2016安田記念


名マイラーは名マイラーから

 今年2歳の産駒がデビューを迎えるフランケルは2011年の英2000ギニー-G1から翌年夏のサセックスS-G1まで、芝のマイル戦だけでG1・7連勝を記録した。その後10F路線へ越境して英インターナショナルS-G1、英チャンピオンS-G1と連勝。14戦14勝で引退することになるわけだが、英愛仏のマイラーであればマイル(または1600m)のG1だけを戦って、しかも能力がずば抜けていれば連勝が可能なようなレース体系になっている。なってはいるが、実際にマイルのG1を4つ(以上)勝つというのは大変なことで、下表はブリーダーズCが創設された1984年以降の北半球出走馬でそれを達成したものを拾い上げた。名マイラーと記憶していても調べてみると3つしか勝っていなかったり、たとえばブリガディアジェラードのような70年代の名馬ではセントジェームズパレスSやクイーンエリザベス2世Sなどの大レースがG2に格付けされていたりということがあるので、名マイラー番付を考えるに当たっての叩き台としては妥当なものになっているのではないだろうか。このうち、4連勝以上しているものはロックオブジブラルタルIRE(5連勝)、ヘンリーザナヴィゲーター(4)、ワイズダン(4)、キャンフォードクリフス(5)、そしてフランケル(7)、キングマン(4)の6頭。我らがモーリスはこの春その仲間入りを果たしたことになる。日本がパート2国だった時代を代表する名馬タイキシャトルUSAはジャックルマロワ賞と国内のG1級を合わせて4勝と3連勝を達成しているが、日本馬がマイル部門のG1で連勝を続けようとすれば、かつてはこのように欧州への大遠征を敢行しなければならなかった。しかし、日本が2007年にパート1国となり、香港も来年からパート1となるように、東アジアの競馬の地位が上がったことで、一衣帯水のその先に足を延ばせば、マイル部門に限らず日港お互いにG1の連勝をめざせるだけのレース体系ができた。

 このリストの筆頭にあるミエスクは、2歳から3歳前半までサクラレイコFR、3歳後半から4歳時にはソヴィエトスターUSAというそこそこ強力なライバルがいたにもかかわらず16戦12勝2着3回3着1回のほぼパーフェクトな成績を残した。その競走成績もさることながら、主に産駒のキングマンボを通じて世界中の競馬に及ぼした影響力という点では既に歴史的な存在とさえ呼べるだろう。リアルスティールはその牝系直系の曾孫としてはブリーダーズCマイル-G1のカラコンティー、ヨークシャーオークス-G1のタペストリーに続く3頭目のG1勝ち馬となった。祖母はムーランドロンシャン賞-G1などマイルG1・3勝のキングマンボやフォレ賞-G1 2着のミエスクズサンの全妹モネヴェッシア。その最高級の土台に、これまた当代の最高級配合といえるディープインパクト×ストームキャットを重ねた。この父と母の父の組み合わせからはこれまで、桜花賞-G1のアユサン、東京優駿-G1のキズナ、エリザベス女王杯-G1のラキシスが出ていたところ、昨年の暮れからこの春にかけての短期間に、エイシンヒカリが香港カップ-G1を、本馬リアルスティールがドバイターフ-G1を、そしてまたエイシンヒカリがイスパーン賞-G1を圧勝して海外G1・3勝を挙げた。この勢いを受けての逆転はあり得る。


G1・4勝以上の名マイラー・クラブ   (BCマイル創設以降、北半球出走馬のみ)
馬名 生年マイルG1勝ち鞍
Miesqueミエスクf1984ブリーダーズCマイル×2、ジャックルマロワ賞×2、ムーランドロンシャン賞、英1000ギニー(牝)、
プールデッセデプーリッシュ(牝)、マルセルブサック賞(2歳)
Ridgewood Pearlリッジウッドパールf1992ブリーダーズCマイル、ムーランドロンシャン賞、コロネーションS(牝)、愛1000ギニー(牝)
スピニングワールドUSASpinning Worldm1993ブリーダーズCマイル、ジャックルマロワ賞×2、ムーランドロンシャン賞、愛2000ギニー
ロックオブジブラルタルIRERock of Gibraltarm1999サセックスS、ムーランドロンシャン賞、英2000ギニー、愛2000ギニー、セントジェームズパレスS
Starcraftスタークラフトm2000クイーンエリザベスU世S、ムーランドロンシャン賞、チッピングノートンS、ストーニーブリッジS
Soviet Songソヴィエトソングf2000サセックスS、ファルマスS(牝)×2、メイトロンS(牝)、フィリーズマイル(2歳牝)
Attractionアトラクションf2001英1000ギニー(牝)、愛1000ギニー(牝)、コロネーションS(牝)、サンチャリオットS(牝)、メイトロン
S(牝)
グッドババUSAGood Ba Bah2002香港マイル×3、チャンピオンズマイル
Ramontiラモンティm2002クイーンエリザベスU世S、サセックスS、クイーンアンS、ヴィットリオディカプア賞
Goldikovaゴルディコヴァf2005ブリーダーズCマイル×3、クイーンアンS、ジャックルマロワ賞、ムーランドロンシャン賞、ロートシ
ルト賞(牝)×4、ファルマスS(牝)
Henrythenavigatorヘンリーザナヴィゲーターm2005サセックスS、英2000ギニー、愛2000ギニー、セントジェームズパレスS
Wise Danワイズダンh2007ブリーダーズCマイル×2、シャドウェルターフマイルS×2、メーカーズ46マイルS×2、ウッドバイン
マイルS×2
Canford Cliffsキャンフォードクリフスm2007サセックスS、クイーンアンS、愛2000ギニー、セントジェームズパレスS
Variety Clubヴァライアティクラブm2008チャンピオンズマイル、ゴールドチャレンジ×2、クイーンズプレート、ケープギニー
Frankelフランケルm2008サセックスS×2、クイーンエリザベスU世S、クイーンアンS、ロッキンジS、セントジェームズパレス
S、英2000ギニー
Elusive Kateイルーシヴケートf2009ロートシルト賞(牝)×2、ファルマスS(牝)、マルセルブサック賞(2歳牝)
Kingmanキングマンm2011サセックスS、ジャックルマロワ賞、愛2000ギニー、セントジェームズパレスS
モーリスMauricem2011安田記念、マイルチャンピオンシップ、香港マイル、チャンピオンズマイル
タイキシャトルUSATaiki Shuttlem1994ジャックルマロワ賞、(安田記念、マイルチャンピオンシップ×2)

 モーリスの牝祖デヴォーニアUSAは吉田善助氏が白老に開いた社台牧場が昭和5年に輸入し、以降80余年にわたって活躍馬を送り、安田記念は第五デヴォーニアを経た5代孫のフレッシュボイスが制している。第七デヴォーニアの孫メジロクインはメジロ牧場に入り、その唯一の娘メジロボサツは朝日杯や4歳牝特(東)に勝ち優駿牝馬2着、桜花賞3着などの成績を残し、子孫にはメジロドーベルをはじめ多くの活躍馬を送った。メジロボサツの孫がアメリカJCC、アルゼンチン共和国杯など重賞4勝を挙げた祖母メジロモントレーで、本馬はデヴォーニアUSAから数えて8代孫にあたる。メジロ牧場での50年ほどを経て、デヴォーニアUSAの血が再び吉田家に戻ってきたことになる。父の母の父サンデーサイレンスUSA、父の祖母の父ノーザンテーストCAN、祖母の父モガミFR、3代母の父フィディオンFRと、4代血統表に並んだ種牡馬の名前に胆振の馬産の歴史が凝縮されているようだ。

 ▲サトノアラジンはディープインパクト×ストームキャットの配合で、上り調子でG1に臨む。全姉ラキシスも重賞初勝利がG1のエリザベス女王杯だったくらいだから、一気にG1の壁を突破する力がある。

 クラレントはエリモピクシーが生んだ重賞勝ち4兄弟の次男。父は12年前のこのレースの勝ち馬ツルマルボーイを送ったダンスインザダーク。貴重なダンシングブレーヴの血を継ぐ母エリモピクシーは、エリザベス女王杯に勝ったエリモシックの全妹で、えりも随一の名門といえるデプグリーフUSA系。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.6.5
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