歳Sを阪神3歳牝馬Sに改称。2001年より阪神ジュベナイルフィリーズに改称。2006年より外回り

 もう一頭のオルフェーヴル産駒○ロックディスタウンはノーザンダンサーの近交となるが、それ以上に母の父ストームキャットの存在が大きい。ストームキャットとディープインパクトの相性の良さが他のサンデーサイレンスUSA系にも当てはまるのかはまだ未知の部分が残るが、2012〜2014年の北米リーディングブルードメアサイアーの座に君臨しているのだから、相手によらず優秀といえるのも確かだし、実際に本馬の半姉にはスペシャルウィーク産駒のタガノエリザベート、ステイゴールド産駒のキャットコインといったいずれもサンデーサイレンスUSA系の重賞勝ち馬がいる。祖母ローミンレイチェルはバレリーナH-G1などに勝った名牝で、直仔にはサンデーサイレンスUSAの代表産駒の一頭であるゼンノロブロイがいる。

 エイシンヒカリ、キズナ、リアルスティール、サトノアラジン、アユサン、ラキシスなど性別、距離を問わず既に豊富な実績のあるニックスがディープインパクト×ストームキャット。▲マウレアは桜花賞馬アユサンの全妹で、母バイザキャットUSAの産駒としてはアユサン以来のディープインパクトの牝駒となる。祖母バイザファームはトップフライトH-G1など米重賞5勝の名牝で、産駒ストームブローカーは米G3勝ちの活躍馬。ディープインパクト産駒のこのレース3勝目があるかもしれない。

 △マドモアゼルは祖母デインハーストがフライングファイヴ-G2など欧州重賞4勝のスプリンター。父ブラックタイドとスプリンター血統の相性の良さがあるかもしれない。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2017.12.10
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